今日も子どもたちは魔法アフタースクールに嫌々通う
@karatachi23
魔法の浮きこぼれ
「マジックス・ミラクルは『魔法教室』ではありません。生活の中で『遊びながら魔法を教える』アフタースクールです」
見学に来た保護者に、いつものように教室長のナットことホープ先生が説明しているのが廊下から聞こえてくる。むしろ「優しく追い詰めながら魔法その他をやらせる」だな。生徒たちのテーブルの隣でボールの色を変えるのを手伝いながら、レイ・スティングレイは心の中でぼそっと呟いた。
「ゲームや工作を通じて、楽しく魔法を身に付けるだけでなく、集団生活の中で協調性や思いやりを身に付けるのを目標としています。成績のいい子でも、そういったことをちゃんと学んだと判断されるまで上級クラスに入れません…」
魔法が再発見されて約四十年。科学文明のさらなる発展とより便利な暮らしの実現のため、学校の科目に追加されるなど魔法は少しずつ人々に普及している。魔法に関心のある子どもたちを増やす試みとして政府公認で設立されたマジックス・ミラクル。ここには魔法が好きな子の他に、格差が非常に少ない社会にも関わらず将来子どもを「上」の職種に就かせたい、など様々な思惑の元で子どもたちが通う。
今は「魔法で楽しもう」の時間だ。物質に魔法を作用させる練習として、透明なプラスチックのボールを魔法で好きな色とトッピングに変え、その後で内側に両面テープが貼られたコーンを魔法で浮かせて付ける「アイスクリーム作り」が行われている。
「ミア、先生の指示を待って。それに足を組むのはやめて」
コーンをボールにつけようとするウェーブがかった緑の髪の子に、今日の活動担当のフェーン先生が注意した。
「だって、簡単すぎる」
ミアは憮然として言い返した。他の生徒たちが色を変えるのに四苦八苦している中、ミアの「アイス」には、ハーフアップにした肩くらいまでの髪と同じグリーンと白が渦巻き、てっぺんにはカラフルなキャンディの粒らしきものが花火のようにパチパチはじけている。
「ちゃんと他の子を待たないと」
ミアがむっとした次の瞬間、アイスクリームに大きな目と口がついて叫び始めた。
「食べて!僕を食べて!」
教室中が爆笑に包まれた。叫ぶアイスとひきつった顔のフェーン先生を見て、レイは笑いを必死でこらえる。何この絵面、超受ける。でもここの教育理念に反して小言を言われるのは面倒だ。
「みんな静かにして!」
一応レイも、混乱を収めようと試みた。何もしなかったと言われないよう、証拠は作っておかないと。その場はレイとフェーン先生によって収まったが、帰りのバスの中で、ミアはずっと「こんなとこつまんない!」と他の子たちに言っていた。
送迎から帰ってくると、疲れ切った様子のフェーン先生がホープ先生と廊下で話していた。レイは聞いていないふりをしてロッカールームに入って鍵を閉め、制服の派手な紫のTシャツ(プリントされたカラフルなロゴが魔法で光る仕様)を脱ぎながら会話に耳をそばだてる。
「最近あの子、ずっとあんな感じよ。どの子もみんな問題はあるけど、あの子がいる日は授業がなかなか進まないわ。マイロとあまり曜日が被らないだけマシだけど…」
ナットはため息をついた。
「本当はミアを進級させてあげたいんだ。もっと自由に、魔法を学ぶことだけに集中できたら、満足してああいう態度を取らなくなると思う。でも学習だけでなく子どもがそこで『生活する』のが目的の全てのアフタースクール共通のルールがあるし、ミアの保護者は彼女の才能を伸ばしたいと同時に協調性を身に付けさせたいと言っている」
「子どもがやりたいことや学びたいことを阻む親なら、行政がいくらでも踏み込んで強制できるわ。でもあの子はちゃんと習わせてはもらえてるものね…」
レイはミアが気の毒になった。でも、新人だし教えるのを担当していない自分は苦言を呈せる立場ではない。聞いてなかったふりをして二人に挨拶すると、タイムカードを押して出て行った。
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