二君の忠臣

麝香連理

プロローグ

「けっへっへっへ!もう逃げ場はねぇぜ?」


 暗がりに包まれた森の中、松明を掲げる男たちの中心には、見目麗しい女が五人程、四方を囲まれながらも臨戦態勢で構えていた。

 しかし、各々五人はこれから起きることに酷く怯えているようだった。


「てめぇらの悪運もここまでだぜ!聖乙女の皆さんよぉ!今までは運良く依頼をこなせてたそうだが、この数を見てみろ!貴様らのために態々!俺の!配下を!総動員してやったんだ!感謝しな!」


 一際上等な武器を握るリーダーらしき男は見下すように正面にいた赤髪の少女に唾を飛ばす。

 赤髪の少女はそれを袖で拭うと、淡々と言葉を紡いだ。


「今」

「あ?」

「総動員、って言った?」


 五人の視線が把握するように動く。おおよそを確認した五人は腰を低く落とした。


「はっ!怖じ気づいたか?そのとーり!これが!マシクル様が率いる山賊団の全兵力さ!これだけありゃぁ、国一つは滅ぼせるぜ?」

「そう、なら……………業と捕まって他のアジトの情報を聞くつもりはなさそうね。」


 赤髪の少女はまるで人が変わったかのように喜色を浮かべると、極寒のような瞳をしながら腕を振った。

 急なテンションチェンジに薄ら寒さを覚えた山賊達だったが、次の瞬間、更に身の毛のよだつ経験をすることになった。


「あ?………………え」



 言葉の意味を理解できなかったマシクルは、そのまま永遠にその言葉を理解することはなく、鼻の位置に横の線が浮かび上がる。

 そのままズリズリと顔の上半分が落ちた。そうして重力に従うように、残りも脱力した。

 どくどくと断面から流れる赤黒い液体を認識した周りの山賊は、驚愕によって顔面が蒼白となった。


「か、頭ァ!?」

「てめぇ!なにしや」



「早く終わらせるわよ。」


 マシクルという名を持っていた遺体のすぐ近くにいた配下の心臓をトンッ、と一筋の矢が流れるように向かい、命中した。

 青い髪を流しながら涼しい顔で矢をつがえるのは、冒険者パーティ【聖乙女】のアーチャー、ミケイト。

 速射の名人と謳われる彼女の指捌きの前では、山賊達は武器を振るう暇すらない格好の的に成り下がっていた。



「おっけー!」


 ミケイトの声に反応したのは茶色の毛並みを持った駿猫族である【聖乙女】のヒーラー、クーニュ。

 懐に忍ばせていた袋をポイポイポイと山賊達に投げつけるが、それはそのまま地面に落ちた。好機と見た男たちはクーニュに襲いかかろうとするも、バンッ、という破裂音と共にその周辺にいた山賊と地面下1m程が消失していた。



「うるさいでしょうが!それに大切な資源を消すな!バカ!」


 耳に手を当てながら無詠唱で魔法を繰り出すのは【聖乙女】のメイジ、アマーロ。

 この森のツタを操り、殺傷能力の低い魔法で次々と山賊を宙ぶらりんにさせる。男たちは踠き抵抗しようと試みるも、段々とツタによってからめ捕られていく。それらをまるで自分の財産を数えるように、紫色の髪を一つ結びにすると、戦場であることを忘れてにやけた顔で勘定を始めた。



「ハァ……この森、王家の直轄領何ですけどねぇ。始末書の作成、私なわけですけど、ねぇ?」


 仲間への怒りを山賊にぶつけるように徒手空拳で山賊に腹パンをかますのは【聖乙女】のシーフ、サズ。

 的確に意識を刈り取ると、そのままアマーロの方へ放り投げるのは、まさに熟練の技とも言えた。

 夜闇に紛れる黒い髪と俊敏な動きは、山賊達を混乱させ、既に集団としての統率は無いに等しかった。



「よぉし!暴れるぞぉー!」



 最初に動いた赤髪の少女、【聖乙女】のリーダーでありパラディンのカーラ。

 大剣を頭上でブンブンと振り回し、はしゃぎながら山賊達に突撃していく。


 その後はスプラッター映像以外見所が訪れることはなかった。















「ッハァー!終わった終わったァ!」


 焚き火を囲む五人の周りには、夥しい亡骸が放置されていた。森には鉄の匂いが充満しており、それを風が物悲しげに木々を揺らす。

 そんな感傷的な気持ちなど知ったこっちゃないと、携帯食を口に入れ終えたカーラは、手頃な丸太から草の生えた地面に寝転がる。現在は血の海とも言えるが、そもそも全身が血塗れの現状、カーラが気にする問題は存在しておらず、それを注意する人間もこの場にはいなかった。


