薔薇園に咲く断罪劇
むぃむぃ
終焉
処刑台の上で、私はようやく思い出した。
――ああ、ここは乙女ゲーム『薔薇園に咲く断罪劇』の世界だ。
そして私は、主人公をいじめ抜き、最後には断罪される悪役令嬢、エレノア・グランベル。
「エレノア。貴様の罪は万死に値する」
婚約者である第二王子ルシアンが、冷たい目で私を見下ろす。
周囲には貴族たち。中央にははらはらと涙を浮かべる平民聖女アリシア。
テンプレ通りの断罪劇。
だけど、私は笑った。
「……ふふ」
「何がおかしい!」
「だって、まだ知らないのでしょう?」
ゴォーン
王都中に、重たい鐘の音が響いた。
一回。
二回。
三回。
ざわめく群衆。
その瞬間、誰かが悲鳴を上げた。
「ひっ……!」
振り返った騎士の顔面が、音もなく縦に裂けた。
まるで見えない刃で切断されたように。
血と脳漿が処刑広場にぶちまけられる。
「な、なんだこれは!?」
パニックになる貴族たち。
私は拘束されたまま、静かに空を見上げた。
黒い霧。
それが、王都を覆っていた。
この世界には、乙女ゲームには存在しない“裏設定”がある。
百年前、王家は“薔薇の魔女”を封印した。
その代償として、王族は代々、“生贄”を捧げ続けている。
そして今回。
生贄に選ばれたのが――私だった。
「エレノア、お前……知っていたのか?」
青ざめたルシアンが問う。
「ええ。だって、前世で攻略本を作っていたのは私ですもの」
私は処刑台からゆっくり立ち上がった。
本来なら毒で死ぬはずだった身体は、なぜか動く。
拘束縄が、じゅわりと腐り落ちた。
黒い薔薇が、私の足元から咲き始める。
「ば、化け物……!」
アリシアが震える。
その瞬間。
彼女の背後に、“何か”が立っていた。
真っ白なドレス。
首のない女。
切断面から、どろどろと黒い液体を流している。
「――みぃつけた」
声は、どこから聞こえたのかわからなかった。
次の瞬間、アリシアの身体が消えた。
いや。
消えたのではない。
“折りたたまれて”いた。
人間の身体が、紙細工みたいに。
「いやああああああ!!」
絶叫。
逃げ惑う貴族。
次々と潰れ、裂け、捻じ曲がる。
王都は地獄になった。
私はその光景を見ながら、静かに呟く。
「ざまぁないですわね」
前世でも、今世でも。
私は散々利用された。
家族に。
王族に。
ゲームシナリオに。
だから決めたのだ。
全部壊す、と。
すると、背後から声がした。
「エレノア」
振り返る。
そこにいたのは、封印されたはずの“薔薇の魔女”。
黒いベールを被った、美しい女だった。
ただし。
彼女の指は、人間の指ではなかった。
細長く、骨だけのように白い。
「契約は成立した。貴女に、復讐の力を与えよう」
「代償は?」
魔女は笑った。
「簡単よ」
そして彼女は、私の耳元で囁いた。
「貴女の“恐怖”を、最後にいただくわ」
その瞬間、私は気づいた。
魔女が最初から狙っていたのは王国ではない。
私自身だと。
黒い薔薇が、私の心臓から咲き始める。
痛い。
苦しい。
怖い。
なのに。
私は笑いが止まらなかった。
「最高ですわ……!わたくしの最後に恐怖があればもっていきなさい!」
王都を覆う悲鳴の中。
――そして本当の断罪劇は始まる。
薔薇園に咲く断罪劇 むぃむぃ @mikimui
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