彼女は理由も場所も分からぬままに、その淵へ来た。
物語は、ここから始まる。
彼女が出会ったのは、老人。
夜空にはない月が映る水面へ釣り糸を垂らしている。
やがて彼女は、自分へ向けられた不可解で不躾な老人の言動に怒り、彼へ向け凶行に及ぶ。
物語は、そこからまた別の方向へと動き出す。
作中で強く印象に残るのは、淵に佇む老人の言葉。
〝星浚い〟という一語だろう。
本作を読む者は、きっと本作を読む間中〝星浚い〟の意味を考え続けることになる。
星を浚うという淵。
その淵とは、人の因業そのものなのではないか。
では、その淵に沈む〝星〟とは何なのか。
そもそも星は淵の中にあるのか。
問いかけは終わらない。
もしかすると、淵の中には星などないかもしれない。
老人の言う言葉のごとくに、星浚いは常に〝ハズレ〟なのかも知れない。
星浚いという行いに、救いはない。
それは、なにもわからないまま始まり。
感情に操られ。
過ちをしでかし。
報いを受ける。
人の生がそうであるように。
救いはない。
本作はおそらく因果応報の地獄譚。
始まりも終わりも定かでない不可解な怖さ。
暑気払いには、ちょうど良い。
推奨の短編である。
この幻想的で耽美な場所……からの思わぬ展開がとにかく衝撃でした。
主人公は「明晰夢」を見ていると感じている。自分が夢を見ていると自覚しており、不思議な空間の中を歩く。
そんな中で老人と会い、「星浚い」なることを続けていると聞く。地上に落ちた星を拾うのが仕事だという。
どこかファンタジックで、主人公が子供だったら冒険でも待っていそうな雰囲気。でも、この夢は本当にそんなキラキラしたものとなっているのか。
主人公の心の中を去来する、どこか不穏な記憶。そしてそれが結びつく先……。
綺麗でふわふわとしたものが、人間に優しいものとは限らない。人の心の柔らかい部分に侵食し、獲物を狙う何かである可能性も。
幻想・耽美からの思わぬ刺激。強烈なホラー体験を与えてくれる作品でした。