第20話 娘の恋人と飯を食ったっつ!
娘の恋人と食事をすることになった。
外食だと気を遣うので、近所のファミレスにした。
向こうは少し早く来ていて、
立ち上がって、きちんと頭を下げた。
ああ、これはもう、
第一印象でだいたい決まったな、と思った。
悪くない。
いや、かなりいい。
注文を終えてから、
三人でドリンクバーに行った。
こういう間が、妙に現代的だ。
話してみると、
よく喋るわけでもなく、
無口すぎるわけでもない。
変な自慢もしないし、
娘の話をちゃんと聞いている。
――むぐぐっ。
心の中で、
確実にそう唸っていた。
本当は一度、
言ってみたかったんだ。
「娘はやらん」
ドラマみたいに。
一回くらい。
でも現実は違う。
この青年を前にして、
その台詞は、どう考えても出てこない。
むしろ、
こちらが言わないといけない。
「どうぞ、お願いします」
いや、
「もらってやってください」
いやいや、
「娘をよろしくお願いします」
全部、
負けた気がする。
食事が終わる頃には、
負けを認めていた。
娘は楽しそうで、
青年は終始、姿勢が崩れなかった。
店を出て、
別れるときも、
きちんと頭を下げた。
その背中を見ながら、
俺は思った。
――ああ、これはもう、
俺の出番じゃないな。
帰り道、
一人で歩きながら、
少しだけ寂しくて、
でも、不思議と悪くなかった。
言えなかった台詞が、
胸の中に残っている。
「娘はやらん」
まあいい。
一度も言えなかった父親人生も、
それはそれで、俺らしい。
家に帰って、
冷蔵庫のビールを開けた。
今日は、
よくやったと思う。
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