■かなえの場合:「真ん中」

 西園寺かなえは、ちょっと後悔していた。


 いや。


 正確には。


 殴り方、もうちょい加減すればよかったかなって。


「かなえ」


「んー?」


「お前さぁ」


 帰り道。


 前を歩きながら、ひかりがジト目を向けてくる。


「暴力的すぎるんだよ」


「正当防衛だって言ってんじゃん」


「顔面に正拳突きする女子高生いる!?」


「ここにいる」


 かなえは胸を張る。


 ひかりが頭を抱える。


 その横。


 もかが小さく歩いていた。


 今日の騒動のせいか、いつも以上に縮こまっている。


 けど。


 完全に一人で帰らせる気はないらしい。


 ひかりが当然みたいに付いてきて。

 かなえもなんとなく付いてきた。


 変な三人組だった。


 かなえは二人を横目で見る。


 ひかりは妙にソワソワしている。


 たぶん。


 昼の公開告白を思い出してる。


 今さら恥ずかしくなってる顔だ。


 なのに。


 それを誤魔化すみたいに、ひかりは突然もかとかなえの間へ割り込んだ。


「よし」


「なにが?」


「かなえは危ないから」


「は?」


 ひかりは真顔だった。


「もかを守る」


「誰から」


「かなえから」


 かなえは吹き出した。


「私そんな猛獣扱い!?」


「だってお前、躊躇なく殴るじゃん!」


「いや先に掴まれたし」


「でも顔面だったろ!」


「綺麗に入ったよねー」


「自慢すんな!」


 ぎゃーぎゃー騒ぐ二人。


 その時。


「……ふ」


 小さな音。


 二人が止まる。


 もかだった。


 俯きながら。


 小さく笑っていた。


 かなえは少し目を丸くする。


 ひかりはもっと固まっていた。


「……え」


 もかがハッとする。


 前髪の奥の碧眼が揺れる。


「あ……」


 顔が赤くなる。


「ち、違……」


「笑った!!」


 ひかりが叫ぶ。


「かなえ聞いた!? 今笑った!!」


「聞いた聞いた」


「かわいっ……!」


「声デカ」


 かなえは呆れながら笑う。


 もかは恥ずかしそうに顔を隠していた。


 でも。


 その肩は少しだけ震えている。


 笑ってる。


 かなえは、それを見ながら思った。


 ひかりは昔から、誰かを笑わせるのが好きだった。


 でも。


 今のひかりは違う。


 教室全体じゃない。


 たった一人。


 この小さな女の子を笑わせるために必死になってる。


 そして。


 その必死さに。


 もかも少しずつ、心を開いている。


 かなえは夕焼けの空を見上げた。


 なんか。


 よかったな、と思う。


 ひかりはたぶん、自分じゃ気づいてない。


 誰かに必要とされるより。


 誰かを大事にしたいと思えたことの方が。


 ずっと救いになってるって。


 かなえは二人を見る。


 真ん中で騒ぐひかり。


 その横で小さく笑うもか。


 かなえは口元を緩めた。


「青春だねぇ」


「かなえうるさい!」


「はいはい」


 怒鳴るひかりの顔は。


 前よりずっと、幸せそうだった。

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