七話 999連敗と999連勝
ここはアサクサのある一角、魔族と青年が話していた。
「デコイである俺がやりましょうか?」
青年は魔族を見つめながら言う。
「いや、奴を殺すのは私だ。お前は常に同一人物と気づかれぬように行動しろ。そして奴の動向を常に私に流せ。」
「はい。Aø様。」
青年は魔族の言葉を聞き後を去った。
——エリック、奴は私が仕留める。
それから数分後、アサクサの中心街では大きく盛り上がっていた。
何故かって?日本最強の魔法使いがこの街に来日し日本で二番目に最強の魔法使いと手合わせをするからである。
「今までに見たことのないレベルの手合わせが見れるぞ。ワクワクするな。」
「ほら、タイガ。最強の魔法使いになるにはしっかり見なさい。」
見物客たちが段々と群がり周辺がごった返してきた。
「マチルダ……。早く始めようか。早く酒飲みたいし。」
「そうだこれに負けた方が奢りな。」
マチルダは言って直ぐに後悔した。
(余計なこと言わなきゃよかった、今日金欠気味なんだよ……、いや勝てばいいのか。)
「始めようか。」
マチルダが魔力を練ると周りに鉄の塊が浮遊し始めた。
「前回よりさらに精度が上がった俺の魔法を受けてみろ!」
エリックはコートの中心で魔法で作ったパズルを解いていた。
「聞けぇ!」
マチルダはエリックにツッコむ。
(……一応日本の中での最強の二人……なんだよね?ただの馬鹿ガキにしか見えないんだけど。)
リサは遠目から見て思う。
「師匠すみません遅れました。」
遠くから青年が走ってくる。
「おぉアヤ遅かったじゃないか。」
「すみません、魔法の研究をしていたら遅くなりましたた。」
アヤはお辞儀をする。
「戦いの前にすまない。こいつはアヤ俺の一番弟子だ。いつかは俺を超える魔法使いになる男だ。」
マチルダはとても自慢げに豪語する。
「アヤ見とけよ。これは見取り稽古だ。」
「エリック始めよう。」
「本気でね。」
その瞬間二人の間の空気が変わった。
(何よ、この圧?あのエリックから出ているとは思えない。)
「
マチルダが地面に触れると一瞬で凍りつきエリックの足元を凍らせようとする。
エリックは冷静に魔力を氷に叩きつけ氷を割る。
(これで捕まったら苦労しないんだけどね。)
「
鉄が一斉に弾け、弾丸のようにエリックへ襲いかかる。
一瞬、足が止まる。
——重い。
それでもエリックは踏み込んだ。
(マチルダ前より強くなってるじゃん。)
エリックの左耳が浅く裂けた。
——血が、一筋流れる。
「マチルダ、これ受けられるかな?」
エリックは手のひらに魔力を溜める。
「
マチルダは鉄の壁の下にさらに防御魔法を貼りエリックの魔法を防ごうとする。
——しかし。
バリン
鉄の壁を全て破壊して一番内側の防御魔法まで貫く
「エリック!俺が一枚挟まなきゃ死んでたぞ!」
「そこに防御魔法をお前なら貼ることを信用して打った。」
「ったく。」
マチルダはエリックに急に詰める。
(慣用魔法の
エリックは魔法を見ただけで魔法を分析する。
「でも隙は見逃さないぜ。」
マチルダは右手を氷の爪に変化させてエリックを狙う。
「おい、それこそ死ぬだろ!」
エリックは平然と防御魔法を展開してための攻撃を防ぐ。
「エリックが信用してるなら俺もお前がそこで防御魔法を貼ると信じてた。」
「素晴らしいですね。エリックさんと師匠。ねぇ、リサさん?」
観客席でアヤが興奮する。
「そうね。あの二人お互いに心から信頼されてる……。」
(私はどうなんだろう?)
「エリック、大技、勝負といこう!」
「いいね!マチルダ。因みにそれで999勝中だからな!」
「うるせぇ!絶対今日は勝つ!」
「
「ふっ。今日は楽しかったよマチルダ」
「
エリックの太陽のような灼熱の魔球とマチルダの冷たい魔球がぶつかり合いとてつもない風が周りに走る。
リサの髪をひどくなびかせる。
観客が息を呑む。
(炎は氷と鉄に……。)
「効果バツグン……だっけ?」
マチルダの
「はぁ。魔力切れだ1000敗目だ……。」
マチルダは地べたに寝転び笑う。
「ふっ強くなったなマチルダ。だがまだ僕には届かないな。」
エリックがそう言いマチルダも笑う。
「さて、奢りだなマチルダ。」
「覚えてたかぁ。」
マチルダは財布が寒くなることを覚悟した。
「お疲れ様。エリック。というかなんで、マチルダさんに本当に殺すような立ち回りを?」
リサは模擬戦を全て見届けた感想を素直にいう。
「だから言っただろう。信頼してるからだ。」
「信頼してるからって……。」
「親友を殺せるほど僕は覚悟は決まってないよ。」
エリックは軽く笑い飛ばし中心街を後にした。
マチルダもエリックの肩を掴み、声を出して笑った。
「ったく……次こそは勝つからな」
「はいはい。じゃあ1001戦目も楽しみにしてるよ」
二人は並んで歩き出す。
見物客たちも次第に散り、中心街の喧騒はゆっくりと日常へ戻っていった。
「……で、どこの酒場行きます?」
「奢りだぞ。高いとこな」
「鬼かお前らは」
くだらない言葉が、いつも通りに交わされる。
「師匠。俺は研究に戻ります。」
アヤは、振り返らなかった。——その視線は、エリック達を見ていなかった。
——その瞬間だった。
エリックの背後から殺気を感じた。
(……?)
エリックが理解する前に、マチルダが一歩前に出た。
「——マチルダ?」
次の瞬間、何かが足元に転がった。
音は、なかった。
ただ、マチルダの右肩から先が、そこに“無い”ことだけが、遅れて理解された。
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