第7話 女王サイファ


アレクは温もりの中にいる。

暖かな日差しにあたり優しい風が肌を撫でる。

花の香りが通り過ぎ、鳥の囀りが心地良い。

波の音、潮の香り。

起きる気力を失う気持ち良さ。

人の気配に気づき目を覚ます。

「どれくらい寝てた。」

サイファが隣で寝ながら応える。

「三日間、ずうっと寝てたよ。」

アレクが話す。

「とても気持ち良くて起きたく無かった。すごく久しぶりの熟睡だった。」

サイファが話す。

「時々笑ってた。良い夢でも見てたの?」

アレクが話す。

「どうだったか覚えてないけど懐かしい気がする。」

サイファが話す。

「また戦いに行くの?」

アレクが話す。

「この世界は人の幸せを喜ばないんだ。必ず誰かを苦しめる。」

サイファが聞く。

「それはアレクにしか止められないの?」

アレクが答える。

「どうかな。他にも動いてる人がいるかもしれないけど自分の大切な人は自分で守りたいんだ。後悔したくない。」

サイファがアレクを抱きしめて話す。

「私がアレクを守る。」

アレクがサイファを抱きしめて応える。

「俺がサイファを守るよ。」

アレクがサイファに口づけをして二人は抱き合う。波の音が心地良く二人を包む。

二人はお互いを大切に包み込む。愛おしく包み込む。乾いた風が二人を包む。

サイファの部屋の窓から見える水平線は大きな弧に見える。二人で眺めながら話す。

「世界が広い事が解る。俺は蘇る前は消えかけの冒険者だった。」

サイファがアレクを抱きしめながら聞く。

「今みたいに人を助けたりしてたの?」

アレクが苦笑いして言う。

「一日生きるだけで精一杯の根無し草、安い依頼で食い繋いでた。」

サイファが言う。

「でも心には夢があったんだね。」

アレクが話す。

「子供が夢見る英雄願望。世界を旅して竜と闘う。いつか叶うと夢見てた。」

サイファが聞く。

「夢が叶ったのね。」

アレクが首を振る。

「夢はアビスで消えたんだ。今の俺はたぶん違う人間だと思う。」

サイファが強く抱きしめる。アレクが続ける。

「アレクはアレクだけど欲望の無い、もう一人の自分が残ったんだと思う。」

サイファが聞く。

「そのアレクでは駄目なの?」

アレクが話す。

「全ての欲が無くなったらサイファも愛さなくなるだろ。竜種の操り人形なだけだ。」

サイファが口づけをして言う。

「愛してくれないのは嫌。今のアレクでいて欲しい。」

アレクが応える。

「もちろんさ。サイファを愛する気持ちが無ければ戦う意味がない。世界を変える必要なんて無くなる。俺と仲間の大切な者達を守る戦いなんだ。」

サイファが話す。

「でもアレクが傷つくのは辛い。眠ったまま起きないかと思った。」

アレクがサイファを抱き寄せて話す。

「この胸に埋め込まれた宝石は闇の竜ザウザーの命と俺の命だと思う。ザウザーは本体があるから半分の命かな。俺はこれが俺の弱点だと思う。」

サイファが驚く。アレクが続けて話す。

「今は自分がいるから自由にはさせないが世界の流れが変われば竜種は反する存在になると思う。最悪は人種と竜種の戦いになるかもしれない。眷属同士で戦うかもしれない。ザウザーと同調して判ったんだ。彼らは味方であり敵でもある。このダロスの意思次第で何方にも変わってしまう存在なんだ。」

サイファが怯える。アレクが強く抱く。

「俺が俺で無くなったらサイファがここを消し去ってくれ。」

サイファの手と自分の手を合わせて胸の宝石に触る。サイファが泣きながら応える。

「私には出来ないと思う。嫌だ。」

アレクが話す。

「今は大丈夫だから泣かなくていい。そんな刻がくれば世界が無くなる刻だと思う。」

サイファが怒る。

「じゃあ。皆いないって事でしょ。アレクだって死ななくてもいい。」

アレクが答える。

「それじゃあ独りぼっちじゃないか俺が嫌だ。世界が無くなるなら一緒に旅に出たい。」

サイファが理解して応える。

「そうよね。私も一緒がいい。アレクと一緒なら長旅でも苦しくない。」

アレクがサイファに口づけをして抱きしめる。

「そうならないように、やれる事を全力でやる。俺が大切にしているもの全てを守る。」

サイファが嬉しそうに話す。

「一緒に戦うわ。」

アレクが話す。

「サイファに加護されたリベルの力を解放しよう。」

サイファが頷く。アレクが続けて話す。

「まずはサイファの魔道力を神経と繋げて発動する感覚を覚えるんだ。ここに来て。」

アレクがサイファを自分の前に後ろ向きで座らせる。背中に手を当て魔道力の流れを全身に繋げる。サイファが驚く。

「体が熱くなった。体中を何かが巡るのが解るわ。」

アレクが話す。

「その流れがサイファの中の魔道力なんだ。手を前に出すよ。」

アレクが背後からサイファの手を支えて前に出す。水魔道を発動させて言う。

「今は俺がサイファの魔道を誘導してるけど頭に自分が想像した水を描ければ色々な事が出来る。水で絵も描ける。自由自在に動かせるようになれば水魔道の初歩は完了だ。」

サイファが思い描く水を創り出す。可愛い小さなリベルを形取り宙を飛んでいる。

「面白いわ。可愛いリベルができた。」

アレクが言う。

「自分との距離が離れていても発動しているのは魔道力の高さが空間に干渉してるからだ。サイファはリベルの眷属だから水魔道は常人以上の干渉力だ。このまま窓まで行こう。」

