第21話 それ、セガサターンですよねっつ!



ある日、ちょっとした用事があって、

 娘と一緒に、その恋人が家に来ることになった。


 家に上がるなり、

 恋人はきょろきょろと部屋を見回した。


 まあ、そうなるよな。

 俺の部屋は、

 人様に見せる前提で作られていない。


 段ボール。

 本棚。

 アニメのBD。

 そして、テレビ台の下。


 

 「……これ、セガサターンじゃないですか?」


 

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 いや、わかったけど、

 わかりたくなかった。


 

 「……おお。よく分かったな」


 

 恋人は少し目を輝かせた。


 

 「実物、初めて見ました」

 「本体、グレーですよね」

 「パワーメモリーも刺さってる」


 

 娘は、会話についていけず、

 二人を交互に見ている。


 

 「え、なにそれ?」

 

 「セガサターン」

 

 「なにそれ?」


 

 恋人と、

 俺の目が合った。


 

 この瞬間、

 確実に何かが通じた。


 

 「ああ……」

 「そうだな……」


 

 説明は、しない。

 する必要もない。


 

 恋人はさらに続ける。


 

 「バーチャファイター、やってました?」

 

 「やってた」

 

 「やっぱり……」


 

 この青年、

 ただ者じゃない。


 

 娘は完全に置いてけぼりだ。


 

 「お父さん、なに?」

 

 「これはな、人生だ」


 

 自分で言っておいて、

 何を言ってるんだと思った。


 

 恋人は、

 そっと本体から手を離した。


 

 「大事にされてますね」


 

 その一言で、

 俺はこの青年を

 完全に信用した。


 

 娘は呆れた顔で、

 「もういいから用事済ませよ」と言った。


 

 帰り際、

 恋人は玄関で靴を履きながら、

 少し照れたように言った。


 

 「……あの、

  すごく、いいお父さんですね」


 

 俺は、

 曖昧に笑ってごまかした。


 

 ドアが閉まってから、

 しばらくその場に立っていた。


 

 セガサターンが、

 まだそこにある。


 

 それだけで、

 今日はもう、

 十分だった。

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