第5話 謎その一、まゆの前かがみ事件

それでも夜には、光明寺豪の刑事モードが本格稼働する場面があった。


まゆが、やたらとメニューを覗き込むのだ。


「これ何の魚? なんか変な名前〜」とテーブルに身を乗り出す。ニットセーターの首元が、重力に従う。男性陣の視線が、磁石のように引き寄せられる。反松と三堀も、心なしか姿勢が良くなった。正座気味、と言ってもよかった。


豪の刑事モードが、無音で起動した。


しかし豪は「なるほど、目が悪いのかもしれない。メニューに近づかないと文字が読めないのだ」と判断し、初期仮説を「視力問題説」として登録した。


【光明寺豪・内心/刑事モード、しかし方向が完全に間違っている】

整理しよう。まゆはメニューを覗き込む際、必ず前傾姿勢になる。これは視力の問題だ。コンタクトか眼鏡が必要な可能性がある。帰りに眼科の話題を振るべきか。いや、初対面で眼科はない。保留。

(違う)


三度目に、まゆがメニューを覗き込んだ。


その時、豪はちらりと、まゆの顔を見た。


まゆは、こちらを見ていた。


視線が合った。


まゆは、にっこりと、笑った。


豪は、全てを理解した。


そしてあずきを見た。あずきも、こちらを見ていた。にっこりしていた。れいかも、ちらりとスマホから目を上げた。三人とも、笑っていた。


【光明寺豪・内心/刑事モード、真相到達】

……わかった。全部、わかった。視力問題説、撤回。まゆは、自分の武器を、理解している。そして、それに反応する男性陣の動きを、楽しんでいた。三人とも、知っていた。これは、罠だ。俺たちは最初から、観察されていた。

(正解である。スピードスターが今夜初めて正解した瞬間だった。しかし正解したところで、何も変わらなかった)

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