第10話 忠義の行く末
徳川家康様……。
本当に、宜しかったのだろうか?
一抹の不安は、確かにある。
大量に運び込まれていく織田軍の輸送部隊の報告を陰ながら取りまとめ、いの一番にこの戦闘を見越し、織田軍の内情を探っていた榊原康政は考えていた。
家康様は、明らかに異質であられた。
元来、一度決めた考えを容易く覆すようなお方では無い。
今まで何度も、主人の命の先を行く動きをしてきた。
言われたから動くのでは無い。言われる先を読む。これこそが、家康様の家臣である己の誇りだと疑ってこなかった。
確かに何日か前、あの日は信康様を犠牲に徳川が生き残る選択を、我等家臣団がしたはずであった。
しかし、酒井様が出立なされてから、徳川は変わった。
あの時、殿が下されたのは、信長を喜ばすためだけの冷徹な答え。
だが――あの一瞥の先には、「信康を守れ」という、言葉にせぬ真の主命が隠されていた。
回答の無い主命。
有無を言わさず課された、あまりにも過酷な試練。
――信康様を、絶対に死なせない。
あまりにも難題で、あまりにも自由な任務。
ならば、やる事は一つだ。
我が主人・家康を守るため、牙を隠して地に潜む。
酒井忠次様の如き、あえて主人から離れた「徳川の翼」となり、各々が死力を尽くして織田の腑(はらわた)を裏返す働きを見せる。それこそが、織田との圧倒的な国力差を埋める唯一の道。
各々が修羅と化せ。これが、あの眼光で課された任務なのだと、己は理解した。
しかし、一抹の不安がよぎる。
もしも己が殿の意図を読み違えており、本当にただ見限られていた時の対処も、一応は考えた。
裏切りの不信?
榊原家の汚名?
(――フッ、取るに足らない些事だな)
間違えているなら、この戦国という修羅の道、言い訳など必要無い。
ただ、首を懸ければ良いだけのこと。
この康政の首は、生まれた時からただ一つ、家康様へと繋がっておる。
なんと、簡単な事であろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます