春の雨、濡れた土、ほどけていく空気、窓から届く風。
この詩集には、春が訪れるときの匂いや湿度、光の揺らぎまで、指先で触れられそうなほど繊細に描かれています。
けれど、ここで目覚めていくのは、季節だけではないように感じました。
失ったものを無理に取り戻そうとはせず、痛みや迷いを抱えたまま、それでも少しずつ日常へ帰っていく心。
「止まってもいいと 知っている」
その言葉に、前へ進むことだけが希望なのではなく、自分の呼吸を取り戻すこともまた、新しい始まりなのだと思いました。
読み終えたあとに残るのは、眩しいほどの希望ではなく、雨上がりの空気に触れたときのような、静かで柔らかな明るさです。
いつもの景色の色や風の匂いに、少しだけ耳を澄ませてみたくなる。
そんな穏やかな余韻とともに、明日の朝には小さな「良い」が落ちているかもしれないと、そっと信じたくなる詩集でした。