第4話 あのカノ番外編(続投1)
「Hey 不二枚!」
「お呼びでしょうか、わらび様」
「こんなにも不二枚の名を呼びたくなるだなんて……、自分でも」
「ええ、わかります」
「だからって、別に……不二枚のこと、都合がいいとかって……」
「ええ、わかります」
「ちょっとだけ、また見せて欲しくて……、メタいかな?」
「メタいですわ、ネタ切れですか?」
ナレーター:
この冒頭のやり取りで『いちヌケた』と早々にその手を下ろすのは如何なものか。『読んで5秒でSEEスルー』というならば致し方ない。そう勘ぐりそうである。だがそれは早計というもの、チェッカーフラグのその先にある光景を目を開きもせず、ただ細めた薄目使いで見据えるだけの中堅賢者を今日も気取るというのかね!
否‼︎ 本当に見たかったのは、その少し先にあるシークエンスであろう諸君。
『ええ、わかります』(梅海苔&不二枚)
*
そんなこんなで、あの大停電から2週間が過ぎていた。
「いや、そうじゃない」
「わかりません、具体的に指示して頂かないと」
「察してくれとは言わないけどさ……」
「わらび様、そんな奥手では大事なモノを掻っ
「オレはいつだって、ちゃんとお互いを確認しあってから、」
「他の相手は、わらび様の準備を待ってはくれません」
焦れったい。だからって何時だってそうという訳じゃない。ただ自分の性質に任せて行動すれば結果的にそうなることが多いってだけ。昔から好きな物を最後に食べようと残しておいたのに、誰かと半分こする。
今更、そんなこと不二枚しじみに指摘されるまでもない。
「わらび様、このまま、」
「不二枚、待ってくれッ」
――――ー――――ーー
「オイ、
「くっ、へこむめ」
「しじみ殿、今日のプレイ時間はここまでということで」
「了解しました、とつる殿」
「しじみチャンさー、今度、梅男抜きでプレイしようよ」
「へこむ様が私めをプレイアブルするには
「ええ、わかります」(へこむ)
「お前も、わかんのかよ!!」(梅海苔)
ネッ友の通称:へこむ。自称14歳の男の子だ。ネット社会は不思議なほど国籍や年齢を意識させない。AIコンシェルジュと地声を使ったリアルタイム合成翻訳のお陰でこうして誰とでも繋がることが出来る。
現実の社会よりも遥かに世界は地続きで、知識と地位を平坦なものにしてしまった。そう、だからこそ人が人に求めるものは、もっとシンプルなものになる。
「わらび様、出汁巻様からの伝言の件、如何なさいますか」
「うーん、ちょっと悩んでる」
「サークル活動に、ご興味無いのは聞くまでもありませんが」
「よりによってオーランとかね」
「放っておくと他の男性に気移りしてしまいますよ」
「そのためだとしても、好きでもないことに時間を割くのはね」
「好きな人と仲良く過ごすがために差し出す時間です」
梅海苔わらびが渋るのは案外当然なのかもしれない。別に皆んなの前で出汁巻しらすと、公認の仲となりたいと望んでもいない。
出汁巻しらすとは大学に入ってから知り合ったので旧知という訳でもなく、距離が縮まるに従って溝を感じる。その外見や性格をなぞっていた針先は、無意識であったとしても知らなかった時間を記録した溝へと差し込んでしまう。そして耳を傾けて記録したレコードを確認してしまう。
出汁巻しらすは温厚で柔らかい口調なのは性格であり性質ではない。意外でもなくそれは受け取り側次第。彼女は積極的に人が集まる所へ赴き、気が想う所へと動いて積極的に働きかけてゆく。言わずもがなモテる人の典型であり、不二枚しじみとは表裏の存在と言える。
梅海苔わらびが消極的という訳ではない。ただ単に大勢でワイワイすることや、沢山の予定でカレンダーを埋めるのが好きではないだけ。特定の仲にある人か、二度と会うことのない人であれば至ってポジティブに動ける。
他人に時間を消費されることを良しとせず、個人的な時間が好きなだけ。ポジティブ民に言わせれば、マイペースな奴として一括りにされる類いの人である。
「良いのですか? 断って」
「入りたくなってからで良いよ」
「近くに居ないと出汁巻様も他の男性に気移りしますよ」
「そしたら慰めてよ」
「その様な前売り券は御座いません。当日の私めをお求め下さい」
「不二枚、今日はもう寝たいから、このアルバムASMRしてよ」
「じゃぁ 聴 い て く れ る か な 最新アルバムから・・・」
梅海苔わらびは、好きなアーティストの曲の歌詞、映画に小説、ドラマなど不二枚しじみのASMRを聴きながら寝落ちすることが習慣化している。睡眠の質を完全にコントロールされていることもあって、モーツァルトを聴かせ音楽栽培された植物のような青々しさを発揮していた。
高価な野菜のようにも聞こえるが、そんなことはない。ただの良質な雑草だ。
「朝です。起きて下さい、わらび様」
「うん、(ふぁぁ~ぁ)」
「今日の講義は出なくても支障はありません、如何なされますか?」
「そうだなぁ。久しぶりにセンター街の本屋でも行ってみようか」
相変わらず外の世界は人と人がぶつかる位に距離が近くても挨拶すらしない。関わる必要もない人たちだらけ。彼女からのメッセージはネットの中の混雑にどれ位ぶつかってから手元に届いているのだろう。
【受信】今日、講義に来ないの?
