■「かなえは反省しない」

 放課後。


 三人は並んで歩いていた。


 夏の夕方。


 少しぬるい風。


 制服の袖が揺れる。


 真ん中を歩くのは、雨宮もか。


 前髪はピンで留めてある。


 以前なら考えられなかった姿。


 碧眼が夕陽を反射して、きらきら光っていた。


 その隣。


 朝比奈ひかりが、やたら幸せそうな顔で歩いている。


「……」


 ちら。


「……」


 またちら。


 もかを見る。


 かなえはそれを横目で見て、吹き出しそうになった。


「ひーちゃん」


「な、なに」


「顔きもい」


「は!?」


 ひかりが振り返る。


「いやなんかずっとニヤニヤしてる」


「してないし!」


「してるって」


 かなえはニヤニヤする。


 だってひかり、完全に“好きな子見て幸せな人”の顔なのだ。


 もかはその会話を聞いて少し赤くなる。


「……かなえさん、ひどい」


「え、庇うの? もかちゃん優し」


「いやそこ甘やかすなって!」


 騒がしい。


 でも平和だった。


 その時。


 かなえはふと思いつく。


 悪気はなかった。


 本当に。


 ちょっとした出来心だった。


 だから。


 ひかりの後ろへ回り込み。


 がしっ。


「ひゃっ!?」


 ひかりの胸を、両手で鷲掴みにした。


「ちょ!?!?」


 揉む。


「おぉ」


「なにがおぉよ!!」


 ひかりが真っ赤になる。


「いきなり何すんのよ!?」


「いやー存在感あるなって」


「あるけど!!」


 かなえは感心したように頷く。


「さすが夏服キラー」


「変な称号つけんな!!」


 もかは完全に固まっていた。


 目のやり場に困っている。


 でも。


 視線が、ちょっとだけ吸い寄せられている。


 かなえは見逃さなかった。


「もかちゃん」


「……は、はい」


「おっきいでしょ」


 ひかりがしゃがみ込む。


「やめろぉぉぉ!!」


「触ってみる?」


「…………え」


 もかが固まる。


 かなえは続ける。


「ふわふわだよ」


「かなえぇぇ!!」


 もかは葛藤していた。


 見たい。

 でもダメ。

 でも気になる。


 視線が泳ぐ。


 ひかりの胸を見る。


 すぐ逸らす。


 また見る。


 かなえはニヤッと笑った。


「あ、気になってる」


「っ!?」


「図星」


「ち、ちが……」


「かわいい」


 そして。


 かなえは、もかの手をそっと取った。


「かなえ!?」


 ひかりが叫ぶ。


 そのまま。


 ひかりの胸へ。


 ぽふ。


「…………」


 もか、停止。


 柔らかい。


 あったかい。


 思ったよりふわふわ。


 手が沈む。


「…………わ」


 うっとりした声。


 かなえは吹き出す。


「顔顔」


 もかは完全に“感動してる顔”だった。


 ひかりは真っ赤。


 でも。


 そんな嬉しそうなもかを見た瞬間。


「……う」


 全部許してしまう。


 なんかもう。


 かわいいからいいか、みたいな顔になる。


 かなえはそれを見て笑った。


「ひーちゃんちょろ」


「うるさい……」


 そして。


 かなえはふと。


 視線を下げる。


 もかの胸元。


 小さい。


 控えめ。


 かなえ、悪気なく。


 すっ。


「…………」


 触った。


 一瞬。


 沈黙。


 もかが固まる。


 数秒後。


「っ!?」


 びっくりして飛び下がる。


 腕で胸元を隠す。


 顔真っ赤。


「な、な、な……!?」


 かなえも固まる。


「あ」


 しまった、みたいな顔。


「あぁ……なんかごめん」


 珍しく本気で謝った。


 その瞬間。


「かなえーーーーー!!!」


 ひかり、ブチ切れ。


「お前何してんのよぉぉ!!」


「いや違っ、反射で!」


「反射で触るな!!」


 かなえ逃走。


「待てぇぇ!!」


 ひかり追走。


 夕焼けの道を全力疾走する二人。


 かなえが笑いながら逃げる。


 ひかりが本気で怒鳴る。


 そして。


 その後ろ。


 もかだけが立ち止まり。


 二人を見ながら。


「……ふふ」


 小さく。


 でも今までで一番自然に。


 楽しそうに笑っていた。


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