成績改善編 13話 “黒渦”の蹂躙

 場所は闘技館。

 夏の暑い日、中央の砂を踏みしめる影が二つ。


「只今より、戦術科一年、ギルメルル・ティラ・レックス。戦術科二年、イネッサ・ザルマキナ。両者の決闘を執り行う。これは正式な決闘であり、ポイント変動が発生する。了承するか?」

「はい!」

「ええ。了承するわ」


 片方はこの前、私が弾いた女だ。アーティファクトを粗末に扱うとかいう不良生徒。手には粗末な杖を握っている。

 彼女は財力にものを言わせてアーティファクトを使い捨てにし、とにかく決闘で弱い相手を潰しているのだ。それによって13連勝中。学園ではそれなりに強いという評価だ。


 そしてもう片方の元気な返事をするのは、私のアーティファクト【対空断戦技鉄鎖 グレイプニル】を腰に備えたギル。最初の頃のように尻尾の重さでバランスを崩していない。肉体があの頃よりも磨きがかかっている証拠だ。

 また、耳を塞ぐようにイヤーマフ状のアーティファクトも装着していた。尻尾が目立ちすぎて誰も気にしていない。


「担当教員が止めた場合、直ちに術式の行使と戦闘を中止すること。また、術式の威力に応じては、教員が術式を使用して中断させる場合もある。それに加え……闘技場を破壊し得る大規模術式もなるべく使うな。注意しろ」

「はい、承知しました」

「ふふ、止める隙があれば、だけどね」


 私とイグナイトがやらかしたせいで戦う前の口上が増えている。くすっと笑ったら周囲からじろじろと見られた。なんで私ばっかり。イグナイトのことも見ろ。

 と、ふざけるのもそろそろおしまいにしよう。

 私のアーティファクトが、ついにお披露目だ。


「では……始め!」


 教師が結界の外に移動した後、合図が下された。

 その瞬間、イネッサが杖を構えた。


「戦いは速攻で潰すに限るのよォッ! 《火炎弾フレイム・バレット》ォッ!!」


 杖の先端に、円状に炎の弾が並び、即座に連射が始まった。回転と同時に炎弾が装填され、思考コストの低さと術式の連射を可能にしている。

 だがマナの操作が乱雑だ。性能の低いアーティファクトなら、あんな使い方をすればすぐに術式回路がダメになってしまう。


 しかし、そんな心配はいらない。なぜなら。


 ――とてつもない殺気が、闘技場を満たした。


「ひぃっ!」

「なんだありゃ……黒い、渦?」


 ギルが跳躍したと同時に、その尻尾が一気に延長された。

 その長さは100メトル。それは渦を描き、ギルの周囲を取り囲んでいる。


「すみません。耐えてください」


 尻尾にマナが流れ込み、仕込まれた硬化術式が発動する。尻尾全体が硬化しつつ、鎖のようにしなやかさを保っている。

 そして、ギルが空中で身体を捻った。尻尾はその運動エネルギーを伝え、それは先端に向かうに連れて加速していく。


 超硬の尾は急激な加速を続けながらイネッサの炎弾をかき消し、加速し、かき消す。

 その先端はやがて、音を優に超える速度と、砲弾を超える運動エネルギーを伴い。


「は?――――」

「!? 《防御術式バリア》!!」


 その圧倒的な速度は、刹那で展開された教員の防御術式すら砕き。

 鋼の鞭として、イネッサの身体を直撃した。


 ◇


 圧倒的な一撃により、ギルは勝利した。

 直撃したイネッサは、《防御術式バリア》で威力を軽減されていたことで複数の骨折だけで済んだ。


 どう考えても高威力過ぎたということで教員には怒られていたようだが、対する生徒からの評判はとてもよかった。


「あの蛮族が教員のバリアを壊した!? 嘘だろ!?」

「本当だ。それどころかバリアを貫いて相手を吹っ飛ばしたんだぜ?」

「マジか……バカで野蛮なアホだと思ってた……」

「あの“白の怪物”のアーティファクトを使ったからって噂もあるが……」


 以前までの、弱い上に頭も悪いという評判が一気に払拭された。そこに私の噂が乗っかったことで信憑性が増し、「ギルメルルはヤバイ」「エナはヤバイ」の二つの噂が学園を埋め尽くしていた。



