第6話 水麗竜リベル
アレクは心理の中にいる。
「ミレニアだろ。」
〈そうだ。感覚が伝わるようになったな。〉
「それもそうだがザウザーの事だろ。」
〈ふふふ。アレクは良き眷属だ。ザウザーは五分の契約に変えているようだ。〉
「そうなのか?何も聞いてないぞ。」
〈先ほどの攻撃で判るだろう。自分が介入するなら断りなどいれなくていいのだ。〉
「そうだな。勝手に俺を使えばいいのにな。それでミレニアは何か教えてくれるのか。」
〈アレクが悪意の一つを潰した褒美とでも思えばいい。伝えておく。〉
「俺はミレニアの為にしたわけではないのに褒美をくれるのか。」
〈ダロスの中に生まれる悪意は我とザウザーの敵でもある。その時々で見方が変わる。〉
「あまり良い表現ではないと思うが、ミレニアにもザウザーにも逆らえない事だしな。」
〈ふふふ。アレクは良き理解者でもあるな。では伝えよう。エルニアの地に眠る隕石はアレクが見つけた量以上に埋まっている。飛行艇を造るには充分だろう。それとそこから東の地には古代兵器が眠っている。さらに東の地にエルフ族が住む地があるが悪意が生まれている。それは人間種に対するエルフ族の憎悪が原因だ。アレクが守る者の為にも悪意を止めた方がいいだろう。我からの褒美としてくれ。〉
「ミレニアの褒美は大盤振る舞いで怪しいぞ。何かあるんだろ。」
〈アレクは面白いな。全てはアレクが進めば判る事だ。まだまだ我には届かないぞ。〉
「本当に遠いよ。ドレルから覗いたけどミレニアの場所は見えない。結界が強すぎる。」
〈そうか。気づいたか。だがあの程度の結界を破れなければアレクの目指す所には行けない。ザウザーの介入が無くても八翼だけで九頭竜を倒せなくては我の三光を倒せずに散るだろう。我とザウザーの願いも潰える。〉
「ふぅぅ。ミレニアはザウザーと同じだ少しずつしか教えない。解ったよ。八翼を鍛えればいいんだろ。八対三でも勝てばいいんだろ。三光を倒せるように鍛えるよ。」
〈アレクと話す刻が我の楽しみになっているのだ。全部話しては楽しみが無くなる。〉
「ザウザーと同じ事言ってるよ。ミレニアも力を貸してくれてもいいんだぞ。」
〈その刻が来たら力を貸そう。アレクが目覚める。また話そう。〉
アレクが目覚める。木陰の隙間から日が射し込む。
「温かい日差しだ。」
ゴードンが目覚めたアレクに気づく。
「起きたか。体調はどうだ。動けるか?」
アレクが言う。
「いきなり働かす気かよ。それよりどれくらい寝てたか教えてくれ。」
ゴードンが笑う。
「半刻かな。仮眠にもならないな。」
オーディスが聞く。
「アレク王は寝なくても平気なのですか?」
アレクが言う。
「寝た方が調子がいいとは思うが寝られないんだ。寝た気になるだけで頭は働いたままだが最近は意識を失う。仲間が増えたから安心するのかもしれないな。」
ゴードンが言う。
「限界まで無茶するから気力が無くなって気絶してるだけじゃないか?」
アレクが言う。
「そうとも言うかな。」
オーディスが笑う。
「アレク王の戦いにお付き合いします。これからもお供します。」
アレクが応える。
「ゴードンが言ったな。オーディスの気持ちは十分に受け取った。感謝するが此処からは俺とゴードンの戦いだ。アリシアや子供を泣かせられない。ラースに帰還してくれ。」
オーディスが言う。
「分かりました。大人しく帰還します。まだ決戦には時間があるようですので鍛えて準備します。目標は先の九頭竜を私とエスレインで撃破できる位には鍛えます。」
アレクが嬉しくて笑う。
「英雄オーディス。並びにラース騎士団の諸君。長らくの遠征に感謝。ルーマ最強の騎士団に栄光あれ。」
オーディスが片膝を着く。ラース騎士団も続く。
「アレク王の御力でラースの民は救われました。我等ラース騎士団はアレク王と共にこれからも戦います。これよりラースに帰還し更に鍛え、王の次の任務をお待ちします。」
アレクがオーディスを立たせて握手する。
「俺の憧れで友のオーディスに心から感謝する。必ず力を借りる。それまでの別れだ。」
オーディスが応える。
「アレク王が私を救いラースを救いルーマを救われた。心から感謝します。では失礼。」
オーディスが黒千に騎乗する。ラース騎士団も全員騎乗する。
「ラース騎士団。これよりラースに帰還する。前進。」
オーディスが先頭を進みラース騎士団がラースに帰還する。その雄姿はアレクが憧れた英雄の姿だった。アレクは姿が見えなくなるまで見送る。ゴードンが聞く。
「オーディスは付き合う気だったのに、あれでいいのか?」
アレクが答える。
「オーディスとの約束だ。ラースが救われたら帰還してもらうつもりだった。いつまでも連れまわしたら奥方が可哀想だ。子供と幸せに暮らすのもオーディスの使命だ。」
ゴードンが言う。
「自分も御姫様と暮らしたいんだろ。」
アレクが笑う。
「ゴードンも好きな女性探せよ。大食いは治さないと無理だぞ。」
ゴードンが怒る。
「あれはゴレアの加護だ。俺のせいじゃないぞ。」
二人はアグニス達の元に向かう。
