『戦闘力ゼロの【プランター】スキルだけど、ダンジョンの最凶毒沼にネギ植えたら最高級の聖域が爆誕した 〜追放された園芸職人、絶滅種のモフモフ魔獣たちに囲まれて無自覚に神の野菜を育てる〜』
第5話 神のジャガイモと、お留守番する最強のモフモフたち
第5話 神のジャガイモと、お留守番する最強のモフモフたち
「よし、次はジャガイモを植えてみよう。リュックの隅で、ちょうどいい具合に芽が出てたんだ」
「ガルルン!(じゃがいも! 新しいお野菜なの!)」
「きゅきゅーっ!(ゴロゴロしてて可愛い形なのー!)」
調査隊を優しく(空間跳躍で)追い出した後、俺たちの菜園は再び静寂を取り戻していた。
今回は、園芸職人の基本に立ち返って『種芋』の植え付けだ。芽が出たジャガイモを適度な大きさに切り、断面に草木灰(クワの木の雷撃でできた上質な灰)をまぶして、新しく用意した【プランター】のふかふかの土へと埋めていく。
「ジャガイモは土の中で育つからな。土壌の良し悪しがダイレクトに出るんだぞ」
トン、トン、と土を被せて聖水をひと回し。
すると、やっぱり始まった。
『ピキィィィィィィン!』
お馴染みとなった空間の小気味いい破裂音とともに、青々とした力強い茎葉が爆速で伸び上がっていく。
それと同時に、地下の土壌の概念がさらに強化され、周囲の芝生から黄金色の光の粒子がホタルのように舞い上がり始めた。
「よし、ジャガイモは収穫まで少し時間がかかるだろうから、その間にちょっとだけ近くの森へ『腐葉土』になりそうな落ち葉を集めに行ってくるよ」
菜園の土は完璧だが、今後のブレンド用にダンジョン産の天然素材も試してみたい。それが職人の探究心というものだ。
「フェンリル、バニー。ちょっと行ってくるから、ここを頼むな」
「ガルゥン(主、任せるの! 我らの畑は指一本触れさせないの!)」
「きゅきゅー!(ボクが悪い虫を全部パチンするの!)」
最強のモフモフ二匹に留守番を頼み、俺はシャベルと空の袋を手に、生け垣のゲートから少し外の森へと出かけた。
当の本人の俺は「ちょっとそこまでの裏山感覚」だが、ここが前人未到の最深層デスゾーンであることに変わりはない。
◇
ハルトが落ち葉拾いに出かけて、数分後。
聖域の境界線(クワの木の壁)の外側に、狂気に満ちた気配が近づいていた。
「……オオオオオ……オオオオオオン……!!」
地鳴りのような咆哮とともに現れたのは、この深層エリアの真の生態系頂点に君臨していたはずの超巨大モンスター――『地獄の番犬・冥府ケルベロス(SS級)』だった。
いつも縄張りにしていた毒沼が、なぜか突如として清らかな聖域に上書きされ、自身の拠点を失ったことで完全にブチギレていた。
三つの首から地獄の業火を噴き散らし、神聖な生け垣を消し飛ばそうと突撃してきたのだ。
だが、生け垣の手前には、ハルトにお留守番を頼まれた『二匹』が、退屈そうに座っていた。
「グルルルゥ……(おい、安眠を妨害するな三つ首の駄犬。主がいないからって調子に乗るなよ)」
フェンリルが、面倒くさそうに片目を薄く開ける。その体から放たれるのは、トマトとナスを食べて【限界突破】し、【無限魔力】を宿した本物の神威。
「ガ、ガウッ……!?」
ケルベロスの三つの首が、同時に凍りついた。目の前にいるのは、数百年前に絶滅したはずの、自分より遥かに格上の神獣。
しかも、その放つプレッシャーは図鑑にあるフェンリルの数倍、いや数十倍に膨れ上がっている。
「きゅきゅー(主のジャガイモを踏んだら、お星様にするの)」
バニーがフェンリルの頭の上で、前足をパチンと鳴らす。その瞬間、バニーの背後に【空間跳躍】の術式によって、無数の『不可視の空間刃』が展開された。一蹴りで空間を切り裂く星蝕種が、完全に神の領域の力を得ている。
ケルベロスは、本能で理解した。
(勝てるわけがない。あそこにいる二匹は、世界を何回滅ぼせるレベルの化け物だ……!!)
逃げようとケルベロスが後ずさりした、その瞬間。
「ただいまー。いやぁ、いい落ち葉がたくさん取れたよ……って、うわあ!?」
ホクホク顔で戻ってきたハルトが、生け垣の前に佇む巨大な三つ首のワンコ(ケルベロス)と鉢合わせた。
「ガルゥン!?(主、お帰りなの!)」
「きゅきゅーっ!(いい子でお留守番してたのー!)」
さっきまで魔王のような覇気を放っていた二匹が、一瞬で「きゅるん」としたペットの顔に戻り、ハルトに飛びつく。
「よしよし、お留守番偉かったな。……って、そこの大きなワンちゃんはどうしたんだ? 3つも頭があって、ちょっと辛そうだね。あ、もしかして君もお腹が空いてるのか?」
ハルトは、プルプルと生まれたての子鹿のように震えているケルベロスを見て、完全に「お腹を空かせた迷子の野良犬」だと勘違いした。
「ちょうどよかった。ほら、見てみろ。さっき植えたジャガイモが、もう収穫できそうなんだ!」
ハルトが菜園の土にシャベルを入れると、ザクッと心地よい音がして、土の中から『黄金色に発光する、ラグビーボール並みに巨大なジャガイモ』がゴロゴロと溢れ出てきた。
『個体名【神大地の黄金芋】が収穫されました。食べるだけで物理・魔法防御力が永久にMAXになります』
「よし、これを即席で『大盛りフライドポテト』にしよう!」
ハルトは手際よく黄金のジャガイモを短冊切りにし、魔導コンロのフライパンでカラリと揚げた。聖水から抽出した上質な塩をパラパラと振る。
カリッ、サクッとした極上の音とともに、香ばしいポテトの匂いが辺りに充満した。
「はい、新入りのワンちゃんもどうぞ」
ハルトが揚げたてのポテトをどっさりと葉っぱの上に乗せて差し出す。
ケルベロスは恐怖で震えながらも、その暴力的なまでに美味そうな匂いに抗えず、三つの首で同時にポテトをハフハフと貪り食った。
サクッ……じゅわぁぁぁ……。
「―――――ッ!?!?!?」
ケルベロスの三つの目が同時に見開かれ、涙がボロボロと溢れ出た。
美味い。美味すぎる。外はカリッと、中はホクホクで、濃厚な大地の甘みが口いっぱいに広がる。それと同時に、地獄の業火だった彼らの魔力が、温かく清らかな『神聖なる炎』へと完全浄化されていく。
『個体名冥府ケルベロスが【神黄金芋】により、【聖炎の神獣騎士】へとクラスチェンジしました』
「ガルン……キュ~ン……(美味い、美味すぎるの……ボクも一生ここでお留守番するの……)」
三つの首が同時にハルトの腰に頭を擦り付け、全力で尻尾を振り始めた。世界を震撼させるはずの冥府の番犬が、一瞬にして「三頭立ての従順な大型犬」へと調教された瞬間であった。
「ははは、くすぐったいって! よしよし、君も今日からウチの番犬だな。名前は……ポテトにするか!」
「ガルン!(素敵な名前なの!)」
こうして、聖域の防衛戦力に、新たにSS級(中身は神獣化)の三つ首ワンコが加わった。
◇
その頃、地上では、気絶して送り帰された調査隊からの報告書を読んだギルドマスターや国の上層部が、「奈落の毒沼が神の菜園になった!?」「SSS級魔獣がネギで手懐けられただと!?」と、国家緊急事態宣言を発令するレベルで大騒議を起こしていたのだが――。
「みんな、ポテトが揚がったぞ! 最高の青空の下で食べるフライドポテトは格別だなあ!」
「ガルルン!」
「きゅきゅー!」
「ワン、ワン、ワン!」
モフモフの楽園と化したダンジョンの最深部で、ハルトの無自覚最強農協ライフは、今日も平和に、そしてとんでもない規模で拡大していくのだった。
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