勇者は嫌う、魔王は好む 短編集

パルマス勇者

魔王のイメチェン

※ディレン(魔王の執事)視点です。



「魔王様〜! ちょっといいですか?」


「なんだ?」


 読書をしている魔王に話しかける。少し暇つぶしに付き合ってもらおうと思ったのだ。掃除は終わらせたし、別に構わないだろう。


「思ったんですけど、魔王様の髪って無駄に長いですよね」


「無駄とはなんだ」


「せっかくですから、髪型変えましょうよ~」


「はあ……?」


 魔王の髪型はいつも一つ結びなので、たまには別の髪型の魔王を見てみたい。


 早速、ポケットから櫛(くし)を取り出す。これは、ナーシャが普段使ってる櫛で、ちゃんと許可はもらっている。


「わあ、さらっさら~!」


 初めて魔王の髪に触れたが、見た目以上に気持ちいい。自分の頭に植え付けたいくらいだ。


「そうか?」


「さらさらすぎて、もはや掴めないです!」


「がっつり掴んでるけどな」


 突っ込まれながらも、ナーシャに教えてもらった“ある髪型“に挑戦する。

 その名も―――お団子。


 まずは高い位置で一つに結び、それから三つ編みにして、それをグルグルしたら、お団子のできあがりだ。


 だが、魔王の角が邪魔で、ちょっと難しい。


「魔王様の角、切り落としていいですか?」


「やめてくれ」


「実は取り外し可能とか、ありませんか?」


「ない」


「そんなぁ~」


 この角、本当に邪魔! と、心の中で文句を言う。


「ところで、その本はなんですか? もしかして、子どもには見せられないような本ですか?」


「そんなものはない」


「でも、レンガイ様って、そういうの大好きだったんでしょう? 一つくらいあるんじゃないんですか?」


 レンガイというのは、半年前に亡くなった魔王の父だ。女遊びが激しい方だと聞いている。


「あの人が本だけで満足するわけないだろう?」


「あ、そうですね」


 雑談しながらも、なんとかお団子ができあがった。ちょっと形は悪いが、許容範囲だろう。


「……できましたよ! 見てください!」


 そう言って、魔王に手鏡を渡した。


「……ほとんど見えないな」


「あら残念。人生の半分以上損してますよ」


「それは絶対ない」


 髪型がいい感じにできたら―――次は、あれだよね。


「魔王様、ちょっと待っててください」


「え? ああ……」


 急いでナーシャの部屋に行って、小さめの箱を手に取る。


 中には、化粧道具が入っている。これもナーシャの物であり、もちろん許可はもらっている。


 魔王の部屋に戻ると、机に置いた。


「魔王様、今日は顔洗いましたか?」


「普通洗うだろ。逆にお前は洗わないのか?」


「もちろんです!」


「汚っ!」


「いや~照れるなぁ」


「褒めてない」


 魔王を見習って、僕もそろそろ顔を洗う習慣をつけようかなとちょっとだけ思った。


 化粧箱を開けると、見慣れない物がたくさんあった。


「えーっと、何これ? ふぁんでーしょん?」


 おそらく気持ち悪いイントネーションで読み上げた。そういえば、化粧を教えてもらっていなかった。


「これってどうやって使うんだろ?」


「肌に塗るやつだ。そばかすを消したりとか……」


「そうなんですね。魔王様の肌は無駄にきれいなんで、必要ないですね」


 そう言って、ファンデーションを戻し、他の物を手に取る。


「なんだこれ? あいしゃどう? 愛の車道?」


愛の車道はどこに塗るものなのか知らない。色からして―――。


「これ、唇に塗るやつですね」


「唇を紫にするつもりか?」


ナーシャの唇が紫だったのは見たことがない。だけど、魔王なら紫の唇は似合うと思う。


「よくその知識でやろうと思ったな?」


 魔王が呆れた様子で言った。


「私がやったほうが―――」


「お願いします!」


「速いな……」


 あの魔王が、自ら化粧を始めた。これはかなりレアな光景である。


 そして、できあがった顔は、さらに美しくなっていた。


「すごい……絶世の美女だ……!」


「それは言いすぎだろ」


「惚れちゃいそうです! っていうか、惚れました!」


「うぇ……不快でしかないな」


 と、ここで、重大なことに気づいた。服を用意してなかったのだ。リボンたっぷりのフリフリのドレスとか、着せたかったのに。


(いや、魔王様が着たら、筋肉ムキムキのお姫様になるか……)


 想像すると、とんでもない姫ができあがってしまった。


「魔王様、行きましょう」


「どこに?」


「リキュードさんのところですよ。見せましょうよ」


「見せるのか? ドン引きされるだけだろ……」


「それは分かりませんよ? ほら行きましょう~!」


 無理やり魔王を連れて、応接間に向かう。


「あ、リキュードさーん! 見てください!」


「…………」


 リキュードは、魔王を見た瞬間、掃除する手を止めた。魔王の姿に言葉を失っているようだ。


「どうです? めっちゃ美人ですよね!」


「……え、ええ」


「ほら、ドン引きしてるぞ」


 リキュードならもっと笑うかと思っていたのに、全然そんなことなかった。余計なことをしたなと、少し反省した。


 そこで、リキュードが魔王に話しかけた。


「魔王様」


「……」


「どうして服はそのままなんですか?」


「確かに……」


「あ、私のメイド服着てみます? ついでに掃除もしてくれると助かります」


「それは遠慮しておく」


 魔王がメイド服を着たら、おそらく服が破れるだろう。


(いや、破れたら破れたで、色気のあるメイドに―――ならないな)


 メイド姿の魔王を想像しても、やはり筋肉ムキムキのメイドしか思い浮かばなかった。


「お前、何か変なことを想像してなかったか?」


「そんなことないですよ~! メイド服の魔王様を想像してただけで……!」


「……帰る」


「あ、待ってくださいよ!」


(ナーシャとアクルスにも見せなきゃ……!)


「ディレン」


「どうされました?」


「今度、お前にも化粧してやろう」


「え……、僕ですか?」


「ああ、顔に落書きしてやる」


「それって化粧じゃないですよね?」


今度は魔王の暇つぶしに付き合うことになるらしい。


―――その相手に選ばれたことを少しだけ後悔しながらも、どこか楽しみにしている自分がいた。

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