アレクはビートにコズミィの最後を録画させる。それは傭兵のハーディと間者のワンド達の立ち合いの元、アレクが執行する。悪意の元凶が死の前に命乞いをしなかったのは気が狂っていた事もあるがアレクの慈悲で精神を制御していた。この映像は各要所の都市に送られ皆が共有した。残酷な行為に映る者もいるが心から安堵する者もいる。ルーマに対する侵略行為と内乱を起こす為に仕組まれた行為と、何よりも自国の民を利用し殺してきた事実を全ての民に伝え証拠も証人も開示した。最後に判断するのは一人一人に任せる。エルニアは朝日が昇り数刻で滅亡した。ダロス大陸を牛耳ろうとした悪意が消える。
アレクはエルニアの掃除を始める。ランドとジェイドに指示してルーマ騎士団を輸送してエルニアの掃討作戦を開始する。飛竜騎士団が輸送を最速で行ない。ジェイドが陣頭指揮しエルニアの各地を調査し管理して行く。ジェイドの護衛はイザークが四六時中行う。ルーマ騎士団はヒュースの代行でディーノが管理する。
一時的に収容していた女子供をアレクが見つけた南方の海の島に移送する島流しだ。エルニアの民は全て自己中心的で他国の民を見下す思想がすり込まれ虐げる事を何とも思っていない。アレクの精神操作で確認しても生まれながらの思想には揺るがない悪魔の国の民だった。アレクは更生の道は諦め隔離して外界から遠ざける事にしたのだ。
南方の島は海流が激しく常に島を巻き込むように流れる。泳いでも船でも島からは出られない。島は大きく水源もある。植物も育ち食べる物にも困らない。ただし原住民のような暮らしになるので肥え太った者達には生き抜く力が必要になる。ランドに依頼して定期的に食料を投下するように頼み、生き残れるかは自分達の選択とした。
エルニアの兵士達は全て消し去り、軍関係者も同様に処分される。内政官も悪事を調べ処分される。悪意の原液に汚染されたエルニアの民に善人はいなかった。軽い罪ならば労役で償う事もできたが全ての国民が必ず悪事に加担している。アレクにとって救いだったのは純粋なエルニアの民が少なかった事だ。少数民族エルニア人が大勢の奴隷や他国の国民を道具として使っていたので実際に国を動かしていた人間は他国民だった。
アレクは奴隷を解放し、他国からの移民を解放する。エルニアの地に住む事を望めば生活できるように残された都市を解放し自由に住まわせる。ただし治安を維持する為にルーマ騎士団が監視監督する。要望があれば個人ではなく町として要望を提出させ住民が団結出来るように指導する。街が都市になり国になる事を願う。国になれば自治権を認め行く末を見守る。が現実は厳しいのでエルニアをルーマが占領する形で新国家を造り指導監督管理する。新国家の長が決まらないのでアレクが管理する。国の名は【スプラード】。
アレクはディーノとジェイドに管理を任せ海洋アルノに向かう。
海洋アルノを悪意が襲う。ジュウベイはサイファの妹サブリナを捜索しスィードを駆け回る。ジュウベイの感知に反応がないのは魔道の障壁に似た妨害をされている事が解る。ジュウベイは呪術士達を怪しみ捜索する。先日までは見かけた黒いローブの集団が見当たらない。スィードの住民に聞き込みをして捜すが住民も見ていないようだった。ジュウベイが停泊中の船を捜索し始める。スィードの船着き場には大小無数の船が停泊している。
”この中に隠されていると捜すのが大変じゃ。面倒な事をする。”
ジュウベイはサイファにサブリナが攫われている事を聞いている。不穏な者達がスィードで反乱を起こす事も警戒している。なるべくなら住民達には気付かれずに鎮静化したいが無理であろうと感じている。妹が攫われている事がその証拠なのだ。想定される行動は反乱勢力が妹サブリナを女王に擁立し海洋アルノを牛耳るという計画だ。
”できれば斬り合いは避けたいが無理じゃな。サイファが悲しむわい。”
ジュウベイが船に潜入し調べて行く。
サイファはアレクに思念を送る。
”アレク。エルニアはどうなったの?”
アレクが答える。
”ああ。サイファか。終わったよ。国はもう無い。囚われていた者達も皆救出した。”
サイファが安心する。
”アレクも仲間も無事だったのね。良かったね。”
アレクが聞く。
”サイファの方はどうなんだ?妹は見つかったのか?”
サイファが答える。
”駄目ね。ジュウベイがスィード中を捜してるけど、まだ見つからない。”
アレクが言う。
”ここの手配が終われば俺も捜索に加わろう。俺も敵勢力に話がある。”
サイファが聞く。
”アレクの敵なの?”
アレクが答える。
”世界の敵だ。サイファ達も狙われている。”
サイファが話す。
”私の想像だとサディアスとサブリナの母親の関係者だと思うの。”
アレクが応える。
”そうだと思う。それはエルニアの関係者だろうな。”
サイファが落ち込む。
”一番嫌な展開だわ。サブリナが可哀想。”
アレクが尋ねる。
”母親の素性は調べてあるんだろ。教えてくれ。”
サイファが答える。
”サディアスとサブリナの母親はエルニア前王の隠し子で父との婚姻も裏でエルニアが手を回していたみたいなの。”
アレクが納得する。
”それなら全てが繋がるな。周到で狡猾。ダロス西域を支配する計画だ。”
サイファがアレクに頼みごとをする。
”サディアスもサブリナも血筋がアレクの敵だけど救って下さい。”
アレクが優しく話す。
”サイファの弟と妹は俺の弟と妹だろ。救うのは当然だ。”
サイファが聞く。
”エルニアの血が流れてるのに平気なの?”