裸のまま二人が窓辺に近づきスィードの上空に手を掲げる。アレクが言う。

「サイファの今の最大魔道を見せよう。大きな水の球体を思い描いてごらん。」

サイファが目を瞑り思い描く。スィードの上空に島を覆い尽くすほどの水の球体が現れる。

「サイファ。目を開けてごらん。」

サイファが目の前を見て驚く。

「何これ。全部水なの。どうしよう。」

アレクが優しく話す。

「落ち着いて。この水を空に飛ばして上空で弾けるように念じてごらん。」

サイファを抱きしめて支える。サイファが手を上に上げる。巨大な水の塊が上空に飛び立つ。サイファが強く念じる。巨大な水が弾けて雨が降り注ぐ。目の前に大きな虹が架かる。

「簡単だろ。魔道は自由なんだ。サイファが思い描く事は適性さえ合えば出来るんだ。」

サイファが嬉しそうに雨を触っている。サイファが聞く。

「ねえ。風魔道はどうすればいいの?」

アレクが笑う。

「流石は海の女王サイファ。好奇心の塊だな。」

サイファが笑う。

「だって楽しいんだもの。わくわくするわ。」

アレクがシーツを持ってサイファを包み言う。

「風邪ひくから着替えないと風魔道は大変だよ。」

サイファは嬉しそうにアレクに抱きつき口づけをする。二人は抱き合い刻を忘れる。

二人が寝ながら手を天井にかざして風魔道を発動させている。

「そう。風が回転している事が解れば重ねて渦を合わせる。そうすれば物を持ち上げられる。他にも方法は色々あるから考えてごらん。海の民は水と風に愛されてるから何方の流れも感覚が伝わり易い。サイファの適正は天性のものだね。」

サイファが話す。

「水も風も何かが一緒に手伝ってるのが見える。可愛い光?かしら。」

アレクが驚く。

「サイファも見えるんだね。それは精霊だよ。この世界の自然を管理している存在だ。」

サイファが目を凝らす。

「あら。可愛い小さな子供が飛んで遊んでるわ。これが精霊なの?」

アレクが答える。

「そうなんだ。俺も最近見えるようになった。魔道を使う時に光が集まるのは全て魔粒子だと思っていたけど魔道の使えないドワーフの鍛冶師が楽器を奏でるように鍛冶をした時に現れたんだ。それから魔道の発動に魔粒子と精霊が干渉している事が解った。」

サイファが精霊と遊んでいる。アレクが驚いて言う。

「サイファは精霊と意思疎通ができるみたいだね。」

サイファが言う。

「そうじゃないわ。精霊が遊んでるの私は彼女達の玩具みたい。」

アレクが笑う。

「俺にはサイファ達が楽しそうにしてるのが判るけど他の人には見えないから注意しないと心配されそうだな。」

サイファが言う。

「本当ね。女王になれなくなっちゃうね。」

アレクが聞く。

「戴冠式はいつなんだい。俺も列席しよう。」

サイファが話す。

「今日なんだけど。結婚式もしたい。駄目かな。」

アレクが笑いながら話す。

「俺は丁度目覚めたのか。何か誰かが仕組んでるみたいだ。」

サイファが笑う。

「アレクが起きればいいなと思って見てたら、目を覚ましたから驚いたの。」

アレクが聞く。

「戴冠式まで後どれ位時間があるかな?」

サイファが答える。

「今が昼だから三刻後かな。」

アレクが着替えて話す。

「服屋に買い物に行ってくる。直ぐ戻る。」

サイファが驚く。

「服なんていいのに。何処まで行くの?」

アレクが言う。

「エピンの仕立て屋に頼んであるんだ。二刻で戻る。」

サイファが呼び止めるのも聞かないでアレクは窓から上空に跳び立つ。

「黒雲来てくれ。」

黒雲が旋回していた上空から降下してアレクを乗せる。ビートが話す。

「周囲を警戒し偵察していました。お目覚めお待ちしてました。」

アレクがビートの肩を叩く。

「良く寝た。久しぶりに熟睡した。」

ビートが笑顔で聞く。

「何方に向かいますか?」

アレクが言う。

「エピンに向かってくれ。急ぎで頼む。」

ビートが黒雲に指示して高速でエピンに向かう。サイファが窓から見送る。

「もう見えないや。アレクは忙しい人ね。さあ、私も着替えよ。」

 アレクは高速で移動する黒雲の背から自由貿易国アルノの様子を見る。犠牲者の少ない制圧戦の後にガヴェイン達の兵士が治安維持をしていたので国民の暴徒化も無く。新興国への移行が上手く進んでいるようだ。兵役が緩和されたのだろう住民達が笑顔で明るい。商業の盛んな国になれば殺し合いの国からは遠くなるだろう。油断は出来ないが他国に侵略する構造は消せる。略奪国家には戻らないように管理し監督するサディアスの手腕が試される。サイファも喜んでいるとアレクは感じている。

 エピンが見えて来て周辺の開拓が進んでいる事に気付く。アレクはビートにエピン周辺を旋回させて確認する。水路も全て蓋がされて衛生面も確立されていた。農業用の用水路も分岐されて流れている。砂漠化が進んでいた近郊も農地化が進み。農夫達が懸命に耕している。エピンの民が明るく懸命に働く姿がアレクには頼もしく映る。

 エピンの中央広場に着陸した黒雲に住民が集まって来る。黒雲がアレク専用の飛竜なのを皆が覚えてしまったのだ。アレクが飛び降り皆に手を振る。住民達が跪き拝み始める。困ったアレクが皆に言う。

「もう皆は自分の足で立ち歩いている。いつまでも跪いていてはエピンの未来が暗くなる。皆、立ち上がり楽しく過ごすんだ。困った事があればダルス騎士団長に相談してくれ。」

