第15話 霜田、身を挺して!


『二番線、急行、海浜神崎行きが、八両で参ります 白線の内側に下がってお待ちください』


霜田拓也の構内アナウンスが響く。朝のラッシュアワー時間帯の急行は特に、通勤客の人出が多い。上り線のホームに人があふれ返っている。白い旗を振って、電車の運転士に減速の指示を出した。


不意に、服部美月が、通勤客らにドンッと圧されて、ホーム端でよろめきそうになった。このままでは線路に落ちる。次の瞬間、恐らく、考えている間にも、電車は近づいてくる。美月がそう思った瞬間、そばのマイクに向かってアナウンスをしようとした霜田が、とっさに非常ボタンを押し、服部美月に駆け寄り、マイクを落としたまま、後ろからしゃがみ込むようにして、彼女を転落から身を挺して助けた。


「美月ちゃん、危ないっ!」


霜田の肩胛骨に、電車の側面がガツン、ガツンと何度も繰り返し当たる。幾ら非常ブレーキで減速している電車とは言え、肩胛骨には相当なダメージを受けているに違いない。電車の側面に、血糊の跡が帯状にくっついていた。ワイシャツには、血液が相当程度にじんでいた。


「い、痛ってえ……」


そう言ったきり、美月を抱き留めたまま、プラットホームの端にしゃがみ込んでしまった。かぶっていた制帽は、飛ばされて、線路下のどこかへ落ちてしまっていた。


「霜田さん!」

「わたし、携帯で救急車呼ぶ!」

「わたしは、駅員さん呼んでくる!」

「ねえ、霜田さん! ねえ! ねえったら! ねえ!」

「あまり揺さぶらない方が!」


彼は後頭部も打ったらしく、気を失っているようだった。身を挺して助けたその安堵感からか、そのまま美月におぶさるように、がっくりとうなだれた。


まず駆けつけたのが、電車の車掌と運転士だった。次に駆けつけたのが、駅長と駅員だった。まるで、眠っているかのように微動だにしない霜田を見て、美月が口を押さえて嗚咽した。霜田は、そのまま、駅員の手によって、ホームに寝かしつけられた。もし頭部を打っていたならば、無闇に動かすのは危険だと判断したからだ。


『ピーポーピーポー ウーウー 交差点に進入します 進路を譲って下さい』


やがて「室山北9」と書かれた救急車が、香枚井駅東口に到着した。沙織は、携帯電話で、担任の相川先生を呼び出し、事の経緯を説明した。救急隊は救急隊で、受入先病院を携帯電話で探していた。


「室山大附属……いや、遠い。近くの県立室山病院で。そう。お願いします」

「あの……」

「咲花台の、県立室山病院に連れて行くから、容態が落ち着いたら、お見舞いに来るといいよ。大丈夫、バイタルはあるから、大事には至らないと思うよ」

「あの、出来れば彼女も一緒に連れて行ってあげてください!」

「泣いているあの子と、慰めているあの子か……まあ、乗れなくはないな」


救急隊員が、よいしょっと、ストレッチャーを起こすと、霜田を、駅のエレベーターで運んで行った。服部美月は、その場に泣き崩れていた。


「わたし……わたしをかばって……うわあああん……霜田さん、死んじゃ嫌あああー」

美月が取り乱す。

「はっとり、落ち着いて! 一緒に救急車乗ろう?」

沙織がなだめる。

「もう泣かないで……美月ちゃん、しっかり! ね!」

桃花が慰める。

「じゃあ、沙織、美月、霜田さんのこと、よろしく頼んだ!」

梨音が続ける。

「う、うん、分かった梨音ちゃんたち……わたしたちは、救急車に乗るから……」


問題の急行電車は、室山県警の現場検証もあり、三十分遅れで香枚井駅を発車した。沙織と美月は、救急車に同乗し、県立室山病院のある咲花台へと向かった。保護者たちは、室山県立室山病院の、SICU(外科的集中治療室)へと向かった……。

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