アレクが応える。
”血が問題なのではないよ。心なんだ。その人が持っている心が大切なんだ。”
サイファが喜び話す。
”アレクが好き。早く帰って来てね。”
アレクが応える。
”すぐ帰る。後でな。”
サイファが王城の窓から空を眺めてアレクに感謝する。
アレクがビートに話す。
「海洋アルノのスィード上空を旋回してくれ。上空から感知を飛ばす。」
ビートは黒雲にスィード上空を旋回させる。アレクがスィード全域に感知を発動する。王城を中心に城下の街の隅々まで知覚と視覚と聴覚と嗅覚と全ての感覚を最大に強化して感知する。住民一人一人に動物や虫。水中の生物までアレクの頭の中に映し出される。建物の中にも感覚は進入し全てを調べる。船の中を調べるジュウベイと感知が交わる。
”おお。アレク殿ですな。エルニアが片付いたのですな。”
アレクが応える。
”ああ。今はジュウベイ殿と同じ人物を捜索中ですよ。”
ジュウベイが感謝する。
”助かります。拙者の感知範囲は広くないので全域を調査するのに困ってます。”
アレクが話す。
”相手が感知を遮断してるのでしょう。違和感を探します。見つけ次第連絡します。”
アレクは他を調べる。
黒ローブの拠点は何も誰もいない。スィードの建物には怪しい人物達はいない。ジュウベイの感が当たりなのが分かり停泊中の船を感知能力を高め調べる。アレクが違和感を見つける。大型船の貨物室に侵入できない空間を見つける。
”ジュウベイ。見つけた。その近くの大型船の貨物室だ。船員は全員呪術士のようだ。”
ジュウベイが応えて大型船に向かう。
”承知。”
アレクはビートに黒雲を別の大型船に着地させる。
大型船の船員が驚く。アレクが言う。
「すまない。サイファ王女の命令だ。飛竜を待機させてくれ。」
アレクは大型船を飛び越え次の停泊船に飛び移る。先に見える大型船が目的の船だ。
出航する準備中だ。
「何だ。王城を襲う計画はどうした?」
船が動き出そうとしていた。ジュウベイが到着し甲板で戦闘を始めていた。
アレクがジュウベイに言う。
「船が動いてるぞ。逃げ出す気か?」
ジュウベイが答える。
「どうやらエルニア本国の情報が入ったようですな。」
ジュウベイが船員を斬りながら答える。アレクが言う。
「どうやって知ったか聞き出す。中に行く。」
アレクは船室に入って行く。ジュウベイが背後を護衛しながら追いかける。
ジュウベイが聞く。
「この敵の素性は御分かりですか?」
アレクが答える。
「ああ。サイファに聞いたエルニアの関係者だ。」
ジュウベイが答える。
「そうです。敵の首領はサディアスとサブリナの祖父でしょう。」
アレクが言う。
「エルニア前王。ジュイロ。コズミィの父だ。」
ジュウベイが聞く。
「サイファの弟と妹はどうされますか?」
アレクが答える。
「ジュウベイ。背後から殺気を放つのは無しだ。弟にも妹にも何もしない。」
ジュウベイが謝る。
「すみません。拙者はサイファ優先ですので確認しました。」
アレクが言う。
「俺の敵は悪意なんだ。血では無いよ。更生できる者を殺しはしない。」
ジュウベイが聞く。
「それは相手の心が見えるという事ですね。」
アレクが答える。
「ジュウベイも見えるだろ。俺より長く生きてるんだ。」
ジュウベイが答える。
「拙者はいつの頃からか見ないようになりました。あまりにも醜い者が多すぎて。」
アレクが悲しむ。
「ジュウベイの気持ちが解るよ。俺も毎回吐き気がして苦しくなる。」
ジュウベイが笑う。
「鈍感になるのも鍛錬がいりますぞ。かなり高度な訓練ですな。」
アレクが笑う。
「今度、試してみるよ。着いたぞ。ここが見えない空間だ。」
ジュウベイが居合斬りで扉を破壊する。
ガキィィィィィン
二人が驚く。アレクが言う。
「これは魔道ではないな。何だ?呪印?結界のようだが魔道ではないな。」
ジュウベイが考え答える。
「ヤマトにいる陰陽道を使う者の技かもしれません。文字に魔道を付与させ札に呪印を書き、それを結界として貼り付ける。強力な呪術者がいればその札で何処にでも術が出せる。反則のような技ですな。」
アレクが話す。
「ヤマトには近い内に出向きたい。ジュウベイに案内を頼めるかい。」
ジュウベイが応える。
「サイファとアレクが夫婦になれば役目が終わります。御供しますよ。」
アレクが笑う。
「では妹を救わないと・・・なっ。」
アレクが渾身の拳を扉に叩き込む。
ゴッバァァァァン
結界ごと扉が破壊される。ジュウベイが笑う。
「どんな技ですかな?結界ごと破壊するとは。」
アレクが答える。
「ああ。感覚で解析してみた。攻撃を弾く術なら攻撃の力を想定する。それを超えれば術は耐えられないだろう。反則には反則だな。」
ジュウベイが呆れる。
「確かにアレクの言う通りですな。」
アレクが中に入る。暗闇の中に数人の気配がする。広い空間だ。アレクが光魔道で中を照らす。サブリナが眠らされている。呪術士が数人、呪符を構えている。中心にいる者を庇う様に並ぶ。アレクが聞く。
「ジュイロよ。孫娘をどうする気だ。」
首領が答える。
「お前が黒竜王か。我が国を滅ぼした悪魔め。」
アレクが再び聞く。
「馬鹿と話すのは疲れる。孫娘をどうするのか聞いてる。」
ジュイロが言う。
「お前には関係ない。俺の手駒だ。」
