第4話 ただの通りすがりやけど
あと少しで出口だというのに……
私の異世界生活も前途多難だな。
「なんだコイツ? おい見てみろよ。無様に地面を這ってるウジ虫がいるぞ」
朦朧とする私に降り注いできたのは、そんな声だ。
すぐに数人の足音が近づいてきて、
「ホントだ。もうボロボロじゃねぇか。さっさと潔く死ねばいいのにな」
「そうだよなぁ。冒険者になるなら死ぬ覚悟くらいしてるだろ? そんな惨めな姿になってまで逃げ出すなんて、恥ずかしいと思わないのか?」
笑い声。
嘲笑する笑い声。
どうやら彼らは、私の姿を見て笑っているらしい。
息も絶え絶えに、私は言う。
「楽しんでもらえたなら、なによりです。それより……少し道を開けていただけると、助かるのですが……」
出口までの道は彼らに塞がれてしまった。
私が言うと、
「お前……よく見たらルーか?」
「そうみたいですね」
「こりゃ傑作だな。性悪女が無様に地面を這ってる。このまま野垂れ死ぬのが、お前にお似合いの末路だよ」
本当に私は、いったいなにをして生きてきたんだ?
なにをしたらこんなに嫌われることができる?
さらに……
私の頭部に生暖かい液体が降り注いできた。
お湯、ではなさそうだ。
微妙に茶色っぽくて、変な匂いがする。
何をかけられたのか?
それは考えないことにしよう。
前のめりに倒れていてよかった。
仰向けだったら見たくないものが見えてしまっていた。
男たちは大笑いしながら、
「おいおいやめろよ。汚えなお前」
「この女の心ほどじゃねぇよ。こんなクズ女、ゴミ以下の価値だろ」
「それはそうだけどよ。こいつ顔と体だけは良いんだから。最後に使わせてもらおうぜ」
「そりゃいいや。全員でお楽しみのあとに、ってことだな」
私の体を何に使うつもりだ。
相手ならしてもいいけれど、今の私は途中で死ぬぞ。
腹上死してやろうか。
髪の毛を掴まれて、無理やり顔を上げさせられる。
ありがたいことに全員がズボンを履いていた。
余計なものは見なくて済んだようだ。
男は私の顔を見て、
「相変わらず顔だけはキレイだな」
「ありがとう、ございます……」
「顔は100点なんだが、性格が台無しにしてるよな。総合得点はマイナス500ってとこだ」
性格でマイナス600点されてる。
まぁ性格が合わないのなら仕方がない。
「……近くに、病院はありますか?」
「病院? お前、仲間に薬師がいなかったか? あれが医者代わりだったと記憶してるが……」
「薬師、ですか……」
男たちはさらにニヤニヤしながら、
「ああ……って、追放したんだっけ? マヌケだよなぁ。お前らが追放した3人のほうが、本当は優秀だったんだよ。追放されるべき無能はお前らだったんだ。それに気が付かないで、こうやって死にかけてるわけだ」
「それは自業自得ですね」
反論の余地もない自業自得だ。
というか3人も追放したのか。
そりゃ戦力ダウンだろうな。
とにかく今は洞窟から逃げ出さなければ。
夜遊びは大好きだが、こんな状況では……
「元気になったらお相手しますので……今日のところは――」
言葉の途中で、頭が地面に叩きつけられる。
意識が遠のく。
いよいよ気絶が近そうだった。
フワフワと体が宙に浮いている感覚だ。
「バーカ。誰がお前の言うことなんて信用するかよ。そんなこと言って逃げるつもりだろ? 他の女に無理やり相手させるんだろ?」
どれだけクズだったんだ私は。
その後、何度も何度も頭が地面に叩きつけられる。
怒りというものを感じた。
過去の私のやらかしが、今の私にのしかかってきていた。
体に力が入らなくなって、意識が途切れそうになった瞬間だ。
「そのへんにしといたら? 別に殺したって得はないやろ?」
女の子の声、だった。
私の好みの女の子の声。
男たちが声に反応して、
「なんだお前? コイツの仲間か?」
「ちゃうよ。ただの通りすがりやけど」
「じゃあほっとけよ。コイツは死んでも良いクズなんだよ」
「へぇ。キミたちは、その子になんかされたん?」
「俺たちが? それは……なんにもされてねぇけど。でも噂じゃこの女、相当なクズだぞ?」
私がクズなのはなんとなく把握している。
「その子を殺す権利があるのは、直接被害を受けた子だけやで。噂程度なら見逃さられへんな」
「なんだお前……? 突然現れて、わけのわからねぇことばかり言いやがって」
「それは失礼。とりあえずウチとしては――」
その言い争いは……
今の私にとっては心地良い子守唄でしかなかった。
地面って冷たいんだな。
なんて場違いな感想を抱きながら、私は意識を手放した。
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