浪速陰陽師、ゲルマン美人にこける?~ 恋とグルメと陰陽師!浪速カップルの珍道中 ⑧ ~天災科学者の大暴走!バルト海・黄金のUボート編 ~
月影 流詩亜
第1話 発端は「シュバルツバルトV8」と独裁科学者
「……ああ。ワイの人生、マイナス200兆からスタートや。もはや国家予算レベルの絶望やで、海里……」
大阪某所、初夏の昼下がり。
兵庫・猪名川での埋蔵金200兆円。
指先をかすめたはずの黄金は、タヌキ親父と眼鏡の役人の手によって「国庫」という名の異次元へ消えた。残されたのは、由利凛への機材修理代と、海里への借用書、そして「子供銀行券・パンダ版」の束だけである。
「いつまでもナメクジの真似してんと、早よ立ち。畳に不運の粘液がつくやろ」
キッチンで、特売の鶏胸肉を「薄く、いかに牛肉に見えるか」という執念で削ぎ切りにしていた
「無理や……。ワイの魂は今、バルト海の深海よりも深く沈んどるんや。……ん? バルト海?」
こけるが反応した瞬間、彼のスマートフォンが「ガガガッ! ピーヒョロロ!」と、1990年代のダイヤルアップ接続のような怪音を立てた。
『こけるよ! 朗報じゃ!
スピーカーから響くのは、鼓膜を直接突き刺すような高音。大江戸グループの天災科学者、
「由利凛……。お前、前回の猪名川でワイにパンダの札束掴ませた前科を忘れたわけやないやろな。ワイは今、疑り深さにかけてはシャーロック・ホームズ以上やで」
『些細なことじゃ! それより聞け、ドイツのバルト海に沈むUボートから、凄まじい「黄金の霊子反応」が検出されたのじゃ!
それも、ただの金塊ではない。飲めば三日三晩ナンパし続けても疲れないという伝説の「不老不死の黄金ビール」が積まれているという噂じゃ!』
「……不老不死の……黄金ビール?」
こけるの脳内で、最も残念な変換回路が火を噴いた。
(黄金のビール……ドイツ……金髪のゲルマン美人……。
せや! ドイツ語でUボートの『U』は『You(キミ)』、ボートは『Boat』。つまり、『キミとボートで混浴ビールデート』の略に違いないッ!)
「由利凛、話に乗った! ワイの霊感が、今まさにドイツの『アモーレ』ならぬ『リーベ(愛)』に感応したわ!」
『話が早くて助かるのじゃ。すでに移動手段は確保済みじゃ。海里ちゃんも、嵐兄ちゃんも、英里香ちゃんも、まとめて強制連行……もとい、招待済みじゃから安心せい! 10分後に迎えの何かが行くぞ!』
「えっ、海里たちも? ……って、10分後!? ちょっと待て、パスポートが……」
プツッ。通話が切れた。
「……由利凛の奴、何企んどんねん。海里、聞こえたか? 今からドイツやて」
海里は包丁を置くと、エプロンを外しながら不敵に笑った。
「ドイツか……。ええやん。猪名川の赤字、本場のソーセージとビールで相殺したるわ。
あっ、ついでに嵐さんらも来るんなら、アイツらの『貸し』も清算させんとあかんな」
「(……怖っ。海里、目が笑っとらん……)」
10分後……大阪の住宅街に、不釣り合いな重低音が響き渡った。
「な、なんや!? 地震か!?」
アパートの外に飛び出したこけると海里が見たのは、路地を時速3キロで這い回る、巨大な「ソーセージ型」の物体だった。
「ハッハー! 待たせたな、こける!」
物体のハッチが開き、中から出てきたのは、警視庁の熱血刑事・大江戸嵐である。
しかし、その格好はいつものスーツではない。なぜかドイツの民族衣装「レダーホーゼン(半ズボン)」を無理やり着込まされ、股間がパツパツになっている。
「あっ、嵐!? 何やその、羞恥プレイみたいな格好は!」
「うるさい! 俺だって望んで着てるわけじゃない! 由利凛に『これを着ないと霊気センサーが作動しない』と騙されたんだ!