アレクがジュウベイを見る。ジュウベイは呆れ頷く。アレクが話す。
「お前は何故、この世界に産まれ生きているのか考える事は無いのだろう。」
アレクの姿が消える。ジュイロ以外の呪術士は消え去る。ジュイロは何が起きたか解らない。怯えて腰を抜かす。アレクが聞く。
「お前に人の心があれば苦しむ者が見えるのにな。自分の私欲に溺れ、馬鹿息子を野放しにした。どれだけの人が苦しみ、悲しみ、絶望し、殺されたか。」
アレクがジュイロの前に立ち言う。
「最後に懺悔する気はあるか。」
ジュイロが吠える。
「馬鹿め。お前達は終わりだ。今竜種を暴れさせてアルノを潰してやる。エルニアの復讐だ。お前が後悔しろ。」
ブバッゴッ
アレクはジュイロの顔面を破壊し、黒渦でジュイロを呑み込み存在を消し去る。
「ジュウベイ。俺は竜種を確認する。妹と他の呪術士を任せる。アルノの仕事だ。」
ジュウベイは応える。
「承知しました。サブリナは眠らせておきます。アレク殿の治療が必要でしょう。他の呪術士は拙者が始末します。お気になさらずに。」
アレクは手を振り後にする。
アレクが大型船の甲板に飛び出す。船員が怯えている。外洋に出た船に猛然と向かって来る竜種が迫る。アレクが黒雲を呼ぶ。
「黒雲、何処だ。」
ビートが応える。
「アレク王。真上にいます。」
アレクが大型船の上空に跳ぶ。黒雲がアレクを降下しながら乗せる。アレクが言う。
「水竜だ。呪印を喰らってる。自我が無い。俺が止めるからビートは上空で待機しろ。」
ビートが応える。
「はい。上空で待機します。」
水竜に向けて黒雲が加速する。水竜は狂ったように暴れながら水中を進んで来る。
アレクが黒雲から跳び、水中に飛び込む。水竜の正面にアレクが現れ、水竜がアレクを標的にする。アレクが黒剣を構えて言う。
「水竜よ。お前は誇り高き八翼の一翼だ。人間種の呪印ごときに支配されるな。」
アレクに迫る水竜が叫ぶ。
ゴアオオオオオオオオ
水竜が怒濤の咆哮を放つ。アレクが水魔道を体に纏い。水竜の咆哮を受け流す。
アレクが黒剣に黒霧を纏わせる。黒剣が柱のように上空まで伸びる。
「黒剣ザウザリィアン。」
上空に伸びた黒剣が迫り来る水竜を叩きつける。黒剣の振り下ろされた海が割れる。
ビートが上空から再び目撃する。
「う、海が割れた。前の時より範囲が長い・・・神よ。」
割れた空間に水竜が圧しつけられている。
グガアアアアアアアアア
水竜の意識が飛ぶ。水竜は沈黙する。アレクが水竜を持ち上げて水上に現れる。
ビートが近づき確認する。
「アレク王。水竜はどちらに運ばれますか?」
アレクが答える。
「スィードに向かう。俺が運ぶから黒雲に乗せてくれ。疲れた。」
ビートがアレクを乗せ。アレクが風魔道で水竜を運ぶ。途中、大型船のジュウベイに指示してスィードに向かう。水竜は気絶したままだ。アレクが水竜を連れてスィードに到着するとサイファが出迎える。
「また無茶したのね。お帰り。」
アレクが答える。
「ああ。ただいま。」
アレクが座り込み話す。
「今、ジュウベイがサブリナを連れて来る。俺は休憩だ。連戦で疲れやすくなってる。」
サイファがアレクに抱きつき座り込む。部下達が回りを囲んで護衛する。
水竜が大型船の隣で同じように停泊している。スィードの住民が水神を崇め祈りを捧げている。海洋民族は水竜が水神なのだ。気絶し浮かんでいる水竜を心配そうに崇めている。
アレクが皆に言う。
「水竜は悪党に操られて暴走した。今は気絶してるだけだ直ぐに目覚める。安心しろ。」
住民達が喜びアレクに感謝する。アレクがサイファに言う。
「守り神なんだな。竜種を大切にする民は必ず守られる。良い民だ。」
サイファが嬉しそうに話す。
「海洋アルノの民は自由な海の民よ。水竜も広い海を自由に生きてる。皆の憧れなのよ。スィードの周りには小さな島が無数にある。皆の守り神が水竜なの。」
アレクが話す。
「俺には羨ましいよ。海洋アルノの民は眩しいな。」
サイファがアレクを抱きしめる。ジュウベイの乗った大型船が帰港する。
「御当主。サブリナを保護しました。まだ眠っています。」
ジュウベイがサブリナを抱きかかえ話す。アレクが立ち上がり話す。
「ここで治療しよう。直ぐに済む。」
アレクがサブリナの額に手を当てる。黒霧を注ぎ状態を調べる。呪印が浮かび上がる。
サイファが心配する。
「その文字?は何?魔道なの?」
アレクが話す。
「異国の術式だな。解析できてるから大丈夫だ。」
黒霧が呪印を破壊する。浮かんだ呪印が消滅する。アレクが言う。
「もう目覚める。怖い夢でも見てるだろう。優しくしてやるといい。」
サイファが喜ぶ。サブリナが目覚める。
「姉様。ここは何処?ジュウベイ、私は寝てたみたいだけど・・・。」
サイファが話す。
「サブリナは怖い夢を見てたのよ。目覚めて良かったわ。」
サブリナが話す。
「暗闇にずうっといて怖かったけど温かい光で目が覚めたの。」
サイファが話す。
「サイファを助けてくれたのは私の旦那様よ。」
サイファがアレクを紹介する。サブリナが喜ぶ。
「お姉様の旦那様ですか。初めましてサブリナです。」
アレクが挨拶をする。
「私はアレクです。サイファの夫になります。」
サブリナが嬉しそうにサイファに言う。
「お姉様。アレク様は温かい光の方ですね。解りました。良い旦那様ですね。」
