第3話 “おっぱいおっぱい‼”
待ちに待った放課後。
帰宅部のエースと
シークレットモードでブラウザを開くと、アドレスバーに“ohara”と入力。数クリックの操作で、見慣れたトップページが表示される。
oharaは、とある嗜好を持った同志が集まる動画投稿サイトだ。
どんなコンセプトのサイトなのかって? ……わざわざ俺から説明しなくても、並んだサムネイルを見れば明らかってもんだぜ。
それぞれに工夫がこらされたサムネイルだが、その全てに共通する点があることに気付くだろう。
映っているのは、どれも女の子の3Dモデルばかり。しかも、どれもこれも全体的に肌色が多い。
要するに、彼女たちがちょっとえっちな格好で踊る、CG動画投稿サイト。そんなインターネット上のパラダイスこそが、oharaというサイトなのだ。
集まってくる同好の士たちは、コンセプトに沿った動画を作ってアップロードしたり、いいねを押してコメントを書いたりして、活発に交流する。その様子はさながら──紳士の社交場。
かくいう俺も、夜な夜なoharaにアクセスしては、気に入った動画のコメント欄を賑やかすのが日課なのだが──今の俺には、それよりも重要な使命があった。
「さてと、動画の伸び具合は……うわっ、もう1000イイねいってる! やっぱさすがだなあ、
Elimsというのは、
あらゆるデジタルコンテンツが
そんな彼のことを、俺は敬意をこめてElims監督と呼んでいる。
俺とElims監督との出会いは、中学の頃にさかのぼる。
その日、いつも通りにoharaを開いてデイリーミッションに挑んでいた俺は、なんとなく最後の決め手に欠ける気がしてoharaを離れ、ネットの海で遭難しかけていた。
そんなとき、偶然が重なってたどり着いたのが、Elims監督の個人ウェブサイトだった。
この頃のElims監督は、まだ監督ではなかった──その代わり、ウェブサイトには、自作の女の子の3Dモデルが大量に公開されていた。各キャラクターは別々の衣装を身にまとい、異様なほど細かく作り込まれた衣装の構造や脱衣差分が、ずらっと並んでいる。
ただそれだけのウェブサイト。でも、その光景が異様に目を引いた。
一時間以上に渡るoharaでの戦いを経て、すっかり判断力が鈍りきった俺の目から見ても、そこに並ぶ3Dモデルのクオリティはずば抜けていた。さらに、スクショの撮り方ひとつ見ても伝わる、細部へのこだわり。
人生のうちの無視できない時間をoharaに費やし、著名なモデラーは
この人はバズるポテンシャルを持ってる! 今、無名なのは……ただ、oharaに動画を投稿していないことだけが原因だ!
そう思った俺は、居ても立っても居られなくなった。必死で動画を作る方法を勉強して、流し込みといわれる、
こうして、Elims監督のモデルを勝手にダンス動画へと作り変えた俺は、それを
一応、サイトにあったモデルの利用条件は確認した。けれど、割と無茶苦茶なことをしたものだ。怒られても文句は言えなかったと思う。
幸いなことに、俺が作った動画を見て乗り気になったElims監督は、その勢いで共同制作を依頼してきて、一緒にoharaの動画を作る日々が始まった。
こんなのは結果論でしかないけれど──あのときの俺の衝動が完全な的外れではなかったことは、監督のユーザーページに表示された数字が物語っている。
とんでもないスピードで新しいモデルを作る監督のおかげで、共同制作した動画の数はすでに20を超えた。動画につくイイねの数も、動画を上げるたびに際限なく増え続けている。
いつの間にか監督がこんなに有名になって、嬉しいような寂しいような…………複雑な気分だな。追いかけていたインディーバンドが売れたときの気分って、きっとこんな感じなんだろうなあ。
……ま、そんなの今はどうでもいいか。それよりも。
「アップロードしたのは昨日の夜なのに、コメントもそろそろ100超えそうじゃん」
ワクワクしながらコメント欄を開く。
『最高!』
『エロい』
『おっぱいおっぱい‼』
『エフェクトも地味にいい。どんどん上手くなってる』
勢いだけの賞賛コメントにまぎれて、ひときわ理性的なコメントが目に留まる。短いコメントを何度も読み返して、喜びがじわじわとあふれてくる。
「っっっっしゃー! よくわかってるな‼」
なんでこんなに喜んでいるのかって? そりゃ当然、共同制作での俺の仕事は、エフェクトの作成がメインだからだ。
Elims監督、最初は動画の作り方なんて全く知らなかったのにな……。乗り気になった途端に技術をどんどん吸収して、あっという間に俺を追い抜かしていっちゃうなんて、才能のある人は怖いよ。
……それでも、毎回『共同制作』という
なんたって、監督と話しながら動画制作をする時間が、一日で一番の楽しみだからな。
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