英里香なんて、もっと悲惨なことになってるぞ!」
ハッチの奥から、真っ赤な顔で震えながら出てきたのは、弁護士の大江戸英里香だった。彼女はフリルが過剰に付いた「ディアンドル(民族衣装)」を身にまとい、手には六法全書ではなく、なぜか1リットル入りの巨大な空のジョッキを握らされていた。
「……大江戸グループの顧問弁護士として、この人権侵害を国際司法裁判所に訴えるわ。
……でもその前に、この恥ずかしさを解消するためにドイツ中の財宝を法的に没収してやるんだから!」
「英里香さんまで……。由利凛、どこにおんねん!」
『ここじゃ、アホ面ども!』
ソーセージ型物体の屋根に、ドローンを浮かせた由利凛が降臨した。
「さあ、乗り込むのじゃ! これぞ妾の最高傑作、大陸間弾道通勤ロケット『シュバルツバルトV8』なのじゃ!」
「通勤ロケットぉ!? お前、これでドイツまで飛ぶつもりか! パスポートはどうすんねん!」
「パスポート? そんな紙切れ、成層圏では燃えカスじゃ! 『着陸した場所が自分の領土』。それが由利凛帝国のルールなのじゃ!」
「独裁者になっとるぅぅぅ!!」
「ちょ、待て! 押し込むな! 狭い! 嵐の
ソーセージ型ロケットの内部は、定員2名のスペースに無理やり4人が詰め込まれるという、まさに地獄の過密状態だった。
「こける! 動くな! 蝶子との写真がピンボケするだろ!」
嵐がスマホを掲げるが、隣にはなぜか嵐にべったりと張り付いた夜野蝶子が、「あらぁ❤️ ロケットデートなんて、嵐くんってばロマンチストぉ❤️」と、宇宙規模の天然を発揮している。
「……全員、覚悟しぃや」
海里が、こけるの腰にガムテープを三重に巻き付け、機体のフレームに固定した。
「えっ、海里、何して……」
「シートベルトが足りんからな。あんたはガムテで十分や」
「尊厳を返せぇぇ!!」
『点火! ヤッショ、マカショ!』
由利凛の適当な掛け声と共に、ソーセージの底からケチャップのような真っ赤な炎が噴き出した。
ドッゴォォォォォォォォン!!
「ぎゃあああああ!! Gが! Gがワイの顔面を餅みたいに引き伸ばしとるぅぅ!」
「英里香ちゃん、口を閉じるのじゃ! 舌を噛むぞ!」
「も、ひょーほー、せ、ぜんしょがぁー!(六法全書がぁー!)」
ロケットは大阪の空を突き抜け、音速の壁を紙細工のように突き破った。
窓の外には、丸みを帯びた地球の水平線が見える。しかし、こけるにそんな絶景を楽しむ余裕はない。なぜなら、彼の目の前には「燃料残量:たぶん大丈夫」と書かれた、由利凛の手書きパネルが踊っていたからだ。
「由利凛! このロケット、どこに着陸するんや! ちゃんと空港か!?」
『空港? そんな無粋なところには降りんのじゃ!
ドイツの心、職人の魂が集まる聖地にダイレクト・アタックじゃ!』
「ダイレクト・アタックって言うた!? 今、攻撃って言うたな!?」
マッハ5。
日本の陰陽道と、天災科学者の狂気が生み出した「ソーセージ」は、ユーラシア大陸をわずか1時間で横断し、北ドイツの古都・ハンブルグの空へと突入した。
「……おい、下に見えるの、何や? 街全体が、なんか小さい気がするんやけど」と、こけるがバイザー越しに下界を覗き込んだ。
「あ、あれは……『ミニチュアワンダーランド(世界最大の鉄道模型館)』じゃない!? 観光名所よ!」と、英里香が叫んだ。
『計算通りじゃ! あそこの「ハンブルグ・エリア」の中央駅に、ピッタリ着陸してやるのじゃ!』
「アホかぁぁ!! あれは模型や! 本物の駅ちゃうわ!!」
ヒュルルルルルルル……!!
「止まれぇぇ! ストップ! ネイン(No)! 誰かドイツ語で止まれって言うてぇぇ!」
ドッギャァァァァァァン!!
轟音と共に、ハンブルグの運河沿いに建つ美しいレンガ造りの建物の屋根が突き破られた。
静まり返った館内。
精巧に作られた模型の街並みの中央に、巨大な、そして焦げた「ソーセージ」が、まるで神の悪戯のように突き刺さっていた。
プシュー……ハッチが力なく開く。
「……げほっ、ごほっ。……ここは、どこや?」
こけるが這い出てくる。目の前には、1/87スケールのドイツ人たちが、驚いた顔で立ち尽くしていた(もちろん、プラスチック製の模型である)。
「……完璧な着陸じゃ。誤差、わずか50メートルなのじゃ」
由利凛が、瓦礫(模型の街灯)の上でポーズを決める。
「……誤差やない。大惨事や」
海里が、こけるの後頭部にこびりついたガムテープをバリバリと剥がしながら立ち上がった。
その時、館内に鳴り響く警報音。
そして、流暢なドイツ語による怒号が聞こえてきた。
「WAS IST DAS!?(これは何だ!?)」
「……嵐、出番やで。警察官の国際交流の時間や」
こけるが震える指で入り口を指差した。
そこには、現実の(1/1スケールの)屈強なドイツ人警備員たちが、芋虫のようにうごめく「ソーセージから出てきたレダーホーゼン姿の日本人たち」を見て、絶句していた。
「……俺のキャリアが、バルト海に沈む前に終わったな」
嵐の呟きが、模型の街に虚しく響いた。
浪速カップルのドイツ編。
その幕開けは、歴史上最も「恥ずべき」不時着によって記録されたのである。
── 第2話へ続く ──
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