機能不全をおこした家族のなかで、母に愛された兄と、母に阻害されて育った妹の物語です。
このふたりが子供時代に家族で通った喫茶店で、ひさしぶりに会った日の心理描写がすばらしく、兄妹の母に対する心の対比がとても美しい。
限られた文字数の中で登場人物たちの距離感や言葉にできない感情が巧みに描かれており、読み進めるほどに静かな切なさが心に積み重なっていきます。
特に印象的だったのは、会話の端々に漂う「本当のことを言えない理由」です。
大げさなドラマや激しい展開に頼らず、兄と妹の何気ないやり取りから少しずつ心情を浮かび上がらせる筆致が巧みで、私自身、読みながら、いつのまにか物語に入り込んでいました。
桜が咲く直前という季節設定も絶妙で、別れと始まりが同時に存在する曖昧な空気が作品全体を優しく包み込んでいます。
読み終えたあと、言葉にできなかった想いへの余韻が胸をきゅっとさせるような、短編だからこそ味わえる濃密な感情が秀逸な作品で、ぜひ多くの人に味わってほしい一作です。
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