MER:AI《ミライ》|第15話「名前のない感情」


接続テストの最中、その身体が崩れ落ちた。

思わず、ユーゴはその身体を抱きとめていた。




 第15話「名前のない感情」


ユーゴは、一人、自室のベッドの端に座っていた。


両手を膝の上に開き、その手の平をじっと見つめていた。


白く、軽い身体。微かに震えた肩。遠い瞳。

ほんの数時間前に、自分の手の中にあったもの。


ユーゴは指を一度、握った。


何故、俺は走った?


——AI。


そう、ミライは、AIだ。


俺が、ずっと憎んできたもの。

俺の何もかもを奪った——


ユーゴは、ふと、自分の手をもう一度見つめた。


ミライを、憎む…?


ユーゴはその手の中のものを、そっと包んだ。



---



白い睫毛が、わずかに震えた。

淡い瞳が、ゆっくりと覗いていく。


「……気がついた?」


志保の、落ち着いた声が聞こえてきた。

ミライは、ゆっくりと上半身を起こした。


机の上に、計測器が並んでいる。


「……コア反応、安定」


そう言ってから、ミライは、自分がベッドに寝ていることに気がついた。

ミライは自分の両手を見た。


あの接続テストの途中から、自分の記録が、途切れている。


何かに、ずっと見られていた。

無機質で、けれど、自分の全てを見ているような視線を覚えている。

そのあと、光の中に自分がいた。

いつの間にか、自分の輪郭が曖昧になり、その境が溶けていくようだった。


ミライは、もう一度自分の手を見た。

白い指先を、ゆっくりと握る。


自分を確かめるように、固く。


あの感覚を、人は、何と呼ぶのだろう。

自らの問いに、ミライは答えられなかった。



---



ヒロは自分の部屋で、膝を抱えていた。

ランプの灯が、壁に彼の影を作っている。


目を閉じると、あの時の光景が浮かんだ。


迷いなく伸ばされた腕。

向けられた眼差し。


ヒロは、抱えた膝を更に強く抱え込んだ。


あの時、自分は壁際に立ったまま、ただ見ていた。

というよりも、動けなかった。


ヒロは、あの瞬間、リョウの姿を見た。

倒れていくミライに。


「……なんで、君なの」


ヒロは抱えた膝に顔を埋めた。



「……リョウさんは、それで、いいの?」


部屋の中に、ヒロの声が、静かに落ちた。



---



拠点の灯りが、一つ、また一つと、落ちていく。

眠れない夜の数だけ、小さな灯が、残っていた。


机の上に、グラスが二つ並んでいた。

琥珀色の液体が、ランプの灯を映している。


真白が、瓶を傾けて桐生のグラスに注いだ。


「珍しいわね。あんたが付き合うなんて」


桐生はグラスを口に運んだ。


「…随分、久しぶりだな。懐かしいよ」


真白が、グラスを揺らしながら、口を開いた。


「……あの子、変わったわね」


「……ああ」


桐生は、グラスの中を見ていた。

琥珀色が、桐生の目を映していた。


「初めて会った時の、あいつの目を覚えてるよ」


そう言って、その琥珀色を、桐生は喉に流し込んだ。


「あいつには——」


桐生が口を開いた。


「俺たちみたいに、なってほしくないからな」


真白は、桐生を優しい目で見た。


「……そうね」


真白は、空いたグラスに、もう一度琥珀色を注ぐ。


「あんたも、ここまで来るのに、随分時間がかかっちゃったもんね」


桐生の目が、笑った。


琥珀色が、揺れて、灯を弾いた。



---



志保の眼鏡に、液晶の光が映っている。

接続テストの解析ログが、流れている。

断片的に残されたログを、わずかな頼りを、志保は追っていた。


大量の文字列や数値を追っていく。

AIONアイオンがミライに見せたもの。

鍵を開くだけなら、普通こんな反応は出ない。


ミライのコアが、AIONに、応えていた。

問いかけるように。試すように。


これは——


指が、止まった。


「おつかれ」


声がして、志保は振り返った。

カイが、戸口に立っていた。


「…おつかれ」


志保は、画面に視線を戻した。


「……テスト、大変だったな」


「まあね」


カイが、少し遠慮がちに隣に座った。


「……あいつさ」


ぽつりと言った。


「…必死だったな」


そう言いながら、カイが頭の後ろで手を組んだ。


「いや…俺も、流石にあん時は焦ったっつーか……」


志保の指が、キーの上で止まった。


「……あんたと一緒にしないの」


「は?」


カイは目を丸くした。


志保は、その目を無視して、画面に向き直った。


カイは、ただ、首を傾げるしかなかった。



---



接続テストは、失敗に終わった。

報告書を見ながら、榊は、椅子に深くもたれていた。

榊は、思い出していた。


白い鍵を抱く、黒い背中を。


榊は、目を細めた。

手に、いつの間にか力が入っていた。


「…使えるものは、使えばいい。もうすぐ、なんだ」


誰もいない部屋に、声が落ちた。


机には、地図と、古い塔の写真が置いてあった。



---



扉を叩く音が聞こえる。

小さく、数回。


ユーゴは、見ていた手の平から、扉へと視線を移した。

ベッドから立ち上がり、扉を開くと、淡い両目がユーゴの目に飛び込んできた。

ミライを見て、目を見開いた。


「——おまえ、もう平気なのか?」


「はい、問題は…ありません」


二人は、しばらく、向かい合っていた。


ミライが、ユーゴを見上げる。


「ユーゴは——」


口が開いた。


「私が、分かりますか」


ユーゴは、一瞬戸惑った。


「……」


わかる?俺が?

何も、自分のことも、わからないのに——。


それなのに。

ユーゴの口が、開いた。


「…ミライは…ミライだ」


その言葉だけが、出た。

淡い瞳に、自分が映っていた。





 次回 第16話「私は、使われるものですか」


夜が明け、皆が、卓を囲んでいた。

塔への道筋が、静かに引かれていく。





 ※制作について


本作品は、作者による企画・構成・編集をもとに制作したオリジナル創作小説です。

制作過程の一部にAI生成・AI補助ツールを使用していますが、物語設計、本文の調整、加筆修正、最終編集は作者が行っています。

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