『町工場リブート─51歳社長、昭和60年から日本の未来を作り直す─』
あちゅ和尚
第1話 看板を外す日
最後のボルトが、床に落ちた。
からん、と乾いた音がした。
黒瀬直人は脚立の上で、その音をしばらく聞いていた。
東大阪市高井田。
大阪市の東に張りつくように広がるこの町には、今も小さな工場が多い。住宅の隣にシャッター付きの作業場があり、細い道を軽トラックが抜け、昼になれば油の匂いと弁当屋の揚げ物の匂いが混ざる。
直人は、その匂いが好きだった。
子供のころから、ずっと好きだった。
けれど今日、その匂いの中で、自分は父から継いだ工場の看板を外している。
看板には、かすれた文字でこう書かれていた。
黒瀬精機製作所。
祖父が小さな鉄工所として始め、父が精密部品の仕事に広げ、直人が3代目として継いだ工場だった。
旋盤が3台。フライス盤が2台。古いマシニングセンタが1台。溶接機、コンプレッサー、測定器、工具棚。
職人が多かったころは、朝から晩まで機械の音が重なって、まるで金属でできた生き物の腹の中にいるようだった。
それが今は、静かだった。
静かすぎた。
「直人さん、こっちは終わりましたわ」
下から声がした。
声の主は、森川修一だった。
直人より7歳年上。父の代から黒瀬精機にいる職人で、もう40年以上もこの工場を支えてくれた男だ。
若いころは気が荒く、図面の曖昧な仕事を持ってきた営業に本気で食ってかかったこともある。だが腕は確かで、父が死んだあとも、直人を社長として立て続けてくれた。
その森川が今は、軍手をはめたまま、寂しそうに笑っていた。
「すまんな、森川さん」
「社長が謝ることちゃいますわ」
「いや、俺が社長やった。俺の責任や」
「責任言うなら、うちらも一緒です。まあ……時代ですわ」
時代。
便利な言葉だった。
材料費の高騰。人手不足。後継者不足。海外生産。価格競争。発注単価の切り下げ。銀行の態度の変化。元請けの支払い遅延。
1つ1つは、小さな傷だった。
だが、傷は重なる。
気づけば、黒瀬精機は血を流しすぎていた。
直人は脚立から降りた。
外した看板を両手で持つ。思っていたより重かった。
いや、木と鉄の重さではない。
祖父の時間。父の時間。職人たちの時間。若いころの自分の時間。
その全部が、看板の裏側にへばりついている気がした。
工場の奥では、業者が機械を運び出す準備をしている。
古い汎用旋盤だけは買い手がつかなかった。
昭和の時代から使っている、緑色の塗装がところどころ剥げた旋盤だ。
父がいちばん大事にしていた機械だった。
直人が小学生のころ、父はよくその旋盤の前に立っていた。
金属の丸棒を爪に噛ませ、刃物を当てる。低い音がして、銀色の切り粉がくるくると伸びる。父の手は大きく、分厚く、いつも油で汚れていた。
直人は、その手が好きだった。
何でも作れる魔法の手に見えた。
けれど、その手は1999年に止まった。
過労だった。
心臓だった。
倒れた場所は、この工場の床だった。
あの時、父はまだ54歳だった。
「親父の歳にも、まだ届いてへんのにな」
直人は呟いた。
「それでも俺は、守られへんかった」
森川が何か言おうとして、やめた。
直人は笑った。
「すまん。湿っぽいな」
「そら湿っぽくもなりますわ。今日ぐらい」
工場の外では、トラックがバックする音がした。
ピーピーピーという電子音が、やけに安っぽく響く。
直人は看板を壁に立てかけ、工場の奥へ歩いた。
そこに父の旋盤があった。
銘板には古いメーカー名と製造番号。油皿には、取りきれない金属粉。ハンドルの一部は、父が使い込んで光っている。
直人はそっと手を置いた。
冷たい鉄の感触。
だが、掌の奥に、ほんの少しだけ熱が残っているような気がした。
「親父」
声が震えた。
「俺、どこで間違えたんやろな」
間違えたことは山ほどある。
無理な単価に耐えた。
赤字でも仕事を切れなかった。
設備投資のタイミングを逃した。
人を育てきれなかった。
技術を安売りした。
特許を取るべきところで、取らなかった。
口約束を信じた。
元請けの「次はええ仕事を回す」という言葉に、何度も騙された。
けれど、いちばん大きな間違いは、もっと前にあったのかもしれない。
日本がまだ元気だったころ。
町工場が、世界と戦える技術を持っていたころ。
1980年代。
あの時代に、違う選択ができていれば。
父を止められていれば。
技術を守れていれば。
人を守れていれば。
直人は旋盤に額をつけた。
「もう1回だけ、やらせてくれへんかな」
そんなことを言っても、何も起こらない。
わかっていた。
51歳の男が、潰れた工場で父の機械に縋っているだけだ。
滑稽だった。
惨めだった。
だが、その瞬間。
旋盤の奥で、何かが鳴った。
ごん。
古い鉄の腹を、内側から叩いたような音だった。
「え?」
直人が顔を上げる。
視界が揺れた。
床が遠のく。
蛍光灯の光が伸びて、機械の輪郭が溶ける。
油の匂いが濃くなる。
耳の奥で、聞いたことのないほど大きな機械音が鳴った。
いや、聞いたことがある。
これは昔の工場の音だ。
マシニングセンタではない。NC旋盤でもない。汎用旋盤とベルトとモーターと、人の怒鳴り声と、ラジオの音。
父の時代の音。
「直人!」
誰かが呼んだ。
若い声だった。
懐かしすぎて、息が止まる声だった。
「直人、起きなさい! 遅刻するで!」
母の声だった。
次に目を開けた時、直人は天井を見ていた。
茶色く焼けた木目の天井。古い蛍光灯。壁には、野球選手のポスター。枕元には、プラスチックの目覚まし時計。
身体が軽い。
いや、軽すぎる。
直人は布団から跳ね起きた。
部屋が狭い。
見覚えがある。
ありすぎる。
ここは、子供のころの自分の部屋だった。
東大阪の実家。工場の2階。住まいと作業場がくっついた、あの古い家。
直人は自分の手を見た。
小さい。
皺がない。
爪も薄い。
油と金属粉で荒れた51歳の手ではない。
「……なんや、これ」
声が高かった。
子供の声だった。
布団をはねのける。畳の上に立つ。足も小さい。膝も細い。腹も出ていない。腰も痛くない。
直人は壁の鏡を見た。
そこにいたのは、子供のころの自分だった。
丸い顔。寝癖。少し生意気そうな目。まだ何も失っていない顔。
何歳だ。
小学生か。
直人は部屋を見回した。
ランドセル。学習机。壁に貼られた時間割。
机の横には、学校から配られたプリントが画鋲で留められていた。
そこには、少し歪んだ字でこう書かれている。
4年2組 黒瀬直人。
小学4年生。
直人は喉を鳴らした。
「嘘やろ……」
階下から、母の声が飛んできた。
「直人! 早よ顔洗い! 朝ごはん冷めるで!」
直人はよろめきながら部屋を出た。
階段を下りる途中で、匂いがした。
味噌汁。焼いた卵。油。鉄。朝の工場。
その全部が混ざった、幼いころの家の匂い。
胸の奥が痛くなった。
台所に母がいた。
若かった。
白髪もない。背筋も伸びている。エプロン姿で、味噌汁の鍋を見ながら、忙しそうに動いている。
「何ぼーっとしてんの。顔、洗ってき」
「おかん……」
「何?」
母が振り返る。
直人は言葉に詰まった。
2026年の母は、もう足が悪くなっていた。面会に行くたびに、父の話ばかりしていた。工場の音が聞こえないと寂しい、と言っていた。
その母が、今、目の前で生き生きと動いている。
直人は思わず駆け寄りそうになった。
だが、小学生の息子が急に母親に抱きつけば、不審に思われる。
