第2話 学園 成績序列 ヒエラルキー

!!!

『H HESM』構造設定:科目別座席指定システム(最新マトリクス)


平静京ハイエレガントスクールは、エリート養成の極致として土曜日にも冷徹に授業が行われる超進学校である。


運営母体であるオンラインゲーム会社は、生徒の精神を常に極限の覚醒状態に保ち、飽きさせないための「スタイリッシュ感覚」を徹底。


その最たるシステムが、生徒の気分転換を促すために「毎日教室が変わる」という、従来の学校の常識を覆す電脳空間の構築であった。



毎週行われる科目ごとの小テストの成績順に基づき、座席は「教壇のセンター(最前列中央)」から放射状にエリートたちが配置され、スコアが低い者ほど外側へ、そして最下位は常に「最も後ろの壁際」へと冷酷にパージされる。



一週間のサイクルは、曜日ごとにその色彩とシステムをドラスティックに変貌させていく。



◆ 月曜日:国語【クラシック・レジスタンス】


週の始まりである月曜日は、あえて電子光やホログラムのデジタル表示を一切排した、昔ながらの巨大な黒板教室へと生徒たちが集められる。


高くそびえ立つ黒板に、教師が叩きつけるチョークの白。粉雪のように舞うその粒子こそが、千年のインテリジェンスの歴史を刻む記号である。


美しい縦書きの日本語の美を調律するこの空間で、那須創の席は、最後列の窓際――チョークの粉すら一番届かない、システムの光の死角である暗黒領域に指定されていた。


◆ 火曜日:数学【デジタル・ジオメトリ】


火曜日は一転して、全面にネオンブルーの数理グリッドが床面に明滅する、最先端の電脳空間へと姿を変える。


生徒たちの思考する数式の歪みがリアルタイムでホログラム表示され、エレガントな幾何学模様となって空間を埋め尽くす。


早瀬詩織がセンターで美しいマトリクスを構築する中、創はそこから最も遠い虚無の座、最後列の中央に配置され、その数理の美を裸眼で睨みつけていた。



◆ 水曜日:英語【グローバル・ヴォイス】


水曜日の英語教室は、壁面全体が世界の主要都市のライブカメラや経済ニュースとリアルタイムで連動する、超音響空間となる。


ネイティブスピーカーのリスニング音声が、重低音となって床や座席を物理的に振動させ、生徒たちの鼓膜にダイレクトに教養をハックしていく。


創の指定席は、巨大スピーカーの死角となる、最も音がこもって聞き取りにくい最後列の隅であった。




◆ 木曜日:理科【サイエンス・サイバー・ラボ】


木曜日の舞台は、全面強化ガラスとプラチナホワイトの作業天板で構成された、冷徹極まる【理科実験室】へと変更される。


ここでの座席指定はさらに苛烈であり、成績上位のセンター席には、最新の電子顕微鏡やホログラム遠心分離機といった「個性のカスタマイズ専用機」とリンクした最高級の実験器具が与えられる。


対する最下位の座席は、実験室の最も後ろの壁際。そこは換気ダクトの排気口の直下であり、上位エリートたちがエレガントに調律した実験の「廃液の臭い」と「熱気」だけが流れ込む、最も過酷な底辺グリッドであった。


第二章の聖戦は、この硝煙立ち込める実験室の最果てから、創の泥臭い化学パッションによって引き起こされることとなる。


なる。

◆ 金曜日:社会【クロニクル・ドーム】


週末が近づく金曜日は、天井が巨大な全球型ドームとなった超情報空間へとクラスが転送される。


頭上には世界の歴史、地理的縮図、現代の政治経済のビッグデータがプラネタリウムのように圧倒的な密度で投影され、世界の構造そのものが生徒たちを見下ろす。


創の席は、ドームの最端の歪みによって、投影される文字が物理的に引き伸ばされて読めなくなっている最後列の死角であった。 



◆ 土曜日:5教科合計【アカデミック大階段教室】


そして、一週間の審判が下る土曜日。


平静京の聖域(コロシアム)と呼ばれる、全学年の同じ生徒が一堂に会する「アカデミック大階段教室」の扉が開かれる。


すり鉢状にミリ単位の席次がせり上がるこの巨大な講堂で、1週間の集大成である「週刊絶対ランキング」が、壁面全体の巨大モニターに冷徹に発表される。


不動のプラチナゴールドの光に守られ、最前列センターに君臨する早瀬詩織と葛城零。


そして、数千人の去勢されたモブ生徒たちの背中を、一番後ろの、最も高くて最も不名誉な「最上段の壁際」から見下ろす那須創。


毎日教室がスタイリッシュに変わろうとも、創の小脇に抱えられた『真紅の過去問題集(赤本)』だけは、どの曜日のグリッドにも収まることはない。


土曜日の大階段教室の最上段から、彼は静かに、平静京のすべてをハックするパッションの牙を研いでいる。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る