皆が立ち上がり感謝する。アレクは笑いながら後にして仕立て屋に向かう。

「御店主。遅くなってしまった。出来ているかな。」

アレクが店主に尋ねる。店主が喜んで応える。

「王様の御帰りを御待ちしていました。完成しております。着替えられますか?」

アレクが答える。

「すまない。時間が無くて、至急戻らなくてはならない。現地で着替える。」

店主が頷き正装一式と予備の仕立ても衣装鞄に収める。アレクが聞く。

「二着も頂けるのかな。」

店主が応える。

「はい。まだ頂いた資金がありますので次も仕立てております。」

アレクが感謝する。

「ありがとう。大切にする。これも使ってくれ。」

アレクが新たに金貨の詰まった革袋を渡す。店主が断ろうとするがアレクが話す。

「これは支度金だ。エピンから王都に向かう途中、サーレの次に要塞都市アークという街がある。そこに店主の支店を創ってくれ。俺の居城だ。少し遠いから面倒かける。」

店主が感謝して受け取り話す。

「王様の城下で店を出せるのでしたら喜んで向かいます。」

アレクが感謝して店を出る。

店の外に慌ててダルスが到着する。

「アレク王。急用ですかな?突然飛竜が現れたと連絡が入り伺いました。」

アレクが話す。

「すまない。急ぎの私用だったので広場に着陸させてしまった。ダルスも息災だな。ロイドはジェイドの所に向かってくれたかい?」

ダルスが応える。

「はい。新国スプラードに向かわせました。それと救出された者達の処遇を相談したいのですが。」

アレクが話す。

「そうだな。ダルスに押し付けてしまった。すまない。傭兵達とまだ育成中だった少年兵達はハーディに任せ管理させてくれ。後日、俺が傭兵達の洗脳を解く。魔道士達はバーンが管理するように命じているが、エピンに定住できるようならエピンに魔道士組合を創設させたいがどうだろう。必ずエピンの為にもなる。」

ダルスが感心する。

「アレク王。魔道士組合をエピンにも創って頂けるのですね。それは有り難いです。是非お願いします。このエピンは成長著しく住民達が皆懸命に働きます。魔道士の力があれば更に発展できるでしょう。」

アレクが言う。

「急ぎで申し訳ないがハーディとバーンにダルスが依頼してくれ。俺が話をしておく。」

アレクはダルスと別れ黒雲に跳び乗る。

「ビート。スィードに戻る。大至急だ。」

ビートが返事をして黒雲が飛び立つ。エピンの住民が手を振り見送る。アレクも手を振り応える。その後、ハーディに連絡して傭兵達の管理を依頼しバーンにはエピンに魔道士組合を創るように言う。アレクは新国スプラードの上空を通過するようにビートに言う。

 新国スプラードは採掘現場が盛んに動いている。住民達が黒金剛を発掘し喜び合っている。発掘現場の周りに集落が広がり街になっている。街には鍛冶屋が複数あり工房の活気が伝わってくる。首都になる街が移民で溢れ住民の活気が溢れる。虐げられていた者達が自分の国であると自覚しているようで皆嬉しそうに生活している。

アレクは満足してビートにスィードへ向かうように伝える。

「皆解放されて生き生きしている。これからも大変だが未来が明るい事が救いだろう。」

ジェイドとイザークを見つけ住民に指導している様子を確認する。アレクは嬉しくなる。

スィードに到着し黒雲を王城のサイファの部屋に寄せてアレクが降りていく。

「ビート。ご苦労。大型船で待機していてくれ。また呼び出す、」

ビートが手を振り大型船に着地して黒雲を休ませる。アレクが衣装鞄を担いでサイファの部屋に入る。着替え中のサイファに驚き謝る。

「すまない。気付かなかった。急いで戻った。」

アレクが後ろ向きで話す。侍女達が退室してサイファがアレクを呼ぶ。

「お帰り。先に着替えようと思って。早かったわね。」

アレクが振り向いてサイファを見る。純白のドレスが美しいサイファを綺麗に輝かせる。見惚れているアレクにサイファが聞く。

「ねえ。感想は?」

アレクが笑顔で答える。

「サイファが美しくて見惚れてた。とても綺麗だ。」

サイファが照れてしまう。アレクが着替えるが着慣れない正装に困っている。サイファがドレスのまま着替えを手伝い完成する。二人が顔を見合わせて笑ってしまう。

「何だか自分じゃないみたいだ。着慣れないな。」

サイファが笑顔で応える。

「アレクの正装も格好良いわ。二人共、着慣れないから御互い様ね。」

アレクが手を腰に当てサイファに向ける。サイファが腕に組みつき部屋を出る。部屋の外には侍女と従者達が並び二人を祝福する。廊下の先にジュウベイが正装で待っている。その姿はヤマト国の服装で生地を巻き付けたような服装に広めのズボンにサンダル姿だ。

「ジュウベイもヤマトの正装ね。アレクは初めて見るみたいね。」

アレクが尋ねる。

「ジュウベイはヤマトの正装が似合っている。覇気が溢れているのが解る。」

ジュウベイが答える。

「この服装は肌の感覚が高まるので全身で空間を認識できるのですよ。気が漏れ易いのが問題ですな。」

サイファがアレクからジュウベイに移り、腕に手を置く。

「ジュウベイ。今までありがとう。これからも助けてね。」

ジュウベイが応える。

「そろそろ引退したいのですがね。サーシャが許してくれない。」

サイファが言う。

「お母様の時も戴冠式に付き添ったんでしょ。ジュウベイが見届け人なんだから隠居はできないわよ。私の護衛武士で父親なんだから。」

 アレクが二人を微笑ましく眺めて後に続く。サイファは王城の謁見の間で女王の継承の儀を行い女王となる。列席者は海洋アルノの国民でそれぞれの島の族長が集まっていた。海洋国家である為、無数の島の部族がアルノに加盟している。お互いの部族を尊重して敵対行為を禁止する海洋アルノの国法に賛同した部族がアルノを支えている。