直人は口を引き結び、洗面所へ向かった。
蛇口をひねる。
冷たい水が出る。
顔を洗う。
鏡の中の小学生が、こちらを見返していた。
「落ち着け」
直人は小声で言った。
「これは夢や。いや、夢にしては細かすぎる。ほんなら、何や。時間が戻った? そんな馬鹿な」
馬鹿なことが起きている。
それは認めるしかなかった。
洗面所の横のカレンダーが目に入った。
1985年10月。
昭和60年。
直人は息を止めた。
1975年1月17日生まれの自分は、この時、10歳。
小学4年生。
阪神タイガースが日本一へ向かって突き進んでいた年。世間がバブルの入口に足をかけ、日本が世界で勝てると本気で信じていた時代。
そして、プラザ合意のあと、円高の波が日本の産業を揺さぶり始める時期でもある。
直人は洗面台に手をついた。
早すぎる。
中学生でも高校生でもない。
10歳だ。
金もない。信用もない。会社を作ることもできない。父に命令することもできない。
だが、早いということは、間に合うということでもある。
父は生きている。
工場はまだ潰れていない。
森川もまだ少年の顔をしているはずだ。
母は元気だ。
まだ、何も失っていない。
台所に戻ると、ちゃぶ台に朝食が並んでいた。
白いご飯。味噌汁。卵焼き。漬物。昨日の残りの煮物。
そして、新聞を広げている男がいた。
父だった。
黒瀬隆夫。
この時、父は40歳前後。
直人の記憶に残る父より、ずっと若い。髪も黒く、肩幅も広く、目に力がある。作業着の胸には、黒瀬精機の刺繍。まだ会社というより、家族経営の工場だが、父はいつも背筋を伸ばしていた。
「おう、起きたか」
父が新聞から目を上げた。
その声を聞いた瞬間、直人の胸が潰れそうになった。
父の声。
録音も残っていない。もう忘れかけていた声。
「……おはよう」
「なんや、元気ないな。熱でもあるんか」
「ない」
「なら、飯食え。学校遅れるぞ」
直人は黙って座った。
箸を持つ手が震えた。
父が新聞を畳み、味噌汁をすすった。
「今日、工場見に来るんやろ?」
「え?」
「昨日から言うてたやないか。学校の宿題や。家の仕事を調べるとか何とか」
直人は記憶を探った。
あった。
小学4年生の秋、学校で「家の仕事を調べる」という宿題が出た。直人は父の工場を見学し、作文を書いた。
題名は、たしか「ぼくのお父さんの工場」だった。
内容は薄かった。
機械がすごい。火花がきれい。お父さんはすごい。
それだけだった。
だが今ならわかる。
この日、父は新しい仕事の図面を持ち帰っていた。
大手電機メーカーの下請けから回ってきた、小さな精密部品の試作案件。
単価は安い。
納期は短い。
図面には曖昧な指定がある。
仕様変更の責任範囲も曖昧。
父は「大手と繋がるチャンスや」と喜んで受けた。
その仕事は、すぐには黒瀬精機を潰さなかった。
むしろ一時的には仕事を増やした。
けれど、そこから黒瀬精機は下請け構造に深く組み込まれていく。技術を出し、無理を飲み、単価を下げられ、それでも切れなくなる。
毒は、ゆっくり回った。
直人は箸を置いた。
「親父」
「なんや」
「今日、工場で見る図面って、大事なやつ?」
父が眉を上げた。
「なんで知ってる」
「昨日、聞いた気がする」
「子供が気にすることちゃう。まあ、大事は大事や。うまくいけば、うちも1段上がれる」
直人の背筋が冷えた。
やはり今日だ。
ここが最初の分岐点だ。
母が茶碗を置きながら笑った。
「直人がそんな真面目な顔するなんて珍しいなあ。作文、ちゃんと書きや」
「うん」
直人は父を見た。
まだ倒れていない父。
まだ、自分の腕と根性で何とかなると信じている父。
直人は心の中で言った。
