第4話 歪み始めた昨日と今日

信康様ーー


石川数正は


その名を呼ぶと母と共に今川に囚われていた信康の幼き日を思い出す。


殿の為、徳川の為と必死で救い出したあの日


その時の功績からか私を信康様の後見人に抜擢して頂いた。


特別な感情がないと言えば嘘になる。


貴方の事を殿は如何様にされるおつもりなのか


ぼやくように呟いた。


信康様は家康様より託された大事なお方。


それと同時に家康様の生命線にもなりうるのだ。


信長の娘を嫁に持ち今川側の母をもつ男は戦場の様に上手く掻い潜る事は出来ないであろう


彼の方は良くも悪くも、まだ若く真っ直ぐすぎる。


ならばその時が来た時には…と大凡の覚悟が決まって居る中


件の手紙が話にでた。


だが妙な事があった。


それは酒井忠次を皆で見送る際の事。


なんと家康様は信長を欺くよう酒井忠次に命じた。


其れを聞いた忠次は語気を強めながら反論した。


当然である


武田の朱塗りがなす術もなく蹂躙される姿を家臣団はみている


恐怖せぬ者は


武田に押し負け無かった本多


恐れを知らない井伊の小倅ぐらい。


今の徳川では勝てないと忠次は考えておるのだろう。


何より殿もあの時は同じ感想だったに違いない。


しかし今日の殿は言葉に重みがあった。


あり過ぎた。


あの信長の如く


その後一言


時を稼げ


とだけ下知なされた。


暗黙の了解を裏切る殿、


青ざめていく信康様。


この急に現れた徳川家の違和感。


昨日とまるで違う今日に。


だが、無理に考える時間は無さそうに感じた。


何かが始まったような予感が走った。


まだ早いと思っておったが…


わしもわしの働きをせねばなるまい。

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