第4話 午前0時の通知
22時ちょうど。
投稿完了。
湊はスマホを机に置いて、椅子にもたれた。
「……何やってんだろ、俺」
結局、あの謎アカウントの言う通りにしている。
冷静に考えれば意味がわからない。
でも。
今日は少しだけ、昨日までと違った。
“誰にも届かない”と思っていた動画を、紗枝は覚えていた。
たったそれだけのことなのに。
投稿ボタンを押す怖さが、少し軽くなっていた。
湊は再生ページを開く。
再生数 0。
まあ、そんなもんだよな。
苦笑してスマホを伏せる。
通知を気にし続けるのが嫌で、シャワーを浴びた。
髪を乾かして、コンビニで買ったパスタを食べて、それでもまだ0時前。
結局また、スマホを手に取ってしまう。
再生数 18。
「……まあ、普通」
いつものペースだった。
だが。
更新した瞬間。
18が、42になった。
「あれ」
もう一度更新。
68。
通知欄にコメントが流れ始める。
『雰囲気やば』
『なんでかわからんけど刺さる』
『夜に見ると泣きそう』
湊は目を瞬かせた。
バグかと思った。
こんな速度、今まで一度もなかった。
心臓が変に速い。
更新。
112。
更新。
203。
「……は?」
呼吸が浅くなる。
おすすめ欄に乗った時の伸び方だった。
でも、自分の動画では見たことがない。
その時、また通知。
あのアカウント。
『今、消さないで』
湊の指が止まる。
実はさっきから、何度も“非公開”ボタンを押しそうになっていた。
急に人が来るのが怖かった。
否定される気がした。
「なんなんだよ、お前……」
小さく呟く。
返信は来ない。
でも、まるで見透かされているみたいだった。
湊はベッドに腰を下ろしたまま、画面を見続ける。
再生数 517。
一時間前まで、誰にも見つからなかった動画。
それが今、知らない誰かの夜に流れ込んでいる。
コメントは増え続けた。
『タイトル好き』
『こういう才能埋もれてるの怖い』
『なんで今まで伸びてなかった?』
その言葉が、一番刺さった。
なんで今まで伸びなかった?
湊が一番知りたかった。
内容が悪かったのか。
センスがないのか。
価値がないのか。
ずっとそう思っていた。
でももし。
本当に、“タイミング”だけだったとしたら。
午前0時12分。
スマホが鳴る。
紗枝からだった。
『見ました』
短いメッセージ。
そのあと、すぐ次が来る。
『来ましたね』
湊は思わず笑ってしまった。
「来ましたね、ってなんだよ」
でも。
その言葉が妙に嬉しかった。
誰かと一緒に、この瞬間を見ている感じがしたから。
湊は返信を打つ。
『なんか怖いです』
少し考えてから送信。
すると数秒後。
『伸びるのって、嬉しいより先に怖いですよ』
『知らない人が急に自分を見始めるから』
湊は画面を見つめる。
まるで経験したことあるみたいな言い方だった。
『紗枝さん、なんかあったんですか?』
送ったあとで、踏み込みすぎたかと思った。
しかし返信はすぐ来た。
『昔、ちょっとだけ』
それだけだった。
詳しくは聞けなかった。
窓の外では、雨が降り始めていた。
再生数は、もう1000を超えている。
人生で初めて見る数字だった。
嬉しいはずなのに。
湊の胸には、それ以上に変な感覚が広がっていた。
“もしまた止まったらどうしよう”。
“今回だけだったら”。
期待されたあと、何も出せなくなるのが一番怖かった。
その時。
また、あのアカウントから通知。
『次は、あなたが誰かを見つける番』
意味がわからなかった。
けれど。
その文章の最後に、小さく数字が添えられていた。
『5月28日 18時10分』
また日時だった。
湊は暗い天井を見上げる。
このアカウントは、一体何なんだ。
どうして、自分の未来を知っているみたいに話すんだ。
そしてなぜ。
少しだけ、救われてしまっているんだろうと思った。
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