第15話 0点の答案用紙返却


去勢された解答用紙


カツ、カツ、カツ。


「……そこまで。全員、打鍵(ペン)を止めなさい」

神楽坂舞子先生の清楚な紺のブラウスが、解答用紙を回収する風になびく。


クラスのモブ(家畜)どもが絶望の溜息を漏らす中、教壇に戻った神楽坂先生は、手元の採点グリッドに次々とスコアをハック(入力)していった。


その絶対的な結果(マトリクス)が、黒板のホログラムプロジェクターに非情に映し出される。


【火曜一限:数学テスト】

採点ログ

【早瀬詩織(41番)】:200 / 200 点(満点)

【葛城零(40番)】:200 / 200 点(満点)

――(中略)――

【那須創 理系最底辺】:0 / 200 点(完全去勢)


「アハハハハ! 見ろよ、やっぱり0点だぜ!」


「政経の数学必須化に抗うとか言っておいて、ただのシステムのノイズじゃん!」


教室中に、エリート家畜どもの下劣な嘲笑が響き渡る。


最前列センターでは、200点満点を叩き出した葛城零(40番)が、哀愁の数式の奥から「哀れみすら価値のないバグを見る眼」で俺を一瞥した。


そして、その隣。同じく満点を取った生徒会長・早瀬詩織(41番)の【絶対裸眼】が、激しい動揺と、痛烈な失望のノイズを走らせて俺を射抜く。


(創……。あんなに大きな口を叩いておいて、私のジュピター(檻)を壊してくれるんじゃなかったの……?)


詩織の心臓が、ほのかな恋心の裏返しである「絶望」でキュッと締め付けられているのが分かった。


だが、教壇に立つ神楽坂先生だけは、清楚なポーカーフェイスの裏で、その圧倒的な美的双丘をガタガタと震わせ、赤メガネの薫子先生を意識しながら冷や汗を流していた。


なぜなら――神楽坂先生の手元にある俺の解答用紙には、


『特性方程式を用いた極限値 \alpha = \frac{1}{3} までの数式と、A党・B党の二大政党制が最終的に1:2の比率で固定化されるという、完璧な社会科学的統治論文』


が、南辰二刀流の如き鋭い筆致で完璧に書き殴られていたからだ。


解答は、100%合っている。いや、首席卒の神楽坂先生すら戦慄するほどの、完璧な政経ハック(完全正解)だった。


「……那須くん。あなたは『0点』よ。理由は……『途中式(ロジック)が、現代の教育システム(採点基準)を逸脱しているから』。そんな前時代の科挙のような我流の解法、この学園のAI採点(ルール)ではエラー(不正解)としてパージされるわ」


神楽坂先生は、薫子先生への百合の情念(嫉妬)を隠すように、冷酷な言葉で俺をなじった。


(こんな正解、認めない……っ! 薫子があなたに興味を持つなんて、絶対に許さないんだから……!)という、狂おしい百合の防壁。


つまり、俺は「分からなくて0点」なんじゃない。

【実力がシステムを超越(ハック)しすぎていたがために、嫉妬した歴史の番人(ケッヘル111)に意図的に0点を押し付けられた】のだ。


「フン……」


俺は最後列のドブ席で、学ランの胸ポケットの『三銃士』をそっと撫で、不敵に笑った。


(笑いたきゃ笑えよ、家畜ども。システム(採点基準)の檻の中でしか満点を取れねえ奴らに、大澤重秀の背中は捕えられねえ。――詩織、お前もまだ俺を信じきれてねえみたいだな)


0点という最底辺の烙印を押されながら、俺の五体に流れる那須の血脈(パッション)は、1ミリも挫けていなかった。


この不当な「0点パージ」こそが、土曜日の大階段教室、そして畿内統一大会で、エリートどものチェス盤をバキバキに粉砕する、最高の復讐(レジスタンス)の燃料になるのよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る