​第17話:誾千代の面影

​ 京(きょう)の薄暗(うすぐら)い寺院(じいん)で、宗茂(むねしげ)は誾千代(ぎんちよ)との面影(おもかげ)を追(お)っていた。死(し)と隣合(となりあ)わせの戦場(せんじょう)では、互(たが)いの生(い)き様(ざま)を認(みと)め合(あ)うしかなかった。だが、今(いま)、二人(ふたり)の間(あいだ)には、領地(りょうち)という名(な)の物理的(ぶつりてき)な断絶(だんぜつ)よりも深(ふか)い、時代(じだい)という巨大(きょだい)な河(かわ)が流(なが)れている。

 彼女(かのじょ)の遺髪(いはつ)を納(おさ)めた小箱(こばこ)を指(ゆび)で|なぞり、宗茂(むねしげ)は独(ひと)り言(ご)つ。

 「我(われ)らは戦(いくさ)には勝(か)てずとも、自分(じぶん)という器(うつわ)の美(び)には勝(か)たねばならぬ」

 戦場(せんじょう)で流(なが)した血(ち)よりも、流(なが)す機(き)を逸(いっ)した涙(なみだ)の|ほうが、重(おも)く胸(むね)に残(のこ)る。宗茂(むねしげ)は顔(かお)を上(あ)げた。その瞳(ひとみ)は、雨上がり(あまあがり)の青空(あおぞら)のように、冷(つめ)たく、そして純粋(じゅんすい)に澄(す)み渡(わた)っていた。

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