 他にも南方には海洋民族集合国家・海洋王国が存在する。海洋アルノとは不可侵ではあるが永世の盟約は無い。いつ敵対行動に出るか解らないので防衛は怠らない。海洋アルノは難攻不落のスィードが加盟している島々を守っている。その軍事力も脅威である為、敵対勢力が侵略行為に出る事は過去無かった。だがこれからも無いとは言えない。サイファの政治手腕が試され、隙を伺う者達を抑えなければならない。その為の王位継承であり、アレクとの結婚も政治的意味もある。

 当人達には結婚はただの形式であり、アレクにはサイファと共に戦う証しのような事なのだ。サイファにとってはアレクとの絆の形が結婚なのだ。王位継承の儀が終わり。サイファが今後の海洋アルノの方針を演説する。

「私。サイファが女王となり海洋アルノの舵取りをする。ここに集まった全ての加盟国の方達に宣言する。海洋アルノはルーマ国との永世同盟を結び相互の国を守り、支え合い、発展していく。これは友好国としての同盟であり対等な立場の同盟である。今日ここでルーマ国の国王アレク殿と調印して正式な同盟となる。」

サイファが玉座から降りて調印する席に着く。

アレクがサイファの隣に立ち列席者に告げる。

「私はルーマ国の代表、黒竜王アレク。海洋アルノの皆様に宣言する。ルーマ国は今後、海洋アルノと永世同盟となり相互の国を守り、支え合い、発展させることを誓う。海洋アルノ女王サイファ殿と結婚し、その誓いの印とする。」

アレクが席に座り。調印しサイファに渡す。サイファも調印しアレクに渡す。

会場の皆から祝福と同盟による国の安寧に感謝する声が響き渡る。拍手は止むことが無い。アレクがサイファを引き上げ抱きしめ口づけをする。

会場で見守っていたジュウベイとサブリナが近づき祝福を述べる。

「アレク殿。サイファを頼みます。拙者はそろそろ動き出す時期のようです。」

アレクが頷く。神龍の復活が近い事が解る。サブリナがサイファに抱きつく。

「お姉様。とても綺麗です。アレク様も素敵な正装です。二人共お似合いです。」

サイファがサブリナに抱きつき話す。

「サブリナも素敵な男性を見つけるのよ。」

アレクが微笑む。ジュウベイが嬉しそうに眺める。

 会場は晩餐会のような宴の会場に変わり海洋民族のお祝いが始まりアレクもサイファもジュウベイもサブリナも楽しく過ごす。どの民族もそれぞれに歴史があり、それぞれの文化がある。お互いを尊重し支え合う海洋アルノの形が祝いの席で華やかに彩る。アレクとサイファは仲良く皆のお祝いを観賞し感激し感動する。アレクには全てが美しく映る。サイファは他民族国家の平和な一面に感謝する。アレクがサイファを見て微笑む。サイファも笑顔で応える。

 祝いの宴は朝まで続き、その後皆が帰路につく。サブリナは途中で退席しジュウベイが付き添う。ようやくアレクとサイファは解放される。会場を後にしてサイファの部屋に戻り二人がそのままの服装で寝台に倒れて話す。

「絶対、戦っていた方が楽だ。もう無理だぁぁぁぁ。」

弱音を吐くアレクが面白くてサイファが笑う。

「私もこんなに長い時間大人しくするのは無理ぃぃぃぃ。」

二人が大笑いして手を繋ぐ。見つめ合ったまま何も言わず、二人共眠ってしまう。


気持ちの良い風が吹き抜け二人を起こす。

「今、何刻だろう。」

アレクが聞く。

「昼になったのかな。お腹が空いた。」

サイファがベルを鳴らして侍女を呼ぶ。侍女が楽しそうに覗く。

「サイファ様。御呼びですか?」

サイファが怒る。

「あんた達。何笑ってるの。怒るよ。」

侍女達が言う。

「サイファ様が羨ましくて、皆で呼ばれるのを待ってました。」

サイファが呆れる。

「そんなに覗きたかったのかい。悪趣味な娘達だね。今は何刻なの?」

侍女達が嬉しそうに答える。

「お昼になります。お食事の用意をしますか?」

サイファが二人分を頼んで侍女達が急いで用意する。

アレクが話す。

「サイファは侍女達と仲が良いんだね、」

サイファが話す。

「あの娘達は幼馴染みたいな仲なの。私が子供の頃から一緒に育ったのよ。私が一番のお姉さんだけどね。あの娘達は身寄りが無い戦争孤児達だったのを母が引き取って一緒に育ったのよ。皆、私の妹達なの。」

アレクが話す。

「サイファがもっと好きになったよ。母君も心優しい女性だったんだね。」

サイファがアレクに抱きついて話す。

「母は優しい女性だったわ。ジュウベイと三人で島々を視察して孤児を救っていたの。全員は救えなかったけど何人もスィードに連れて帰ったのを覚えてる。」

アレクが抱き寄せて話す。

「俺がルーマ国で見て来た現実と同じだ。孤児達が救われない世界が現実なんだ。母君は素晴らしい方だと思うよ。国の女王が救う事が大事だと解ってるんだ。」

サイファが頷く。侍女達が食事を用意して現れる。

「サイファ様。アレク様。昼食をお持ちしました。今準備します。」

サイファが笑顔で話す。

「皆。食事は済ませたの?」

侍女達が声を揃えて返事をする。

「今日も美味しいものを沢山食べました。」

サイファが楽しそうに見ている。アレクがサイファの頭を撫でて微笑む。

侍女達が御辞儀をして急いで部屋を出て話す。

「アレク様。サイファ姉様をずっと愛して下さい。」

アレクが返事をする。

「ああ。一生愛するよ。」

妹達が喜んで出て行く。サイファがアレクに口づけをして甘える。

アレクがサイファと抱き合い愛し合う。サイファの純白のドレスが輝き二人を照らしている。アレクの美しい黒色の服が重なり二人が躍っているように見える。二人が求め合い、愛し合い、幸せを感じて少しの眠りに就く。先に目が覚めたサイファがアレクを起こす。

