冒頭一文「ネオ渋谷の空は、生配信を待ち侘びるディスプレイの色だった」だけで、もう世界観を掴まされる。
識別現実(メタリアル)が日常に溶け込んだ第五次産業革命後の渋谷を、フリーの問題解決業・等々力仁と相棒のテッド・ウェンが駆け回る。二人の掛け合いが絶妙だ。テッドの「イマドキ珍しいホワイトカラー、本物の〝さらりまん〟だ!」というセリフのユーモアと、仁の「おれは時代錯誤なのさ」という飄々とした返しのリズムが、ハードボイルドの渋さとコメディの軽さを同時に成立させている。
世界観の見せ方も巧みだ。メタサイネージ、識別メタタグ、個人事情通帳アカウントブック——SF的な概念を造語で自然に描写し、説明セリフを排している。読み手が自力で世界を理解していく感覚が心地よい。
そして引きも最高だ。「シンギュラリティ・カルト」という一言で次話を読む手が止まらなくなる。今更サイバーパンクと言いながら、これほど今を感じさせる近未来SFは久しぶりだ。