第24話 春奈坂46?
お客様へお知らせ
紅葉野電鉄本線 梁瀬駅~岩崎台駅間にて踏切事故が発生致しました。
架線に電気を送る影響で、紅電敷島駅~紅電室山駅間が運転休止になっております。
鋭意復旧工事中ですが、復旧の見通しは立っておりません。
なお、敷島駅~香枚井駅間で葱北本線と室山市電と紅電バスでの振替輸送が実施されています。
お急ぎのところ申し訳ございませんが、振替輸送をご利用ください。
◇ ◇ ◇
おなじみ、ゆかいな香枚井登下校組の4人。
「あちゃー、振替輸送だってさ」
「じゃあ、帰りはこっちの敷島駅だねえ」
「なんか最近、事故とか振替輸送多くね?」
「言えてるー」
「なんか、うちらついてない」
「お祓いでも受けた方がいいんじゃない、私たち」
「うーむ」
紅電敷島駅と、葱北本線敷島駅は、左程距離が離れていない。歩いて1~2分のところにある。香枚井方面、麦野原駅行きの快速電車が行き来する。
「杏子先生、また嘆いてたよ」
「おやまあ、どうして?」
「だってさ、紅電梁瀬駅までタクシーで帰らなきゃいけないってこと」
「なるほどね」
「明日は、片道5キロの坂道を自転車だってさ、大変だね」
「あいつは、日ごろお説教しすぎだよ!」
「まったくだ」
「うわっ! なんじゃこの人ゴミ!」
「隅っこの方にいましょうね」
紺と白のツートンカラーの6両編成の電車は、普段より増発しているとはいえ、お客さんを捌ききれない様子だった。
「むぎゅうう!」
「つ、潰されるー」
「もうヤダ、室山駅で降りて、室山市電に乗るううう」
「その方がいいみたいだね、沙織ちゃん」
振替乗車証、というものを4人とも持参しているので、室山市電は無料だった。人もまばらな、葱北本線、室山駅前電停のベンチ。
「はー、やっと室山に帰って来たー」
「お疲れさま」
「はー、かき氷食いてえ、ソーダでもコーラでもいい」
「こら梨音! 買い食いは禁止だぞ!」
「だって、だってさー」
「……わたし、四方堂(よもどう)電停の純喫茶知ってるんだー」
「沙織、それ本当か?」
「うん、うちのお母さんの知り合い」
「じゃあ、今日だけ特別にそこへ寄って休憩するか」
「さすがは美月さま!」
「梨音、今日だけだかんな!」
室山城が近くに見える、鍵掘が見える風光明媚な場所、四方堂電停に、純喫茶「ジュリアン」があった。
「ほんっとうに純喫茶、ってドアだなあ」
「はっとり、行こう! 入ろう! こんばんはー♪」
「あら、誰かしら。香枚井の高槻さん? あなた、中学生以来!?」
「そうでーす、振替輸送の電車がメチャ混みで、疲れましたー」
「まあまあ。そんな事情が。おばさん、おしぼり持っていくから、好きなところ座って!」
お冷とおしぼりを出された4人組は、ボックスシートに収まって、言っちゃなんだけど、だらけていた。
「おばさんも、敷女OGなの。だから、事情は分かっているから、学校には内緒にしてあげます」
一同「ありがとうございます」
「はっとりは、何にする?」
「あー、わたしー? 疲れたから、アイスコーヒー無糖で4人前」
「珍しい。わたしは、ミックスジュースでいいかな、はい、梨音ちゃん」
「わたしは、宇治金時! はい、桃花、メニュー」
「そうだね、わたしは、プリンアラモードで」
「はいはい」
そう言い終わると、ジュリアンのおばさんは、ペタペタとスリッパの音を響かせながら、厨房に入ると、家政科卒のパフォーマンスを発揮して、年齢にそぐわない、見違えるような全速力でそれらを作り上げるのだった。
「あ、テレビでニュースやってる」
「本当だ」
「何をどうすれば電車があんなことになるのだろう……」
「乗り合わせてなくて良かったね」
「はい、先にドリンクメニューのお客さん、どうぞ」
沙織・美月「うわあ、ありがとうございます」
梨音「電車、すごいことになってますねえ」
おばさん「そうね、明日も来てくれてよくってよ」
梨音・桃花「いえいえいえいえ、さすがにそういうわけにも」
おばさん「そこのお二人さんは、もう少し待っててね」
そう言うと、またペタペタと厨房に入っていくのだった。お客さんは、いまのところ4人だけ。美月のところには、アイスコーヒー4人前。沙織のところには、ちまっとミックスジュース。