「冷めてしまったけど食事にしましょ。」

アレクが目を覚まして席に着く。サイファが温かい緑茶を淹れて運んで来る。用意されていた食事が温められていた。サイファが話す。

「アレクがいれば、いつでも温かい食事ができるのね。私も使いたい。」

アレクが笑顔で話す。

「サイファなら風魔道で温める事が出来るようになるよ。」

サイファが聞く。

「私は魔道に詳しくないけど火魔道が使えないのに温められるの?」

アレクが話す。

「熱さの問題なんだ。火は燃える事で温度が上がる。水は熱が加えられて蒸気になる。風も同じで熱さが加われば温風から熱風、さらに熱波になる。」

サイファが難しそうな顔をしている。アレクが言う。

「魔道は自由なんだ。サイファが精霊と遊ぶように、この世界の力を自分達で自由に使う事ができる事が魔道なんだ。思い描く事で世界が力を貸してくれる。凄いだろ。」

サイファが納得する。

「私が思い描ければ世界の力や精霊が助けてくれるのね。」

アレクが頷く。

「だがサイファだけは覚えていて欲しい。魔道を使う者次第で世界が変わってしまうんだ。悪意で増した魔道力を使えば無慈悲で強大な攻撃が大勢の人々を簡単に殺してしまう。」

