第4話 アグニスとイザーク
イザークが敵兵と対峙する。傭兵育成機関の兵士がアグニスの部隊と交戦中なのだ。育成機関の兵士はエルニア王都からの出向してきた軍人達で傭兵を鍛える為の指導官でもある。だが最近の戦闘でアレク軍により傭兵が激減した為エルニアの正規軍が練兵の為に集結していた。アグニスはイザークと合流し経験を積ませる絶好の相手とし、影の部隊を後方支援としてイザークを前面に戦闘を仕掛けた。アグニスが話す。
「イザーク。疲れたら交代するぞ。どうだ。」
イザークが答える。
「アグニス隊長。まだまだ行けます。相手が弱いと思いますが油断せず。進みます。」
アグニスが言う。
「では少し急いで進んでくれ。ハーディ達もこちらに向かっている。合流して王城に向かう頃合だ。のんびりしてると遅れるぞ。」
イザークが気合いを入れる。
「では切り崩して敵将まで進みます。討ち洩らしは隊長に任せます。」
イザークは長剣を肩に載せて構える。敵兵の集団に一気に跳び込み長剣を振り抜く。
イザークの巨体から斬りつけられた一帯が剣の軌道上を全て切り離される。斬撃も遅れて斬りつけ更に奥の兵士も斬り殺す。一刀の余韻から二刀目が振り抜かれる。イザークの進行方向は全て斬り殺されて行く。直線上の布陣は赤い道になる。アグニスがイザークの討ち洩らしを斬り刻む。アグニスはジュウベイとの死合いで成長する。双剣の流れに淀みはない。双剣が敵兵を斬り飛ばした軌道のまま次の兵士を斬り飛ばす。軌道を変えてはいるが余分な力が入っていないので軌道そのものが一つの線になり繋がる。
イザークが目の端でアグニスの剣技を見る。
「アグニス隊長の剣技、見事です。淀みない流れる剣。私も試します。」
イザークは再び構え気合いを入れ直す。
「うおおおおおおお。」
イザークが担いだ構えから一閃し次の軌道を調整する少しの動きで長剣を捻り引き戻す。二閃目が戻って来る振り上げられた長剣が斬り上げの頂点で軌道を変える。三閃目が振り下ろされる。永遠に続く無限剣が誕生する。イザークが進む方向に敵は無し。アグニスと二人でエルニアの兵士は殲滅される。
敵将が現れ話す。
「見事な剣技。相当な武人だな。私も御相手願いたい。」
イザークが長剣を構える。
「エルニアの兵は消します。名乗りはいりません。行きます。」
イザークが敵将に討ち込む。
ガキッ
初めて剣を止められる。イザークが言う。
「お見事です。違う戦場でお会いしたかった。」
イザークが距離をとる。敵将が微笑む。
「私もこの国にはうんざりなんだ。やっている事は悪党以下。隣国から金で人を買い。手駒や実験台にする。屑以下の悪党が女子供を蹂躙する。この刻を待っていた。生死の境を感じて闘う最後の闘い。若き武人よ。いざ参る。」
敵将は片刃の刀を構える。アグニスが敵将の構えとジュウベイが重なる。イザークが構えから討ち込む寸前にアグニスが止める。
「待て。イザーク。」
イザークが止まる。アグニスが話す。
「俺が代わる。少し待て。」
イザークが頷き剣を下ろす。アグニスが敵将に尋ねる。
「貴方はエルニアの武将ではないな。何処の者だ。」
敵将が答える。
「ほう。解りますか。身なりもエルニアの物ですが・・・得物で気づきましたか。」
イザークが理解できない。アグニスが話す。
「知り合いと似た得物です。カタナですか?」
敵将が驚く。
「よく知っていますね。これは故郷から共にやって来た相棒です。」
アグニスが尋ねる。
「この戦いは相手の素性に関係なくエルニアを消滅させる戦いです。だが貴方は色が違いますね。何故、エルニアに手を貸すのですか?」
イザークが敵将を観察する。敵将が答える。
「私はヤマトのサムライです。エルニアには父親と旅に出て海で難破し漂着したエルニアに助けられ剣の指導者として雇われました。父は亡くなり私が跡を継ぎました。命の恩人なんですよ。こんな腐った国でも救われた自分は恩義を返すのが父の遺言です。」
アグニスが納得する。イザークには納得できない。
「ではエルニアには父上の遺志で従っているのですね。貴方は縛られる事はないはず。」
