本作は十九世紀末のパリを舞台とした古典的なゴシックホラーの体裁を取りながら、登場するヴァルモン博士の記録から紐解く推理小説の趣を持ち、それでいて二十一世紀を生きる我々のサイエンス・フィクションにも侵食している怪奇譚である。
怪異としての恐怖もある。
妄想めいた恐怖もある。
そして誰が真実を語り誰が嘘をついているのかという底知れぬ闇を覗いたような恐怖もある。
そこに異物として存在するのが『プリント基板』である。
我々は知っている。
だが、ここには無い筈のもの。
今作が巧みな点は〝読者の理解を利用している〟ところだろう。実に巧く、結尾に向かった時は感嘆の溜息を漏らすだろう。
難解な物語ではある。しかしながら、面白い。