【第2章ー浪人という名の荒野 】​第16話:残照の京

​ 柳川(やながわ)を追(お)われた宗茂(むねしげ)が辿(たど)り着(つ)いたのは、徳川(とくがわ)の威光(いこう)が京(きょう)の路地裏(ろじうら)まで覆(おお)い尽(つ)くす、冬(ふゆ)の都(みやこ)であった。栄華(えいが)を極(きわ)めた|かつての猛将(もうしょう)が、雨漏(あまも)りのする狭(せま)い長屋(ながや)で、古(ふる)びた布団(ふとん)に身(み)を投(な)げ出(だ)している。

 炭(すみ)も尽(つ)き掛(か)けた炉(ろ)の前(まえ)で、宗茂(むねしげ)は己(おのれ)の指先(ゆびさき)を見つめた。太刀(たち)を握(にぎ)る硬(かた)い胼胝(たこ)が、時代(じだい)の変容(へんよう)に合(あ)わせて静(しず)かに消(き)えようと|し|ている。

 「殿(との)、今日(こんにち)の糧(かて)は……」

 供(とも)の若侍(わかざむらい)の声(こえ)には、空腹(くうふく)よりも主君(しゅくん)を支(ささ)え|きれない悔(くや)しさが滲(にじ)む。宗茂(むねしげ)は苦笑(くしょう)した。

 「空(そら)が広(ひろ)いな。柳川(やながわ)の空(そら)よりも、此処(ここ)の空(そら)は何(なに)か急(せ)いておる」

 宗茂(むねしげ)の眼(め)には、覇気(はき)ではない、別(べつ)の色(いろ)――すべてを失(うしな)った者(もの)だけが持(も)つ、透明(とうめい)な諦念(ていねん)と、それを上回(うわまわ)る静(しず)かな闘志(とうし)が宿(やど)っていた。

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