アグニスがイザークを止める。
「武人は、サムライは忠義を尽くす。彼は父親に忠義を尽くすのだ。不器用なんだ。」
アグニスが続ける。
「私がお相手します。ジュウベイ殿との再戦の為に貴方と死合いたい。」
敵将が驚く。
「剣豪ジュウベイ。生きておられましたか。」
アグニスが聞く。
「お知合いですか?」
敵将が話す。
「父の目標でした。見知ってはいません。伝説の剣豪です。数百年前の武人。」
アグニスが驚く。
「そんな昔の方なのですか?確かに歳は取っていましたが健在ですよ。」
敵将が言う。
「だから伝説の剣豪なんです。ヤマトのサムライは自らを鍛え頂上を目指します。」
アグニスが言う。
「それがジュウベイなのですね。存在も解らない相手を探して旅に出たのですか?」
敵将が笑う。
「馬鹿ですよね。私もそう思います。馬鹿なんですよ。剣に生きて剣に死ぬ。だが幼い頃から父を見てきた私にはそれが美しいんです。父は眩しかった。私も好きなんですよ。」
敵将が刀を構える。下段の構えだ。アグニスが双剣を構えて反応する。
「判りました。生死は時の運。私も武人として立ち会います。お名前を頂きたい。私はアグニス。アレク軍影の部隊隊長です。」
敵将が応える。
「私はヤマトの剣豪ムサシが一子イオリ。全身全霊で御相手する。」
イザークが静止して見守る。ワンド達も集まっている。
イオリは下段の構えのまま動かない。アグニスが間合いを詰める。少しずつ少しずつ。
アグニスの間合いとイオリの間合いが重なる。アグニスが仕掛ける。双剣が左右からイオリを襲う。ジュウベイとの一戦よりも速い双剣がイオリを襲う。イオリの刀が返る。片刃の刀の刃がアグニスに向かい振り上げられる。イオリは後ろに反り返りアグニスの双剣を躱す。イオリの刀がアグニスを捉える刹那。アグニスの双剣が軌道を変えてイオリの刀を叩き落とす。その勢いのままアグニスは前転し双剣をイオリの両肩に討ち込む。
「がはっ。くっ。」
イオリは跪き項垂れる。
「お見事で・す。最後の闘いに感・・・謝。」
絶命する。
アグニスがアレクの黒霧をイオリに送り込む。アグニスがアレクに話す。
「アレク王。良き武人でした。お助け下さい。」
アレクが話す。
「見ていた。素晴らしい闘いだった。曇りない澄んだ剣だ。アグニスから遠隔で黒霧を操作する。そのまま待ってくれ。」
アグニスから放たれた黒霧がイオリを包み込む。傷の修復を始め心臓周辺の血管を治す。血流が戻り心臓を目覚めさせる。鼓動が始まる。イオリの顔色が戻り傷が完全に修復される。項垂れたままイオリが目覚める。
「ここはどこだ。俺は戦場で武人とアグニスとの死合いで死んだ。はず。」
アグニスが話す。
「イオリ殿。まだ死ねないようです。これからどうしますか?」
イオリが天を見る。
「まだ高みには届かないようです。父を追います。エルニアには、父には忠義を尽くしました。私は旅立ちます。」
アグニスが話す。
「アレク王が貴方を救いました。いつか御力添えをお願いします。」
イオリが応える。
「はい。蘇生される時にアレク王を感じました。温かい方です。いつか恩をお返しします。それとは別にエルニア王城の情報を話しておきましょう。」
アグニスとイザークが真剣に聞く。
「王城の上物はアレク王が破壊されましたが本当の城は地下にあります。城ではありませんがエルニアの兵器等は全て地下に格納されています。中には生物兵器もあります。おぞましい生き物を造り兵器にしています。まだ実用段階ではありませんが危険な研究です。それ以外は古代兵器を模して大量破壊兵器を開発しています。それもまだ実用段階ではありませんが時間の問題でしょう。この二点は必ず消し去って下さい。」
アグニスが感謝する。
「イオリ殿に感謝します。では先を急ぎます。いつかまた、次は酒でも飲みましょう。」
アアグニスがハーディ達との合流に向かう。イザークもイオリに礼をしてアグニスに続く。
イオリは二人とアレクに感謝し、故郷のヤマトに旅立つ。
