春香と颯太が「いつもの場所」で久しぶりに話す場面は、最初は進学を前にした幼なじみ同士の別れとして読んでいました。
けれど、あとから颯太が――だったことが分かると、彼の言葉の一つひとつがまったく違う重さを持って響いてきます。
特に、「さいごに話せてよかった」という言葉が印象に残りました。
春香にとっては旅立ち前の最後でも、颯太にとっては――。
やさしすぎる嘘で、春香を笑顔で送り出そうとする心情が、とても切なかったです。
また、神社の神様が語り手としていることで、悲しいだけではなく、どこか昔話のような柔らかさもありました。颯太を助けることはできないけれど、約束を預かり、五年後に春香へ伝えることはできる。小さな神社の神様だからこその距離感がよかったです。
レモネードも、過去では春香が気持ちをすっきりさせるための飲み物で、現在では颯太を思い出すための飲み物になっているように感じました。
同じ場所、同じ桜、同じレモネードが、五年を経て別の意味を持つところに余韻があります。
戻らないものがある。
それでも、思い出し続けることで、少しずつ向き合えるようになる。
優しい嘘と、静かな願いの始まりが残る作品でした。