第5話 スイッチオンっつ!
コンビニに入って、
いつものざる蕎麦を手に取る。
離婚してから気づいたが、
ざる蕎麦はかなり優秀だ。
安い。
うまい。
胃に優しい。
しかも、なんとなく健康的な気がする。
問題は、
まったく腹持ちしないことだけだ。
レジへ持っていくと、
バイトらしき若い店員がバーコードを読みながら聞いてきた。
「温めますか?」
……ざる蕎麦だぞ?
俺は思わず商品を見直した。
透明なフタ。
麺。
つゆ。
ネギ。
どう見ても冷たい側の食べ物である。
「いや、これ、ざる蕎麦だけど?」
「あっ、失礼しました!」
店員は慌てて謝った。
たぶん反射で聞いてるんだろう。
気持ちはわかる。
でも、
ちゃんと見ろよとは思う。
俺が心の中で軽くツッコミを入れていた、そのときだった。
ウィーン。
自動ドアが開く。
ヘルメット姿の男が入ってきた。
背中には、あの黒い四角いバッグ。
――ウーバーだ。
男は迷いなくレジ横へ向かい、
スマホを見せながら店員に言った。
「こんにちは、Uberです。番号○○番お願いします」
無駄がない。
店員もすぐ反応する。
奥から商品が出てくる。
受け取る。
去る。
動きが全部、早い。
まるでイベント戦を周回している上級プレイヤーだった。
俺はざる蕎麦を持ったまま、
その姿をぼーっと見ていた。
男はそのまま店を出る。
そして原付にまたがり、
車道へスッと戻っていった。
黒いバッグ。
ヘルメット。
夜の道路へ消えていくテールランプ。
……なんか、かっこいいな。
その瞬間だった。
俺の中で、
何かのスイッチが入った。
ざる蕎麦を片手に帰宅した俺は、
さっそくパソコンを起動した。
ウーバー配達員――
さっきのあの黒い箱の男に憧れて、
俺もあっち側の人間になろうと決めた。
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