「“白の怪物”って何」

「あなたのことよ、エナ」


 ギルが話題になるのは素晴らしいことだ。正しくは私のアーティファクトが話題になるのはとてつもなく嬉しい。

 だが、私が怪物扱いされるのは少し不服だ。


「もっとあるでしょ。“アーティファクトの天才”とか“鬼才”とか。なんか悪用してるみたいじゃん」

「現実悪用していないのだから、大目に見てあげなさい。それに、怪物も天才も意味としてはあまり変わらないわ」

「まぁそれならいいけど……」


 これはあれだ。私が心の中でイグナイトを怪物扱いしたことに対する報復だ。誰が報復しているのかは知らないが、とてもやめて欲しい。


「それよりギルよ。今や“黒渦”のギルメルルなんて呼ばれて、決闘で無双しているわ」

「ピエロ先生から聞いたよ。49戦連敗してたのが……今は35連戦全勝だっけ? 【グレイプニル】のおかげだね」


 ギルが私のアーティファクトを着けて初めて決闘を行ってから数日経過していた。

“黒渦”という二つ名が自然と定着し、噂が流れた。その影響で決闘の申し込みが連続した。


「最近はもう、ギルが何連勝するかで話題が持ち切りよ」

「さすが【グレイプニル】」

「そちらも認めるけれど、ギルの実力があってこそということも忘れないようにね」

「分かってるって」


 イグナイトと雑談していると、廊下から走る音が聞こえた。

 直後、扉が勢いよく開かれた。


「すみません! 遅れました!」

「遅い。けどいいよ。順位さえ上げてくれるなら」


 遅れてギルがやってきた。これで三人が揃った。

 イグナイトがコップに術式で氷を入れ、そこに水を注いだ。


「んぐっ、んぐっ、っはー! ありがとうございます!」

「大変だね。今何位?」

「えっと、18位です」

「悪くないね。あと10位頑張って上げてね」


 空のコップを手に持ったギルが、こてんと首を傾げた。

 そうだ、この子にはまだ説明していなかった。


「9位以上に入ると、武闘祭のトーナメントで予選をスルーできるんだよね」

「武闘祭で活躍することが単位獲得の近道よ。本番で体力を温存する為なら予選は無視できることに越したことはないわ」

「な、なるほど……強くなったことで気分が高揚していましたが、単位はまだ足りないままでしたね……忘れていました」


 ギルのテンションが一気に下がった。

 事実、単位の回収はまだまだ足りていない。ギルを強くして私が得られる単位は、多く見積もっても15程度。これでも真面目に授業を受けているだけの生徒からすれば憤怒ものだろうが、私にとってはまだ足りない。

 あと33単位を埋めるには、いくつかの活動が必要だ。特別な活動が。


 その直後、扉が勢いよく開かれた。


「ハハハハハッ! 揃ったな! “白銀姫”! “黒渦”! “白の怪物”!」

「それやめて」


 そこにやってきたのはピエロ先生だ。

 そもそも私達をここに呼び出したのは先生である。なんで一番遅れてるんだよ。


 ピエロ先生は重役出勤でソファにどかっと座った。


「ではお前達に解説するぞ。国王陛下より提案されたフレイヤ学園武闘祭における新たな催し、『竜鉱技術研究機関オーズとの対抗戦』についてッ!!」




 ―――――

 後書き


 お読み頂きありがとうございました。

【グレイプニル】はまさに鉄の鞭。硬化術式によって超硬化した金属の尾を超音速でぶっぱなして、相手に叩きつけるという超単純な武装です。身体の一部なのでギルにも扱える、という暴論でしたが、ギルは使いこなせているようです。


 少しでも面白かったり、続きが気になったりしてくださると嬉しいです。

 是非作品フォローや⭐︎⭐︎⭐︎評価、お願いします。



 次回、『竜鉱技術研究機関オーズ』

 この国最高の術式、アーティファクトの研究機関についてお話します。

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