「何の行列だろう」と気になってしまう気持ちは、誰にでもあると思います。
けれどこの作品では、その何気ない好奇心が、少しずつ不気味なものへ変わっていきます。
研究室にこもっていた主人公が、気晴らしの途中で見つけた奇妙な行列。
並んでいるのは、ただの通行人ではなく、院生や教員、知の匂いをまとった人々。
だからこそ、そこにはきっと特別なものがあるのだろうと期待してしまう。
この「きっと意味があるはずだ」と思わせる空気の作り方が、とても巧みでした。
面白いのは、主人公が最初から群衆を無邪気に信じる人間ではないところです。
むしろ集団を冷静に見ている側の人間だったはずなのに、目の前の行列と「絶対真理」という言葉に引き寄せられ、気づけば自分もその一部になっている。
そこに、人間の弱さと滑稽さがあるように感じました。
そこにあるものへ、過剰な意味を見出していく人々。
その空気に違和感を覚えながらも、後から来た人には同じように期待を渡してしまう主人公。
この流れがとても皮肉で、静かな怖さがあります。
派手な事件が起きるわけではないのに、読み終えると、行列に並ぶという行為そのものが少し怖く見えてくる作品でした。
最後に聞こえる新入生たちの騒がしさが、むしろ生きた人間の音として感じられるところも印象的です。
知的で、皮肉で、読み終えたあとに「自分ならあの列に並ばないと言い切れるだろうか」と考えてしまう短編でした。