第9話 衣替えがやって来る!

衣替えと言っても、敷女の場合は、単にセーラーと、スカートの上下が、少し生地が薄めの夏用になるだけ。他に、先輩後輩を区別するために存在するのが、徽章の七宝焼きの色表示だ。胸元の徽章を頼りに、先輩か後輩かを判断する。また、クラス番号の徽章は、普通科は、Generalの「G」が、情報処理科は、Informationの「I」が、家政科は、Homeの「H」という具合に付いている。沙織や美月たちは、「敷女・普通科G・何年何組」であり、先輩と色違いになるわけだ。徽章を取り付けているフエルトの生地が、三学年が青、二学年は赤、沙織たち一学年は緑、という色分けになる。


以前、実施されたのが、スカーフをキャビンアテンダント風にアレンジして、首に巻いて、横に流す案だ。但し、これも本格採用されなかった。なぜなら、クラスメイト同士引っ張り合いこしていて、首が絞まってしまう事故があったため、これも見合わされた。


後は、上履きのゴムの色と、体操着の色……ぐらいだ。先輩後輩を見極めるのは、慣れないうちは至難の業だ。やがて、慣れて来ると、スカーフと徽章だけで簡単に判別できるようになる。


放課後、家庭科室で――


「衣替えしたねえー」

「これで、梨音がこれ以上痴女になる可能性がなくなった」

「やれやれだねえー」

「ところで梨音、どこ行ったのかな」

「気にせず、タルトを作ろう。待ってたら時間なくなっちゃうよ!」


ガラリと扉が開いて、立花梨音がやって来た。見ると、スカートの丈が短い。


「諸君、おまたせー」

「おそようー、って言うか、何ですと!」

「夏用のスカートを?」

「へへーん、折って来ちゃった」

「またー?」

「誰に対する、どんなセックスアピールなんだよ……」

「先生ー、立花さんがスカート折って来ましたー」

「まあ、何ですって? 懲りないわねー!」

「美月ぃ、先生にチクるなんてそんな……」


やがて、被服室で、貸し出された短パン姿になった梨音は、アイロンで折りじわを、ちまちまと直すのだった。先生が沙織たちに言った。


「あの子、普通科よりも、家政科に進んだ方がよさそうねえ」

「そう思います」

「どう見ても、普通科向きではないですし……」

「でも、コンピュータの授業だけは高得点ですし……」

「ならば、情報処理科だけど」

「でも、梨音は受かんなかったし……」

「あのカスタマイズのくせは何とかして欲しい」

一同「うーむ……」


しばらくすると、立花梨音が、被服室から出て来た。


「諸君、お待たせー」

「お前には学習能力っつーもんがないのか!」

「本気で心配させやがって、こんにゃろ、こんにゃろ!」

「もう、わたしは慣れた」

「先生も、この展開には、もう飽きました」

「み、みんなああああ!」

「あー、はいはい、あんたも支度して、スイーツ作るの手伝って」

「わかりました皆さん……」


昨晩から冷蔵庫で寝かせたタルト生地を伸ばして、型に敷き込む。生地に重石を乗せ、から焼きしている間に、アーモンドクリームを作り、から焼きが終わったら、重石を取り、アーモンドクリームを生地に入れる。そうして、しっかりオーブンで焼いてから、取り出す。適度に冷めたら、全体にラズベリージャムを塗り、ラズベリーを敷き詰めれば完成だ。


「できたぁ!」

「さすがは沙織、本職だな」

「さて、問題は、どうやって取り分けるか、なんだけど」

「トルテカッターがあるから、八等分が、ちょうどいいんじゃない」

「じゃあ、そうしよう」

「今回は、チーズ入ってないから、わたしは安心した」

「じゃあ、ここで、パルメザンチーズの粉末をまぶして……」

「うおおおい! それじゃあキッシュになるだろう! チーズは苦手だ!」

「へへん、冗談だよ~ん」

「はー、お前の冗談はシャレに聞こえんから、心臓に悪い……」

「冗談か真面目か、分からない時があるから、梨音ちゃんって、ある意味怖いねー」

「あいつは油断ならん女だ……」

「じゃ、じゃあ、みんなでいただきましょうか!」

 一同「いただきます」

「あ、忘れてた! これには、紅茶が合いそうだな、桃花、お茶入れてくれる?」

「うん、持ってくる!」

「わたしも手伝うよ、桃花ちゃん」

「ごめんね沙織ちゃん」

「いいって、いいって!」

「ポットにカップとソーサーにお砂糖にミルク……一人じゃ持てないでしょ?」

「確かに……」


お茶の準備が出来たところで、改めて……


 一同「いただきまーす」

「おい、沙織、いただきます、したか?」

「いただきます!」

「よし」

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