サイファが怖がる。アレクが隣で抱き寄せ話す。

「それを自覚していれば危険ではないから安心して鍛錬してごらん。強い力を持つ者の使命であり戒めなんだ。俺が自分に言い聞かせている事なんだ。サイファなら判るだろ。」

サイファが自覚して応える。

「そうよね。リベルの眷属なんだから自覚しないと仲間を巻き込んでしまうのね。」

アレクが頷いてサイファを褒める。

「サイファなら大丈夫。俺の言葉を理解してる。力のある者の使命が判ればいいんだ。」

サイファが聞く。

「水魔道はお湯を思い描けば熱くなる。風魔道は砂漠のような熱い風を思い描けば熱くなる。逆なら氷や冷風に変わるのね。」

アレクが驚いて話す。

「そうなんだ。やっぱりサイファは凄いよ。魔道を理解できてる。でも注意してくれよ。威力が高くて強い魔道は場所を考えて使わないと、あの水の塊で王城が壊れるぞ。」

サイファが思い出して頷く。

「確かにあの大きさでは周りが危険ね。海で鍛錬しないといけないわ。」

アレクが食事を済ませてサイファに話す。サイファも察する。

「行かなくてはいけない所がある。サイファとはいつでも繋がっているから呼べば直ぐに戻るよ。判ってくれるだろ。」

サイファが頷き応える。

「アレクが戦わないと皆が幸せになれないのは解る。けど離れるのは寂しい。」

アレクがサイファを抱きしめて話す。

「今、サイファに贈り物を頼んで造ってもらってる。それが完成したら一緒に戦いに出掛けよう。でも王城に誰かいないと自由には動けないか。」

サイファが喜んで応える。

「ジュウベイに任せて絶対出掛ける。早く贈り物を頂戴。」

アレクが笑いながらサイファに口づけをして出かける支度をする。正装一式と衣装鞄を残していつもの格好で窓辺に立つ。サイファが寂しそうにする。アレクが言う。

「我が妻。海洋アルノの女王サイファよ。即位後の政権運営は厳しく見られるぞ。臣下からも国民からも、隙を狙う外敵からも細かく見られる。全力で女王の威厳を示せよ。」

サイファが真剣に応える。

「我が夫。黒竜王アレク。無事に帰って来て。愛してます。」

アレクが応える。

「俺もサイファを愛してる。行ってくる。」

アレクがスィードの空に跳び立つ。黒雲が降下してアレクを乗せる。ビートに王城を一周させてアレクがサイファに手を振り飛び去る。目的地は王都アレク軍軍営。


 アレクが王都近郊の軍営に帰還する。ヒュースが出迎えて話す。

「アレク王。お帰りをお待ちしておりました。」

アレクが笑顔でヒュースに聞く。

「ラースはどうだった。家族で楽しく過ごせたかい。」

ヒュースが喜びながら答える。

「はい。マリアもアルもミリアも家人達もラースの屋敷で楽しく過ごしていました。」

アレクが話す。

「ラースは辺境ではあるが世界の中心になる都市だと思う。もっと発展して世界の指針になる都市だと思う。住民達が幸せそうな事が他国から人を呼び寄せるのだろう。」

ヒュースが感謝する。アレクが続けて話す。

「それ故に外敵も多い。」

ヒュースが不安な顔になる。アレクが続ける。

「ラースはルーマやダロス西域の玄関口でもあるから最初の標的になる。」

ヒュースが聞く。

「何かあるのですね。ラースが危険なのですか?」

アレクが答える。

「オーディスがいるラースは誰にも落とせない。だが被害が出ないわけではない。今から集められる部隊長達で戦略会議を開く、至急集合させてくれ。」

ヒュースが返事をする。

「はい。大至急、招集します。それと帰還した仲間も紹介したいのですが。」

アレクが応える。

「もちろん。集合させて会議に出席させてくれ。」

アレクは黒雲で偵察に向かう。ビートに王都から南に抜け新興国から新国スプラードを通過してドルマ上空で旋回待機させる。

「自由貿易国は順調そうだ。新国スプラードもロイドが加わり再建が加速してる。」

ビートが話す。

「ジェイドは優秀です。今後は外交が担当なのですか?」

アレクが応える。

「ああ。世界を観てもらう。ビート達、次の世代の先駆けだ。」

ビートが頷く。アレクがドルマ上空でゴードンの気配を感知する。

「いたぞ。ドルマ中央の森の中だ。少し話してくるビートは黒雲とラースで待機だ。」

アレクは黒雲から飛び降りてドルマの森に消える。ビートはラースに向かい待機する。


 ドルマの中央森林にゴードン達がいる。ゴードンはアレクの任務で遺跡探索をしていた。ラースの冒険者組合で募集した冒険者五人とドルマに潜入して三日になる。ゴードンはシルヴィをラースに預け苦手な潜入調査をしている。冒険者五人は探索担当の元盗賊と前衛担当の重戦士。回復担当の道具屋と後方支援の弓使いが二名。ゴードンが戦闘に参加すれば元盗賊以外は必要ないが依頼に応じた冒険者達に任せてゴードンは同行する。

 ラースからドルマにはゴードンが簡単な橋を造り渡りきると壊して進んだ。国境付近は数々の侵略行為に対抗したラースの攻撃の跡が残されドルマ兵の残骸が転がる。冒険者達は異臭に苦悶の表情になるがゴードンが先に進むので遅れない様に進む。先行する元盗賊がドルマ軍の野営地を見つけ戻って来る。

「この先にドルマ軍が野営している。我々の戦力では対応できない。迂回しよう。」

元盗賊のゲイルが進言する。冒険者パーティのリーダー重戦士のドーンが相談する。

「ゴードン殿。このまま進むのは危険です。迂回しましょう。」

ゴードンが答える。

「ドーン達はここで待機していてくれ。俺が確認してくる。」

ドーンが驚き止めようとするがゴードンが手で合図して先に進んで行く。ゴードンはドルマの野営地を襲撃してドルマ兵を痛めつけ追い払う。瀕死の状態で散り散りに逃げて行く。暫くは戻って来れないだろう。ゴードンは何事も無かったように戻って話す。

「あいつ等、逃げて行ったから先に進めるぞ。探索再開だ。」

ドーンが驚くがゲイルを先行させて遺跡探索を再開する。後続の道具屋パーンが言う。

「ゴードン殿はアレク軍の将軍だ。攻撃力は化け物級だろう。我々は探索に集中するのが良いでしょう。周囲の警戒を担当しましょう。」

後方支援の双子の弓使い姉妹リーナとルナが話す。

「私達が周囲を警戒します。ドルマは集団で襲撃してくるようですから囲まれない様に警戒します。ルナ。後方をお願いね。」

ルナが答える。

「任せて。リーナも周囲に注意してよ。」

パーティの連携は上々だ。ゴードンは楽しそうに先に進んで行く。ゲイルが再び戻り話す。

「この先に古びた石造りの遺跡がある。樹木が根付いているから相当古い遺跡だろう。」

ドーンがゴードンに聞く。

「目的の遺跡でしょうか?」

ゴードンが言う。

「かもしれないな。とりあえず見に行こう。」

一同が先に進み遺跡を確認する。その遺跡は石造りではあるが外壁が偽装である事が解る。石の一部が剥がれて内側の建物が覗いていた。金属製の表面は、今の工業技術では造れない素材で出来ている事が解る。遺跡を一周してみたが入り口は見当たらない。ゴードンはこの遺跡で間違いないと感じ冒険者達に言う。

「この遺跡で合っているだろう。任務完了だ。休息をとつて帰還してくれ。」

ドーンが尋ねる。

「遺跡の中は確認しなくていいのですか?」

ゴードンが話す。

「俺の任務は遺跡の発見だ。ここまでで完了なんだ。中は別の者が調査する。」

ゲイルが聞く。

「中の調査もしたいのですが問題があるのですか?」

ゴードンが不機嫌になり言う。

「俺の依頼はここまでだ。これ以上は命の保障は無いぞ。」

威圧するゴードンに冒険者一同が怯む。上空からアレクが現れて話す。

「皆、ご苦労。聞いていた。発見で依頼は終了してくれ。ここからは軍事機密だ。踏み込めば拘束して監禁する事になる。」

ゴードンが片膝を着いて礼をする。冒険者達は黒竜王アレクが天から現れ驚いている。

ドーンが慌てて応える。

「はい。ここまでで依頼の完了です。ラースに帰還します。」

ゲイルが納得できず食い下がる。

「せめて中身に金目の物がないか確認したい。」

ゴードンが動こうとするのをアレクが止めて話す。

「俺も元冒険者だ。お宝の匂いがすれば覗きたくなる気持ちも解る。いいだろう勝手に探索してくれ他の皆も好きにしていい。俺は終わるのを待ってから調査する。」

ゴードンとアレクは場所を移動して話す。

「ゴードン。すまなかったな。動けなくて面倒かけた。よく発見してくれた。」

ゴードンが聞く。

「あいつ等、ほっといていいのか?俺も元冒険者だから奴等の気持ちも解るが暴走だ。」

アレクが言う。

「問題無い。誰も中に入れない。簡単に入れていたらドルマの知能でも入れるさ。」

ゴードンが納得する。アレクが続ける。

「それよりも次の戦いが近い。というか、もう始まってる。この東側で攻められているダークエルフ族を救出する。敵はエルフ族だが侵略を扇動している者が標的でエルフ族が敵では無い。被害を少なく鎮圧したい。」