サイファがサブリナを抱きしめる。アレクが微笑む。
ジュウベイが水竜の気配に気づく。
「アレク殿。水竜が目覚めます。どうしますか?」
アレクが言う。
「俺が話す。皆は下がってくれ。」
アレクが水竜に近づく。海の上を歩いて水竜の前に立つ。サブリナが驚く。
「お姉様。アレク様が水の上を歩いてますよ。不思議だわ。」
サイファがサブリナの頭を撫でる。
「アレクは凄い人なのよ。静かに見ていましょ。」
サブリナがサイファに抱きつき頷く。
アレクが黒霧で水竜を包み込む。アレクが水竜に話す。
「水竜よ。我は黒竜王アレク。意識は戻ったか。」
〈ああ。人間種の王。やっと闇が晴れた。陸アルノの王に捕獲されそうになった時に呪印を打ち込まれてしまった。翼を切られて回避できなかった。不覚。〉
アレクが話す。
「水竜よ。俺はザウザーの眷属だ。」
〈おお。ザウザー様は目覚めたのか?我との意識は繋がらぬがどうしたのだ。〉
「まだ。復活していない。意識が目覚めただけだ。今なら話せる。どうする?」
〈ああ。話したい。頼もう。〉
アレクが水竜の頭に手を当て話す。
「ザウザー。水竜が話したいようだ。任せるよ。」
《ああ。我が話そう。水竜リベルよ。ザウザーだ。》
〈おお。我が主ザウザー様。復活をお待ちしていました。〉
《久しいな。八翼の一翼リベルよ。美しい翼が片翼か、悲しいな。》
〈申し訳ありません。人間種の手にかかり失いました。〉
《アレクが治すだろう。気に病むな。それよりも今後はアレクに力を貸してやるのだ。》
〈はい。これまでの眷属とは違うようです。アレクに力を貸します。〉
《そうしてくれ。我はまだ完全に回復していない。復活はまだ先だ。》
〈はい。世界の流れが激しくなるようです。ザウザー様の復活が近いようです。〉
《ああ。だが八翼が揃わなくては三光には勝てない。リベルよ。八翼を集めよ。》
〈はい。八翼を集め三光を倒します。〉
《頼んだぞ。我はまた眠る。力を溜める。》
〈アレクよ。ザウザー様がアレクに力を貸すように言われた。〉
「ああ。解ってる。リベル。良い名だな。」
〈人間種の王アレクよ。我はリベル。我はアレクに従おう。〉
「では俺の妻と契約してくれ。」
〈海洋アルノの王女だな。よかろう。女傑が眷属とは面白い。〉
アレクがサイファを呼び手を繋ぎ水上を歩く。リベルの前で話す。
「サイファに水竜リベルの眷属になってもらう。いいかい。」
サイファが笑顔で応える。
「アレクの力になる。水竜リベルと契約するわ。」
アレクが頷く。
「水竜リベルに号を贈る。【水麗竜リベル】。我が妻【竜の銃士サイファ】と契約を。」
アレクから二人に黒霧が注がれる。リベルが応える。
〈我、【水麗竜リベル】。【竜の銃士サイファ】と五分の契約を交わす。〉
サイファが応える。
「私、【竜の銃士サイファ】。【水麗竜リベル】と五分の契約を交わすわ。」
二人の体が発光する。紺碧の輝きがスィード中を包み込む。発光は天に向かい収束し二人に集まり消えて行く。発光が治まり二人が元に戻る。
〈契約は成った。サイファよ。我の力は水。全ての生命の源のひとつ。使いこなせば世界を救えるだろう。アレクに解放してもらうがいい。〉
サイファが聞く。
「リベルは呼べば応えてくれるのね。」
リベルが言う。
〈我とサイファの意識は繋がっている。いつでも呼ぶがいい。力を貸すと約束しよう。〉
サイファが応える。
「ありがとう。水神様が私の守護神なのね。嬉しわ。」
リベルが言う。
〈サイファが強くなれば我も強くなる。お互いの守護神なのだ。〉
アレクが話す。
「リベルに頼みがある。」
リベルが応える。
〈アレクはザウザー様の眷属。何でも言うがいい。〉
アレクが話す。
「この先の戦いは熾烈で苛酷だろう。必ずサイファを守ってくれ。」
サイファが目を閉じる。リベルが応える。
〈約束しよう。我の命に掛けてサイファを守ろう。それは我の意志で動く約束だ。〉
アレクが微笑む。
「ありがとう。リベルに贈り物だ。ビート。ここに。」
アレクがビートを呼ぶ。黒雲が水竜の翼を包んだ荷をアレクに渡す。
「リベルの美しい翼だ。今、治療しよう。」
アレクは翼を黒霧で包みリベルの傷跡に付ける。黒霧が傷を修復し翼が蘇る。両翼になったリベルが翼を羽搏かせて吠える。
〈クウォォォォォォォォォオ。〉
リベルが上空に飛び立つ。スィードの上空を旋回し美しく透き通った翼から太陽の色鮮やかな輝きが降り注ぐ。
「美しいな。」
アレクが感嘆し、サイファが支える。リベルが言う。
〈人間種の王。アレクよ。心から感謝する。再び飛べる喜び、至極である。〉
リベルは上空から話す。
〈サイファよ。いつでも力を貸す。呼び出してくれ。我は南の住処で休ませてもらう。〉
サイファが応える。
「リベル。またね。」
リベルが南の島に向かって飛んで行く。アレクが見届けて言う。
「サイファ。そろそろ限界だ。暫く動けそうに無い。ザウザーとの同調で体を酷使し過ぎた。仲間には思念を飛ばすから何処かに寝かせてく・・・れ。」
サイファがアレクを支えて言う。
「お疲れ様。ゆっくり休んでね。」
アレクはザウザーの同調で身体能力を超えた。体が自己修復を始め体力を回復させる。全快するまでは起きる事は無い。アレクは動かない体を回復させている間、思念で仲間に指示を出す。アレクがゴードンに話す。