親父。
その根性が、あんたを殺すんや。
学校へ向かう道は、記憶より狭かった。
家を出ると、朝の東大阪の空気があった。工場のシャッターが開き、作業着姿の男たちが水をまき、軽トラックがゆっくり通る。
1985年の町は、2026年より色が濃かった。
看板も、車も、人の声も、すべてが少しうるさい。
だが、活気があった。
直人はランドセルを背負って歩きながら、頭の中で年表を並べた。
1985年、昭和60年。
9月、プラザ合意。
円高。
やがてバブル景気。
1989年、昭和が終わる。
1991年ごろからバブル崩壊。
1995年1月17日、阪神・淡路大震災。
直人はその日、20歳になる。
あの日の朝、地面が下から突き上げた。
東大阪の家も大きく揺れた。
テレビに映る神戸の火災。倒れた高速道路。焼けた町。泣く人々。
20歳の誕生日が、祝われる日ではなくなった。
あの日、直人は初めて知った。
壊れる時は、本当に突然だ。
家も、道も、会社も、人の人生も。
それから就職氷河期が来た。
仲間が苦しんだ。
父が倒れた。
工場を継いだ。
守ろうとした。
守れなかった。
ならば今度は、壊れる前に支える。
家族も。
工場も。
技術も。
人も。
学校の授業は、奇妙だった。
51歳の中身で小学4年生の授業を受けるのは、簡単すぎるのに、難しかった。
目立ちすぎてはいけない。
急に天才児扱いされても困る。
直人は適当に手を抜き、ノートを取り、給食を食べた。
牛乳瓶を見た時、妙に泣きそうになった。
午後の授業が終わると、直人は走って家に戻った。
工場のシャッターは開いていた。
中から機械音が聞こえる。
直人は足を止めた。
この音。
失ってから、どれほど恋しかったか。
工場の中には、若い森川がいた。
17歳。
中学を出てすぐ黒瀬精機に入った見習いで、まだ顔には少年っぽさが残っている。
それでも目つきだけは一人前だった。作業着の袖をまくり、旋盤の前で金属を削っている。
未来の森川を知る直人には、その姿がやけに眩しく見えた。
「おう、直坊。学校終わったんか」
直坊。
懐かしい呼び名だった。
「森川さん」
「なんや、今日はえらい丁寧やな。気持ち悪いぞ」
直人は苦笑した。
奥の作業台に父がいた。
図面を広げ、電卓を叩いている。隣には、知らない男が座っていた。スーツ姿。髪を七三に分け、薄い笑みを浮かべている。
直人は男の顔を見た瞬間、胃の奥が冷えた。
覚えている。
名前まではすぐに出てこない。
だが、この男は確か、下請け商社の営業だった。
父に大手案件を持ち込み、最初だけ甘い条件を出し、後から単価を削っていった男だ。
直人の記憶の中では、もっと老けていた。
だが、あの笑い方は同じだった。
「息子さんですか」
男が言った。
「ええ。今日、学校の宿題で工場見たい言うてまして」
父が少し照れくさそうに笑う。
「直人、邪魔せんように見とけよ」
「うん」
直人は作業台に近づいた。
図面を見る。
寸法。材質。加工指示。納期。
子供の目には難しいはずのそれが、直人には読めた。
読めすぎた。
問題はすぐに見つかった。
穴位置の指定が甘い。表面処理後の寸法変化が考慮されていない。試作と量産の条件が混ざっている。さらに、仕様変更時の追加費用について何も書かれていない。
最悪だ。
安く作らせ、あとから「ここが違う」と言える図面だ。
父は若い。
技術には自信がある。
だからこそ、こういう罠に弱い。
直人は息を吸った。
ここでどう言うか。
10歳の子供が「この契約は危険や」などと言えば、おかしい。
ならば、子供の言葉で言えばいい。
「お父ちゃん」
「なんや」
「この絵、変ちゃう?」
父の手が止まった。
営業の男が笑った。