「……チッ、矢が三十七本無いわ。こんなのに無駄遣いなんて最悪ね。」


 矢筒を確認して舌打ちをしたミケイトは、近くにあった亡骸を蹴り飛ばす。反動で首が取れて頭が吹っ飛んでいき、一本の木に命中して潰れたが、それを気にする人間もこの場にはいなかった。


「今日はあんまり収穫無かった………やっぱり可燃性の爆弾こそ至高だよぉ………」


 切断された丸太の上に顔を乗せて、しょんぼりしているクーニュは、新たに複数の火薬をブレンドしてオリジナル爆弾を作り始めていた。

 そんな焚き火の近くで危ないものを作るなと言う人間はこの場にはいなかった。


「危ない危ない、誤爆する前に今日の戦利品を肉壁にでもしようかな。」


 肉体労働が出来る下僕を手に入れたアマーロは、上機嫌にクーニュの行動にニヤニヤと笑いながら、傍で宙吊りにされている男を数名引き寄せて頬を人差し指でグリグリと押し込んでいた。なんなら人命を無駄遣いしようとしているが、それを咎めるものはこの場にはいなかった。








 ただ一人を除いて。



「カーラ、私達は苦戦をするフリをしろと王命を受けていますが、それでは逆に民衆に恐怖を与えます、鎧はまだしも、顔の汚れは落としなさい。私達は民衆に愛と希望を向けられる象徴なのですから。

ミケイト、不足分は報酬とは別に王家からいただいていますよね?まさかちょろまかしてないですか?今回は黙っておきますが、次はありませんよ。

クーニュ、即刻止めなさい。ここが王家の直轄地と言いましたよね?貴女が問題を起こせば、貴女の種族の立場を危うくします。短慮は控えなさい。

アマーロ、奴隷でも価値のないクズでも我が国では人として扱う義務があります。その辺、よく理解していると私は思っていますし、頭の良い貴女なら分かるのでは?」



 唯一立った状態で的確に四人の問題行動を指摘するサズ。

 しかしそれに負けじと反論し始める四人。同時に。

 


「でも、疲れたよぉ!弱いフリして敵を誘い込んで倒して、それをあたかもまぐれでしたってやるの!私もうや!ホントは強いって言いたい!ちやほやされたいー!」

「ちょろまかすなんて失礼じゃなくて?矢は有限なのよ、ステゴロ女と違ってね!私は優雅に戦ってるの!手先の不器用な貴女に分かるのかしら!?弓の引き方!とっても難しいのよ!」

「爆弾はロマンだよ!サズのわからず屋!僕の麻痺毒爆弾で二つ前の敵を簡単にやっつけたの忘れたの!?いじわる言うサズには今度仕事してる時に催涙爆弾投げつけてやるもん!」

「もーう、めんどくさいこと言わないでよねぇえ?こんなの人として認められてないんだから、バレないバレない!貴女の言う王家の御貴族様がそれを実践しているじゃない!それはどう説明するのかしら!?」


 四人が一気に捲し立てる状況に、またかと言った表情で眼鏡の位置を直すと、サズは拳を鳴らし始めた。


「良い度胸だクソガキ共。覚悟は………」


 息と共に口から放たれたサズのドスの効いた声が終わる前に、四人は黙々と焚き火を片付け、出立の準備に入った。


「………ハァー、本当に、全く。」



 アマーロはツタを使って遺体を運び、クーニュは小規模爆発で縦穴を形成、ミケイトは後方腕組現場監督をし、カーラが上から土を被せる。


 流れるような連携プレイに、サズは最初からやって欲しかったと言った表情を浮かべつつ、その間に今回の報告書を作成し、伝書鳩を飛ばした。





 これが、【聖乙女】の日常。

 国内の選りすぐりの実力と美貌を持った女のみのパーティは、国益を損なう障害の排除、及び国の安寧のために作られた人工の存在。

 民衆とは、絶対的な英雄よりも、身近に感じられる特別な存在に寛容だ。恐れることもなく、忌避することもない。かといって国へのクーデターや反旗の御輿に担がれることもない。

 彼女たちへの愛で、魔王の属国と成り果てたこの国に縛ることにしたのだ。


 もちろん、彼女達も多額の報酬と、厚待遇によってなんとか耐えていたものの、そろそろガス抜きが必要だと、サズは手紙に添えていた。




 まさかそれが、【聖乙女】の終わりを決定づけるものとなるとは知らずに。

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