”ゴードン。俺は暫く動けない。冒険者を雇ってドルマの調査をしてくれ。ゴードンが指揮して古代文明の遺跡を探してくれ。ドルマの攻撃にはゴードンが対応すれば問題ない。遺跡は場所が解ればいい。中には入るな。冒険者に欲張らせるなよ、死ぬぞ。”
ゴードンが聞く。
「アレクよ。ドルマに橋は架けない方がいいよな。」
アレクが答える。
”ああ。隔離しておく渡ったら壊してくれ。”
ゴードンが返事をする。
「ああ。分かった。起きたら呼んでくれ迎えに行く。」
アレクが答える。
”こちらは大丈夫だ。ドルマを頼む。ラースが近い。救援はオーディスに頼んでくれ。”
アレクは次にジェイドに連絡する。
”ジェイド聴こえるか。”
ジェイドが応える。
「はい。アレク王。どうされましたか?」
アレクが話す。
”俺は回復するまで動けない。新国スプラードは上手く動き出せそうか?”
ジェイドが答える。
「はい。エルニア人を一掃しても元々人数は少なかったので支障はありません。移民の国民に国の基礎になってもらいます。小さな集落で纏まり複数で街にします。街の集まりで都市になるよう元の都市を再建します。資金はエルニアの財宝で賄えます。
アレク王の発掘された黒金剛を国の資源として輸出させます。切り取る技術が無い為、塊の大きさで価格を決め国が管理します。横流しをする者には厳罰として労役を科します。ドワーフのロック殿が飛行艇で回収されますので直接交渉で済みます。中間業者が入らないので利益も相互にあるはずです。
枯渇する資源ですのでロック殿に依頼して鍛冶の街を作り鍛冶師を国の産業にします。他の鉱物で製品を作り他国に販売できれば産業も増えます。スプラードは南に海が広がりますので海洋資源も見こめます。鍛冶技術と造船技術を得られれば、この国は移民の国として他国からの移民が増え発展できます。」
アレクが楽しそうに言う。
”ジェイド。良い構想だ。ただジェイドだけでは大変だ。エピンからロイドを招聘しろ。二人で国の基礎を作れば早く独り立ちできる。人材も発掘してくれ。虐げられていた人の中にも優秀な者はいる。二人の目があれば見つけられる。頼んだぞ。”
アレクは次にバーンに話す。
”バーン。飛行艇の動力は維持できるか?”
バーンが答える。
「おお。主よ。何方にいらっしゃるのですか?御戻りはいつでしょうか?」
アレクが答える。
”俺は今、動けない。バーンは飛行艇の動力を維持してロックの輸送を手伝ってくれ。後、三艇は至急配備したい。ロックに頼んでくれ二艇は魔道飛行艇団に回す予定だ。”
バーンが喜ぶ。
「ありがとうございます。では魔道石を帰りの便で回収してきます。魔道石は大量に必要になりそうですね。」
アレクが褒める。
”ああ。バーンが正しい。そうしてくれ。シエムにも礼を頼む。それとエピンにいる囚われていた魔道士達の管理を頼む。特にエルフ族の魔道士は強力だから国に帰るようなら好きにさせていい。悪意に晒されていたから人間種は敵視され易い、平和的に解放してくれ。望むなら滞在してもらえ。問題があれば連絡してくれ。目覚めてから対応する。”
アレクは次にガヴェインと話す。
”ガヴェイン。アレクだ。海洋アルノは無事だ。サディアスに伝えてくれ。妹も無事だ。新興国はどうだ?問題があれば隣国と連携してくれ。新国スプラードも順調だ。サディアス達と競争だ。内政の相談に出向いてジェイド達と話すと勉強になるだろう。”
ガヴェインが応える。
「アレク王に感謝します。サディアス王に伝えます。」
アレクが言う。
”オーディスはラースに帰還した。ガヴェインもいつかガインに会いに行くといい。国境はもう無いに等しい。身分証を持つ国民には自由に行き来できるようにダロス西域は統一する。自由貿易の基本だな。”
ガヴェインが応える。
「解りました。国の身分証を発行します。素晴らしい構想です。父にも会いに行きます。もう歳でしょうから顔を見ておきます。」
アレクが言う。
”ガインはまだまだ現役だよ。それでは頼む。”
アレクは次にランドに連絡する。
”ランド。輸送と支援、ご苦労。翼竜も増員できたようだな。”
ランドが応える。
「アレク王。何方におられるのですか?」
アレクが応える。
”今は海洋アルノのスィードにいるが体が動かない。回復するまではランドがダロス西域を監視してくれ。外敵は排除したが小さな悪意はいつでも現れる。飛竜騎士団が目を光らせてくれ。ランドに一任する。弱者を踏み躙る者に容赦はいらない。頼むぞ。”
ランドが応える。
「アレク王の御命令のままに悪意を排除します。翼竜騎士の練兵にもなります。」
アレクが応える。
”ランド達は既に一軍団だ。俺の命令が無くても独自に動いてくれ。事後報告でいい。”アレクは次にアグニスと話す。
”アグニス。イザークの指導ご苦労。急成長したな。”
アグニスが応える。
「アレク王。御無事ですか?九頭竜の戦闘は負荷が酷いように感じました。」
アレクが応える。
”アグニスはよく見ているな。お陰で体が動かないよ。今は回復待ちだ。”
アグニスが聞く。
「海洋アルノですか?護衛は必要ですか?」
アレクが言う。
”大丈夫だ。サイファもジュウベイもいる。このまま自然治癒と自己再生で回復する。それよりもアグニス達が救出した者達はどうなってる。洗脳は酷いのか?”