ゴードンが聞く。

「俺は、どう動く?」

アレクが話す。

「王都の軍営に戻って戦略会議を開くがゴードンはこのままダークエルフ側で支援してもらう。アグニスにも同行させる。二人で支援してやってくれ。」

ゴードンが聞く。

「ダークエルフに知り合いはいないぜ。どう繋ぎを作るんだ?」

アレクが話す。

「今、彼等は滅びる寸前だろう。実力で助ければ味方だと思うだろ。ゴードンの力を見れば救世主にしか見えないさ。」

ゴードンが怒る。

「アレクよ。適当な事言うなよ。誰かいないのか?」

アレクが謝りながら応える。

「俺が話をつけてくる。任せとけ。」

アレクがゴードンに冒険者を帰還させるように指示してダークエルフの森に移動する。アグニスに連絡してドルマのゴードンと合流させる。エピンからの高速移動でアグニスは難なくゴードンの元に到着する。冒険者達は遺跡の中に入る事も出来ずに諦め帰還する。


 アレクがダークエルフの森に潜入する。エルフ族の好戦強硬派頭目ネスレムが侵略軍を統率してダロス西域の人間種を滅ぼす為に進軍を開始する。最初の標的は西域に向かう西側の隣国ダークエルフ族の国アモンだ。エルフ族のネスレムは集団戦闘を訓練し侵略軍を鍛えていた。本来のエルフ族もダークエルフ族も集団での戦闘や行動をしない種族だがネスレムは人間種に怨みを持ち滅ぼす為に準備していたのだ。同じ想いのエルフ達を束ねて侵略を開始した。

 エルフ族の戦術は風魔道を纏った身体強化で弓兵が高速移動しながら魔道を付与した矢を放ち敵を殲滅する。平時から防御する戦闘をしないダークエルフ族は簡単に射殺される。集団攻撃にも対応できないダークエルフ族は侵略軍に追い込まれて行く。ダークエルフ族最大の部族が最後の砦だが集団戦闘の経験が無い為、徐々に削られ疲弊し滅ぼされる寸前であった。アレクはダークエルフ族の国アモンに潜入し生存者の感知を始める。

 侵略軍に殺された者達が倒れている。死者累々。アレクは無残な光景に憤怒し、怒りを必死に抑える。アレクは感知を飛ばしてアモン全域を調べる。アモンの中心に育つ巨木。大樹の街を確認し抵抗しているダークエルフ達を見つける。だがエルフ族の侵略軍が増援を送り間もなく到着する部隊を確認し、その部隊に攻撃する者達を見つける。反撃を受け全滅寸前だ。アレクが走り出し現場に向かう。

 侵略軍に抵抗する為に増援を別動隊が攻撃する。ダークエルフ族の別動隊は女性の指揮官が指示を飛ばしていたが敵の数と味方の数に差があり過ぎて全滅寸前だった。最後の一人になった指揮官が必死に抵抗するが矢に当たり倒れる。致命傷では無いが瀕死だ。敵兵が近づき射殺そうとする。指揮官が苦しみながら喋る。

「この悪魔達め。平和なアモンを滅ぼす気か。」

敵兵が罵倒する。

「黒いエルフはこの世界にいらない。お前達こそ悪魔の種族だ。死ね。」

矢を放つ寸前。アレクが指揮官の前に降臨する。光に包まれたアレクが上空から着地する。

放たれた矢が消滅する。光魔道による高熱の障壁が全てを熔かす。指揮官が言う。

「神が御救いになっ・・・た。」

意識を失い倒れる。アレクが黒霧で治療しながら侵略軍に話す。

「お前達エルフ族に確認しよう。この侵略行為は自分達の意志なのか、誰かに命令されて従っているのか答えてもらおう。」

敵兵が言う。

「俺達はお前達人間種に殺された同胞の怨みを晴らす為にダロス西域の全人間種を滅ぼす。これはエルフ軍全員の意志だ。お前もそこの黒い悪魔と共に死ね。」

敵兵が全員で魔道の矢をアレクに放つ。アレクが言う。

「救えない事が判った。生き残りは仲間に伝えろ。」

アレクに無数の矢が襲う。アレクが光の障壁を拡大する。ほとんどの矢が消滅するが光の耐性を持つ魔道の矢がアレクに突き刺さる。

「馬鹿が魔道はエルフ族の方が強力だ。」

アレクに突き刺さった矢が黒渦に呑み込まれて行く。侵略軍が怯える。

「闇魔道だ。悪魔の魔道だ。」

アレクが不機嫌そうに言う。

「馬鹿が。闇魔道は心理の魔道だ。消えて悔い改めよ。黒渦。」

アレクの全身から黒渦が竜巻のようにエルフ軍を巻き込んで呑み込み消し去る。最後尾の敵兵が驚き慌てて逃げ出す。その内の一人を捕縛して気絶させる。意識を回復し虚ろな目で全てを見ていた指揮官が話す。

「貴方様は私達を救う為に天から使わされたのですか?」

アレクが振り向き話す。

「俺は人間種の黒竜王アレクだ。ルーマ国から来た。ダークエルフ族を助けよう。」

指揮官が微笑み意識を失う。アレクが指揮官を抱きかかえ、捕虜を掴み、アモンの大樹に移動する。大樹の戦闘はダークエルフ達が勝利して侵略軍を撃退した。アレクは大樹のダークエルフに話しかける。