沙織「はっとり、なに、その量……」
美月「あー? ヤケ飲み」
梨音「美月さんって、絶対に社会に出たら呑み助になるほうだよね」
桃花「そうだよね、なに、その量」
美月「はー、この悩みは、引率者以外には分からない悩みだったりする」
沙織「そういうもんですかねー、はっとり」
美月「ちゅー、ちゅーちゅー、ごくっ、ゴビゴビ、ごっくん、ぷっはー! 美味しいね、沙織、ここのコーヒー」
沙織「でしょ?」
おばさん「はい、プリンアラモードと、宇治金時お待ちどう!」
梨音・桃花「はーい!」
◇ ◇ ◇
「はー、食った、食った!」
「食べた、でしょ、梨音ちゃん!」
「もうすぐ5時半、うちに電話しよう……」
「それもそうだな、沙織、いいところに気が付いた!」
四者四様で、自宅に帰宅が遅くなる連絡を入れる、香枚井登下校組。ごめんなさい、とか頭を下げながらだから、親は、もしかすると、心配して少し怒っているのかも知れなかった。
「それでは、私たちそろそろ帰りまーす♪」
「高槻さんたち見てたら、何だかわたしまで若返りそう! またいらっしゃい」
「お邪魔しましたー」
室山市電の四方堂電停に陣取る4人組。早速電車が来たようだ。ここから、紅電室山駅まで出て、紅電香枚井駅へと帰るコースだ。もう、あれほどの殺人的混雑は見受けられないようだった。
「おお、懐かしの紅電!」
「何を言う、梨音……」
「でも、確かに懐かしいかも」
「また、明日もこれが続くのかな? 美月ちゃん」
「そうだな、復旧工事に時間がかかるらしいから……」
「ここから先は定期券、だねー」
夕焼け小焼けで日が暮れてゆく、紅電室山駅のホーム。どうやら、各駅停車しか動いていない様子だった。
『3番線の電車は、折り返し、各駅停車・楠葉行きです』
駅係員が、アナウンスをする。
「やっぱ各駅かあ。紅電運行アプリ通りだね!」
「この際だから、ゆっくり帰りましょう、梨音ちゃん」
「あー、アタマは最高に気持ちよくなったんだけど、今度は胃が……」
「はっとり、だから言わんこっちゃない」
「この調子じゃあ、バス酔いしそう」
「そうだね……って、あ! 霜田さん! すっかり忘れてた!」
「なんだなんだ沙織ちゃん、恋の悩みかー? 里心でもついたのか、霜田さんだなんて……げはっ! ぐえっ!」
美月の肘鉄と、沙織の空手チョップが炸裂し、そして桃花が続ける。
「梨音ちゃんは一言余計」
「そうだぞ! お前、今度こそは自重しろ!」
「で、わたしは拓也さんに電話をかけるとして、はっとりは?」
「え? わたしは、あの変態おっぱい野郎の心配なんかしてない」
「……仰るとおりです」
prrrr... prrrr...
「あ、もしもし、沙織でーす。遅くなりましたー」
『ところで、いまどこ?』
「紅電室山駅を出たところですー、喫茶店寄ってましたー」
『はー、弟が死ぬほど心配していたぞ。僕も心配した。代行輸送の最中だからな』
「ごめんなさい。ごめんなさい。ほんっとうにごめんなさい」
『みんな無事かい? 葱北本線はとても混んでいたらしいから』
「ええ、大混雑がイヤで、室山市電に乗り換えましたー」
『ともかく、無事でよかった。じゃあ、気を付けて帰ってくれよな!』
「はーい、んじゃねー……通話終了っと。さてさて、はっとり?」
「は? だから何?」
「翔さんのほうがむしろ心配だったみたいで。死ぬほど心配していたって、拓也さんが言ってた」
「あー? あのゴキブリ野郎に電話するー? わたしがー? まさかー」
「はっとり、そう来ると思った」
そうこうしているうちに、電車は紅電香枚井駅に着いた。駅係員たちは、残務整理で、それどころじゃない。霜田拓也も、例外ではなかった。
「なーんか、お客さんのクレーム対応というか、何というか……」
「そうだな、ここはリアルJKがいていい雰囲気じゃないな、沙織」
「怒れるサラリーマンたち!」
「しーっ! こら! 梨音ちゃん! やめなさい、声が大きい! もし聞こえたらどうすんの!」
「すまん、桃花」
室山34系統、紅電榛名天神駅行きのバスに陣取る、香枚井登下校組。
「梨音、明日どうするよ」
「うーん、明日の紅電運行情報次第だね」
「みんなに携帯でメッセージ回せよ!」