アグニスが応える。
「少年兵は大丈夫ですが傭兵達はハーディが説得しています。ですが国が滅びた事を認められないようです。今は拘束して収監しています。各地に派遣されている傭兵と間者も大勢いるようです。何か対策を考えないと内乱を起こす可能性もあります。」
アレクが考えて言う。
”そうだな。傭兵は見つけられるから問題無いが間者は潜伏されていると発見できる者が限られる。アグニス達だけでは広大なダロスを探せない。各国に発布して間者を捕らえよう。ただし生かして捕まえるように厳守させ、自首する者を優遇しよう。早く足枷を外し自由にさせてやりたい。”
アグニスが応える。
「承知しました。ヒュース殿に各地に発布してもらいます。」
アレクが言う。
”アグニス達は新国スプラードと自由貿易国アルノの監視と調査を頼む。最終的にはエルニアの間者を全てアグニスが管理してワンド達が隊長として五部隊の諜報部を創ってくれ。解放された間者や傭兵達にも仕事は必要だ。正当な報酬のある仕事に就いてもらう。”
アグニスが応える。
「はい。ワンド達と相談して諜報部を創設します。アレク王の御帰りを御待ちします。」
アレクは意識を失う。深い眠りにつき夢を見る。
アレクはラース騎士団が帰還したラースを見ている。出迎えのガインがオーディスに抱きつき泣いている。オーディスが落ち着かせてガヴェインの話を伝えている。ガヴェインは健在でアレクと対決し一度死んだ事と蘇りサディアスの元で尽力している事も話した。ガインが倒れそうになるがオーディスが支えている。
騎士団本部に馬車が到着しアリシアが飛び出してくる。オーディスが慌てて抱きしめる。無茶して飛びついたアリシアにオーディスが怒っている。アリシアが笑いながら謝っている。オーディスが少し大きくなったアリシアのお腹を触っている。二人の幸せな姿に皆が喜んでいた。馬車からヒュースとマリアが降りて挨拶する。
ヒュースはオーディスと握手して話している。ルーマの最大の敵が滅びラースの平和とルーマの平和が訪れた事を喜んでいた。ヒュースがアレクから預かった魔道器をアリシアに渡して二人がいつでも話せる様にアレクが用意した事を話す。アレクに任務を完了した事を告げられ帰還するように言われた事を皆に話す。アリシアが話しかける。
「アレク様。ありがとうございました。今はゆっくりお休みください。王様の次の使命が見えます。此方はオーディス達が守ります。安心して下さい。」
オーディス達が驚く。
「アリシア。何か見えるのか?」
アリシアが話す。
「アレク様。王様が皆を見て微笑んでました。今は動けなくて寝ているようです。」
オーディスがアリシアを抱き寄せて話す。
「俺達の力が足りずアレク王に負担をかけてしまった。今は回復されているのだろう。俺もまだ戦いに向かう。それには自身を鍛えなければ足手まといになる。アレク王のお荷物では世界を守れないだろう。」
アリシアが応える。
「王様は解ってますよ。英雄と再び共に戦う日が来るまでの少しの別れだと。」
オーディスが言う。
「そうなんだ。アリシアには判ると思う。真の敵が現れる。この平和が奪われる。」
アリシアが話す。
「束の間の平和なんです。でも大切な刻なの。人が幸せを感じる為の大切な刻なの。」
オーディスがアリシアを抱き上げ黒千に乗せる。
「ガイン伯父。ヒュース殿。俺は施設に寄ってから帰るよ。皆、解散。」
ガインとヒュースとラース騎士団がオーディス達を見送る。ヒュースがガインに告げる。
「私も王都に戻ります。ガイン殿にはマリア達に気を使って頂き感謝します。今後も御助力をお願いします。」
ガインが応える。
「ヒュース殿達がルーマを再建されているのだから当然ですよ。アリシアが楽しくしているので儂は微笑ましく見ているだけですよ。」
マリアがヒュースに話す。
「アリシア様と施設の子供達がアルとミリアを明るくしてくれるのよ。王都の生活とは比べられない程、私達は幸せなのよ。ラースはルーマの未来の街だわ。」
ヒュースが嬉しそうに話を聞いている。
アレクはラースから一気に王都の魔道院に飛んで行く。
カイルが魔道院に通う。エレンが追い駆けて行く。ニヴンとケインも追い駆ける。カイルは校門の前で待つエステルに挨拶する。エレンがエステルに抱きついて話している。エステルが嬉しそうにエレンと話しながら魔道院に向かう。校庭で寄宿舎から通学する生徒と挨拶している。皆、下町の住民だった生徒達だ。レイラが望んだ魔道を学びたい生徒達の魔道院に変わり始めたのだ。皆の顔が明るい。
アレクの演説から魔道院が独自の機関として動き出し、魔道士達が自分達と次の世代の魔道士の為に心を一つに励んでいる事が解る。魔道院と併設された魔道士組合が連日の依頼待ちの長蛇の列になっている。一番の依頼は土魔道による住宅や公共事業の整備で、今の王都には大至急の案件だ。ジェイソンが魔道士組合に依頼して大量に発注しているのだ。