「俺はルーマ国の黒竜王アレクだ。この指揮官を救出した。代表と話がしたい。」

アレクの元にダークエルフ最大部族の部族長が現れる。

「私はダークエルフ族の部族長デルニスと申します。娘のデリータを救って頂き心より感謝します。ありがとう。」

アレクが話す。

「この捕虜は尋問するから牢にでも閉じ込めてくれ。」

デルニスが部下に指示して捕虜を牢に送る。アレクが続けて話す。

「デルニス殿。エルフ軍の侵略は止めないとアモンも滅ぼす気だ。対抗できる力はあるのか?無ければ俺が介入して手を貸す。」

デルニスが答える。

「我がアモンはダークエルフ族の自由に生きる信念の基にある国で国軍は存在しない。個の集まりで抵抗しているがエルフ軍の集団戦闘には対抗できないだろう。個の力が勝っていても多数の力には抗えない。恥を忍んで頼みます。力を貸して下さい。」

アレクが応える。

「デルニス殿。緊急時です。一時的な同盟を結びましょう。敵勢力が撤退し和睦が成った時点で同盟を解消するのはどうですか?アモンの国民に不満はないと思いますが。」

デルニスが驚く。

「それでは我々に都合が良過ぎますが、アレク王に得は無いと思います。」

アレクが答える。

「ありますよ。デルニス殿と繋がりが出来ます。人間種とダークエルフ族との初めての友好関係になるなら大きな成果です。」

デルニスが感謝する。アレクが続ける。

「早速ですが私の臣下で猛将を二人送り込みます。自由に行動できるようにアモンに発布して下さい。少しアモンが騒がしくなりますが一騎当千が二人です。よろしいですか?」

デルニスが頷き、アレクがビートに連絡して黒雲でゴードンとアグニスを運ばせる。

「到着しました。」

デルニスが上空の飛竜に驚き警戒する。ゴードンとアグニスが飛び降りてアレクの元に片膝を着いて挨拶する。

「お待たせしました。ダークエルフ族支援の為に任務に就きます。」

アレクが二人を立たせて話す。

「デルニス殿。我が軍の竜戦士ゴードンと竜剣士アグニスです。これからアモン全土に展開しているエルフ軍を撤退させます。デルニス殿は防衛を重視してこれ以上被害を出さない様に国民を纏めて下さい。自由な意思は戦後に回復して下さい。いいですか?」

デルニスが事態を整理できないでいる。娘が回復して話す。

「アレク王の言われた通りに致します。私デリータが責任を持って御二人の支援をします。どうかアモンを御救い下さい。」

アレクがデリータに話す。

「まだ全快していません。大事にして下さい。未来のアモンの女王デリータ殿。」

アレクがゴードンに言う。

「竜戦士ゴードンは魔道使いのエルフ族を撃退しながらアモンから排除しろ。」

ゴードンが大斧を振り回し応える。

「おお。アモンから叩き出してやる。」

アレクがアグニスに言う。

「竜剣士アグニスは敵を無力化し行動不能にして進め敵兵を殺しても敵の首領には何の痛手にならない。捕虜にして労役として使う。デリータは魔道封印をできるか?」

デリータが答える。

「それはどういう魔道なのですか?」

アレクが答える。

「魔道を使わせない様に魔道の流れを断つ処置だ。秘匿する技だ。」

デルニスが聞く。

「それは危険な技です。我等には使う事はできません。」

アレクがデリータを見て言う。

「君はこのアモンを背負う意志があるか。」

デリータが応える。

「はい。このまま滅びるような事にはさせません。」

アレクが捕虜を連れて来るように指示する。デリータの前に突き出される捕虜にデリータの手を持ち捕虜の背中に当てる。

「この感覚を理解してこれからの捕虜達に処置するんだ。これは一時的な事だ封印は解く事ができるから安心していい。」

デリータが頷く。アレクがデリータと同調して発動させる。

「魔道封印。」

捕虜の魔道の流れが断たれて魔道力が枯れる。デリータが魔道封印を理解する。

「アレク王。理解出来ました。体に流れる魔道の動きが断たれるのですね。」

アレクが話す。

「ダークエルフ族も魔道の申し子達だ。理解するのは簡単だ。だがデリータだけの秘匿魔道として誰にも教えてはいけないよ。」

デリータが頷く。アレクが言う。

「アグニスは先に言った通りに敵兵の無力化。デリータは捕虜の封印。ゴードンは敵軍の排除。俺は王都軍営に戻りエルフ軍本隊との戦闘準備をしてアモンに戻る。明日以降二日以内に部隊を編成して布陣する。デルニス殿よろしいか。」

デルニスが頷く。デリータも頷く。アレクが黒雲に乗り告げる。

「ゴードン暴れ過ぎるなよ。アグニスは敵魔道部隊との戦闘訓練だ。任せるぞ。」

アグニスが応える。

「ははっ。魔道の最上位種族エルフとの死合い。感謝します。全員を無力化します。」

ゴードンが言う。

「アグニスに全部取られない様に離れて行動するぜ。近くに来るなよ。」

二人が笑う。滅亡寸前のダークエルフ達が呆れている。怒っている者もいる。

アレクが叱る。

「二人共、苦しんでいる者達がいる。気遣い出来ないのだ。行動で示せ。」

デリータがアレクに感謝する。怒っていたダークエルフ達も落ち着く。

 アレクが二人に任せて王都に向かう。その後の二人は正に一騎当千。アモンに展開していたエルフ軍が見る間に撃退されアモンから撤退し始める。アグニスの無力化が相手に恐怖を与え何処から現れるか解らない竜剣士にただ怯えアモンに駐留する事を拒否して逃げ出す。デリータの封印によりエルフ軍の兵士は戦力外になる。ゴードンが暴れ集団戦術が通用しないエルフ軍は瀕死の状態でアモンを逃げ出す。

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