交わされているのは、どこか可笑しく、つかみどころのない会話。
言葉は途切れずに続いているのに、その意味をつかもうとするほど、新たな問いが浮かんできます。
何気ない言葉遊びのように始まったはずなのに、いつの間にか、可笑しさのすぐ隣に、うまく説明できない寂しさが立っている。
その感覚には、普段は見ないふりをしている心の一部へ、そっと触れられたような切実さがありました。
リンとは何なのか。
「戻る」とは、どこへ向かうことなのか。
そして、自分が自分であるとは、どういうことなのか。
けれど本作は、その答えをひとつに決めません。
軽やかなやり取りの合間に落ちる沈黙と、言葉になりきらない思い。
私は、その答えを読者へ預けてくれるような余白に、強く惹かれました。
ほんのわずかな時間で読める物語です。
それなのに、一度入り込んだ問いからは、なかなか戻ってこられません。
あなたは今、誰としてそこにいますか。
そして、戻りたい「自分」は、どこにいますか。
ジャンルという枠には収まりきらない、短くも余韻深い一篇です。