うん、センター街の本屋に行くから【送信】
【受信】サークル 入らないんだね
やっておきたい事があるから【送信】
【受信】どんなこと?
自分だけで出来ること探してて【送信】
【受信】例えば?
料理作ってみるとか【送信】
【受信】今晩、梅海苔くんの家に集合していい?
まだ食べさせられないよ【送信】
【受信】今日、夕飯食べれないよ~
ゴメンゴメン【送信】
そんなやり取りがあったものの、出汁巻しらすの『今日、絶対行くからね』でメールは締め括られた。
「Hey 不二枚!」
「お呼びでしょうか、わらび様」
「あのさ、料理作ることになっちゃってさ」
「いつでも言って頂ければ、わらび様の心の隙間に蒸した私めの、」
「出汁巻が来るんだ、今夜食べに」
「ウブな仮面の下には、その様な食物連鎖の呪いが」
「ナニ作ろうか」
「わらび様、これはまさに共闘プレイのチャンスなのでは」
「……、うーん(ふー)」
これは適当に喋ったら何故かそこに喰い付かれたという謎体験の一つ。梅海苔わらびは、センター街の本屋で購入した『図解 化石になるために』を読むのはお預けとなってしまった。
後にこっちは歪曲されたASMRの餌食にされてしまう。
不二枚しじみに指示されるがまま食材を購入し、マンションへと戻ってきた。
「Hey 不二枚!」
「お呼びでしょうか、わらび様」
「とっておきって何? 食材からしてカレー、肉じゃが、豚汁っぽいけど」
「ロシアンジャーマン・♡ン・デッドポテト、ロシアとジャーマンの融合が独、」
「そうゆう、ヤバいのはいいから」
「絶対盛り上がって二人の思い出になりますよ」
不二枚しじみにしてみれば揶揄い半分だろうが、梅海苔わらびにしてみれば不安を感じずにはいられない。
「不二枚……他のレシピは?」
「刺激はありませんがトルティージャが良いかと」
「それはどんな料理なの?」
「情熱的なスペインのオムレツ料理です」
「わかった。やってみるよ」
「情熱はバリカタ、カタ、普通、ヤワ、ヘニャからお選び下さい」
「どうせ普通ですよ、オレが選ぶのは」
「下ごしらえだけ済ませておいて、お二人で焼けばそれが隠し味になります」
それから準備を済ませ、出汁巻きしらすが訪れるのを今か今かとウロウロしながら待ち惚けるしかなかった。料理がどうのこうのと同じくらい、サークルの話しがスキップ不可能なムービーのように流れてくるかも、と気になっていた。
「キサゴ殿から『家を出た』と連絡があったばかりですよ」
「わかってるよ」
「お迎えはいらないと言われれば待つより他に、」
「駅のホームで突っ立って特急が通り過ぎてくのを眺めてる気分」
「音楽でも聴きますか?」
「何かさ、残りの待ち時間がわかって面白いのってない?」
「ありますよ」
不二枚しじみの際どいコスプレダンスがはじまった。
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 01%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 17%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 45%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 77%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 92%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 99%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 99%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 99%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 99%」
「ちょっと待ってね♡あと少しだよ 99%」
「・・・」
「・・」
「・」
不二枚しじみが99%から進まずに繰り返している。99%からが待ち時間本番の演出。その進捗率ってのが嘘の表示なのだと知っていても、無ければ無いでフリーズを疑い、リロードしてしまう。
ただ待ってるだけの時間を続けられない、やり直すのなんてもっと無理。
「ええ、わかります」(梅海苔)
連作短編(続投2)へ つづく
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