アレク軍に従軍していない魔道士達や魔道院を卒業したばかりの魔道士が修練も兼ねて依頼を受けている。魔道士組合の管理を年老いた熟練の魔道士が担当し指導しているので苛酷な任務で苦労する事は無い。魔道士に合わせて依頼を振り分けている。皆が自分に合った依頼をこなしている。皆の収入も満足できて魔道士組合も運用資金が増え魔道院の運営も順調だ。更に下町に魔道士の育成塾を創設し小さな子供達の中に適正者がいれば無償で指導している。小さな魔道力でも適正者には指導して皆が魔道に理解し始める。
アレクはこの景色を楽しく見ている。魔道院の授業で実戦訓練をしている。カイルが風魔道で空中に上がり自由に空を移動する。指導している教師が驚いている。エレンがケインにカイルに負けないように煽っている。カイルより高く飛び皆が更に驚いている。ニヴンは真面目に風魔道で障壁を発動させている。エステルが教室の窓からカイル達を見て笑っている。レイラが自室の研究室からエレンに手を振っている。レイラが気づいていないふりをしているのが判った。アレクが微笑み手を挙げ飛び立つ。レイラが見上げる。
「また無理してるのね。私も強くなるよ。」
アレクはルーマから飛び出しエルフの森に飛ぶ。ドルマの東、断崖の上に樹海が広がるエルフ族の国がある。アレクは感知を飛ばしているわけではないので、ただ見ている。樹海の中でエルフ達が狩りをしている。よく見るとエルフの肌の色が褐色だ。ダークエルフ族なのだろう。アレクの知識の中に闇魔道に特化したエルフ族がいる。それがダークエルフ達だ。光のエルフ族と闇のダークエルフ族。
ドルマの隣の樹海にはダークエルフ族が国を創っている。皆、弓を武器として使っているが矢を放つ時に魔道が付与されている。ダークエルフ族は魔道の適正が五属性で光魔道が使えないようだった。それでもそれ以外の属性は人間種の特化型に匹敵する魔道力なのが解る。火魔道を付与した矢を放ち獲物を狩る。燃え上がる獲物と周りの樹木を瞬時に消火している。燃えて枯れた場所を土魔道で耕し、植物の育つ環境に戻す。
アレクは自然の流れのような魔道に感心する。彼らの生活や営みの中に魔道は当然のように存在する。アレクの思い描く世界がそこにあった。ダークエルフ族は自由に生きている。狩りをして食事をとり涼しげな木の上で休む。集団で行動する者は少なく単独で過ごす者達がほとんどだった。時々現れる巨大な魔獣を倒す時に複数で攻撃している。
アレクはダークエルフ族が気に入っていた。長命種の緩やかな生き方に憧れてしまう。それは人間種の短命を悲しむ事の裏返しだった。今のアレクは自分でも解っている。自分は死ねない体になったのだという事を、死んで蘇った自分は人間種ではない事を理解している。これから先を共に生きる人達が少ない事を理解している。
アレクはダークエルフ族の国から更に東に向かう。断崖の川で隔たれた隣の樹海にエルフ族の国がある。アレクはダークエルフではないエルフ族がミレニアのいう悪意の元だと感じていた。先程のダークエルフ達は自然と共に生き害意を感じる事も無かった。だが、こちらのエルフ族は憎しみが渦巻き悪意が蔓延し始めている。エルフ達が集団で集まり集会を開いている。攫われた仲間を救いだす為の作戦会議のようだが意見が分かれている。
反対派は少数精鋭の部隊を派遣して秘密裏に救出するように唱えている。しかし、強硬派が軍隊を指揮して西方に侵攻するように集団を扇動している。目的地はエルニアのようだが思惑は西域を支配する気のようだ。そもそも人間種を滅ぼせば仲間を失う事が無いと皆を説得する指導者が中心に強硬派を煽っているのだ。戦争行為に至れば死傷者が増え、長命であっても人口の少ないエルフ族には種族滅亡の危機に繋がると反対派が唱えるが、怒りに呑み込まれた強硬派が反対派を拘束してしまう。
アレクはこの危険な状況を止める為に自己の回復に集中する。アレクは深い眠りの中でエルフ族との衝突を回避する事を考える。鍵となるものはダークエルフ族であると考え、回復後に外交として自ら出向くことにする。武力衝突は簡単である。アレク軍の最大戦力で圧し潰せば人間種に被害は出ない。だがそれでは悪意の思い通りになる事だ。
悪意は世界の混沌を望む、世界の揺り篭の揺り戻しなのだ。人が平和に幸せになれば現れる不幸を呼ぶ悪魔なのだ。アレクはその連鎖を断ち切りたい。誰もが幸せに生き、心から喜び合える世界が訪れる事を信じている。それが途方もなく難しい事も二つの一滴から聞いている。だが止める気は無い。少しの希望でも前に進み意志を示す。それが次に繋がると確信している。幾十幾百幾千幾万幾億と続く世界の流れを断つ力になると信じている。
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