「ラジャー! まかせとけ!」
「はっとり、バス酔いしそう?」
「いや、あの香枚井駅の人いきれで、身体中の水分が蒸発した」
「わたしも……」
「沙織ちゃん、疲れてない?」
「桃花ちゃんこそ、疲れてない?」
「疲れはしないけど、なんか、いろいろあったね」
「ほんっとうに、ただ、学校に通学するというだけで……」
「はああ……」
いつものように、春名坂を、1台のバスが登っていく。
◇ ◇ ◇
次の日――
「おはよー」
「おはようございます」
学級委員長の、私市(きさいち)かなえさんを、香枚井登下校組の4人がみつけて、呼び止めた。私市さんは、登下校時は、いつもひとりぼっちだ。高槻沙織が呼びかける。
「私市さんって、どこから来てるの?」
「えー、わたしは、紅電麦野原駅からだよ? どうしたの?」
「え! 麦野原! 終点じゃん! うちら、急行で香枚井からなんだけど、時間どうやって間に合わせてるの?」
「まあね、特急メイプルライナー3号で来ると、ちょうど紅電敷島駅に今頃つくの。この特急に乗りそびれると、アウトだね」
「たしかに」
「絶対に寝坊できないね」
「そう、1本逃すと、午前9時台の特急電車しかないから。後は、地道に早起きして、6時台の各駅で楠葉まで出て、そこから急行だね」
「もしかしたら、一緒の急行に乗り合わせているかもね」
「すげえ! 私市さん、すげー! わたしが一番びっくりした!」
「ははは、梨音ちゃんまで、ふふふ」
「有料特急に乗って通学する気持ちってどう?」
「ははは、ちょっとしたVIP気分。朝ごはんのお弁当とかサンドウィッチを買うかな、駅で、朝っぱらから」
「うわー、いいなあ、リゾート気分じゃんか、それ」
「ふふふ、でも、今日も代行輸送だから、紅電麦野高原まで1駅出て、そこから、葱北本線、麦野原駅からの特急『わかば1号』に乗ってきました」
「それもまた、リゾート気分!」
「差し支えなければ、どうやって定期券代確保したの?」
「まあね、作物作ってない土地を少しだけ売ったよ」
「農地を売る!」
「そうね、一軒だけ宅地分譲にしてね」
「儲かりまんなあー」
「すげえー、私市さん、ますます、すげえー」
「わたし、聞いてたよ、私市さんは、麦野原の地主のお嬢さん」
「ほほうー、帰り、缶ジュースでもおごってもらおうかな、4人分」
「あは、服部さんったら、照れちゃうね、朝っぱらから、ふふふ」
「お家は広いの? 夏、私市さん家で冬合宿しようよ! はっとり!」
「沙織、なんの合宿?」
「あー、なんとなく、無料で麦野原リゾート地を満喫したりなんかして、だ、なんちって」
「はああ、沙織はすぐこれだ」
「高槻さん、おかしい、ふふふ」
「ねえ、私市さん、帰り、一緒に帰ろ!」
「え、どうやって?」
「まず、あっちの敷島駅から電車に乗って、葱北本線・室山駅で降りて、振替乗車証で室山市電乗って、四方堂(よもどう)の、敷女OGがやっていて、秘密を守ってくれる喫茶店があって、そこで休憩して、紅電室山駅から特急で麦野原へGO! どう?」
「うーん、そうなったらわたし、葱北本線の特急『わかば10号』の方が何かと楽だなあ……それよりも、買い食い? 先生! 先生!」
「うわあ! 黙って! 落ち着いて! うちら決してやってないから!」
「もがっ、ぐむぐみゅ」沙織に口をふさがれている私市さん。
「おはようございます、先生、って言えよ」と、美月に耳打ちされる私市さん。
「作り笑い、作り笑いでやりすごしましょう」と、桃花に耳打ちされる私市さん。
「ばかっ、先生にチクってんじゃねえよ!」と、梨音に耳打ちされる私市さん。
全員「おはようございます、先生!」
校門の前の先生「はい、おはようございます皆さん」
香枚井登下校組「ふー」「はー」「なんとかごまかした」「焦ったー」
「良い子でいるのも大変だよ」
「服部さんって、見かけによらずアクティブね」
「そうかなあ。普通だよ。普通、あなたがお堅いだけ」
「かなえちゃんが良い子過ぎるんだよー」
「そうだそうだ」
「あはは、そうかなあ、良い子なの、あたし?」
予鈴が鳴る。これから一日のスタートだ。
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