「坊ちゃん、図面わかるんか。すごいなあ」
直人は無視した。
図面の端を指さす。
「ここ、穴の場所、こっちとこっちでちょっと違ってもええってこと?」
父の目が細くなった。
「……公差のことか?」
「こうやって削って、最後に色つけるんやろ? そしたら、ちょっと太るんちゃうの?」
工場の音が、少しだけ遠くなった。
父が図面を引き寄せる。
森川も旋盤を止め、こちらを見た。
「直坊、お前、誰にそんなこと教わったんや」
「見てたら、なんとなく」
直人は子供らしく肩をすくめた。
父は返事をしなかった。
鉛筆を取り、図面に印をつける。
営業の男の笑みが、わずかに固まった。
「いや、そこはまあ、現場でうまく調整してもらえれば」
父が顔を上げた。
「仕様変更が出た場合の追加費用は?」
「それは、まあ、都度相談で」
「書面では?」
「黒瀬さん、そこまで固く考えんでも。まずは大手さんとの付き合いを作るのが大事ですから」
その言葉を聞いた瞬間、直人の中で何かが切れた。
同じだ。
何十年経っても、同じ言葉を聞いた。
付き合い。
次がある。
勉強させてもらう。
大手と繋がるチャンス。
その言葉で、どれだけの町工場が技術を安売りしてきたか。
どれだけの職人が夜中まで働かされてきたか。
どれだけの父親が、家族に背を向けて機械の前で倒れてきたか。
直人は父の作業着の裾を掴んだ。
「お父ちゃん」
「なんや」
「これ、ちゃんと紙に書いてもらわなあかんと思う」
父が直人を見る。
直人は10歳の顔で、できるだけ真剣に言った。
「あとで、言うた言わんになったら困るやん」
沈黙。
森川が小さく吹き出した。
「直坊、ええこと言うやんけ」
父は笑わなかった。
営業の男を見る。
「すんません。今のところ、仕様変更時の費用と検査基準、書面でもらえますか」
「いや、黒瀬さん」
「それと、表面処理後の寸法についても確認したい。こっちで勝手に判断して不良扱いされたら困りますんで」
営業の男の顔から、薄い笑みが消えた。
直人は父の横顔を見上げた。
父はまだ何も知らない。
未来も、失敗も、自分の死に方も。
それでも今、ほんの少しだけ、道が変わった。
たった1枚の図面。
たった1つの確認。
それだけかもしれない。
だが、直人にはわかった。
ここからだ。
黒瀬精機が下請けの泥沼に沈む未来を変えるには、ここから始めるしかない。
営業の男が帰ったあと、父はしばらく図面を見ていた。
森川は腕を組み、にやにやしている。
「社長、直坊を跡取りにするん、早めた方がええんちゃいます?」
「アホ言え。まだ小4やぞ」
父はそう言ってから、直人を見た。
「直人」
「何?」
「お前、ほんまに見てただけか」
直人は笑った。
10歳らしく。
けれど、心の中では決めていた。
嘘はつく。
隠しもする。
子供のふりもする。
だが、もう逃げない。
「うん。工場、好きやから」
父は少しだけ驚いた顔をした。
それから、照れたように鼻を鳴らした。
「そうか」
その1言だけで、直人は泣きそうになった。
工場の外では、夕方の光が差していた。
高井田の町に、機械音が響く。
まだ大阪は、壊れていない。
まだ日本は、自分たちの技術を信じている。
まだ父は、生きている。
直人は古い旋盤に手を置いた。
鉄は温かかった。
「今度は、潰させへん」
誰にも聞こえない声で、そう言った。
父の工場も。
母の笑顔も。
森川の腕も。
この町の音も。
そして、いつか来る1月17日の朝も。
壊れる前に、支える。
10歳の身体に戻った51歳の町工場社長は、その日、初めて未来に手を伸ばした。
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