ランドは王都の軍営に寄りジェイドに翼竜を一頭使役させる。トリニドに従う翼竜はアレクがいなくてもトリニドが契約を纏めて使役できる。ジェイドに翼竜を待機場の森に移す事を伝え自分はエルニアに向かう。エルニアの王城でトリニドが懸念する事態が起こる事は確実だとランドは感じている。
ハーディはエルニアに渡り傭兵の育成機関に攻撃を仕掛ける。まだまだ育つ前の少年兵は怯えて戦闘には参加できない。ハーディは仲間に盾替わりにされている少年兵を突破して自分達の復讐相手を攻める。砂竜の移動力は敵兵には捉える事ができない。育成中の少年達はハーディ達の戦闘力をただ眺めている。ハーディ達は少年達を飛び越えると憎き指導官と管理監視する守衛達を弓と石弓で消して行く。砂竜が移動している最中に弓を射る技術はハーディ達が傭兵時代に生き残る為に身に付けた戦闘技術だ。次々と守衛を射貫き育成施設を制圧する。ハーディが少年達に話す。
「これでこの施設は解放された。君達が望むならばこのエルニアから避難する為に力を貸す。一緒に帰るかい。」
子供達が泣きながらハーディに従う。ハーディはジェイドとランドに頼み少年達を救出してもらう。次は傭兵を管理し待機させている施設を解放する。しかし次の傭兵達は子供の新兵とは違い抵抗してくる事を想定する。それは自分達も同じだったから解る。生への執着によりエルニアの傭兵機関に抗えないように仕込まれたからだ。
ハーディ達はアグニスと合流する。次の傭兵施設の解放はアグニスの指示のもと合同で行う。施設のすぐ近くで密かに話し合う。
「ハーディ達は三部隊に分かれて側面と後方から強襲してくれ。俺とイザークが正面から突入する。できるだけ傭兵は戦闘不能にして拘束する。指揮官と管理している関係者は始末する。傭兵になって歳を取っている者は直ぐには投降しないだろう。無理して拘束するな。戦いの最中に余裕などない。終わらせる事も心の解放になる。」
ハーディが応える。
「そうですね。自分達も同じだったから解ります。戦いに余裕はありません。自分達も理解しています。心の解放は望む所です。」
イザークが話す。
「私はどう動きますか?」
アグニスが応える。
「イザークは正面から俺と突撃し傭兵を気絶させて進む。他の部隊と違い俺達は手加減して進む。これはイザークの武人としての試練だ。修行だ。」
イザークが覚悟する。
「はい。全て意識を刈ります。」
アグニスが言う。
「俺も隠密行動でついて行く。相手にはイザークしか見えないが実際は二人がかりで制圧する。なるべく多く救って行くぞ。では出撃。」
アグニス達が動き出す。
イザークは施設の正面の門を破壊して進む。敵襲に驚いた傭兵達が正面に集まって来る。
アグニスが消えた状態でイザークに囁く。
「百はいるぞ。いけるか?」
イザークが走り出す。
「当然。全て狩ります。」
無手のままイザークが突撃する。
傭兵達は無手で突撃してくるイザークに動揺して出遅れる。イザークの正拳が正面の傭兵に当たる。気絶する。イザークは密集している傭兵の中に飛び込み連撃で殴り続ける。周囲の傭兵が倒れると同時に次の集団に飛び込む。相手は味方が邪魔をして武器を振る事ができない。短剣に切り替える時間を与えないイザークの拳がまた傭兵の塊を倒す。次々と倒れて行く傭兵達に敵が怯む。イザークは弱気になっている傭兵を見つけ直ぐに制圧する。アレクとの死合いで空間全体の動きが見えている。実際には見ていないので感じているのだ。全体の流れを感じて体が反応している。脳の反応よりも早く体が移動を始め相手の行動を制し拳を叩き込む。背後に回り込む敵にもイザークの全身が気配を読み振り向き様に攻撃する。相手は驚き気絶する。
アグニスは隣に潜んでいるだけで全てイザークが制圧してしまった。若き武人の覚醒の瞬間に立ち会う。イザークは振り向きもしないで施設に突入する。既に意識が無我の境地にあるようで、研ぎ澄まされた感覚のイザークは誰にも止められない。無表情で冷静。正面で対峙した敵兵は人では無い気配に動く事もできずに倒れて行く。最上階まで上り全ての部屋にいる傭兵と関係者を制圧する。アグニスがイザークを起こす。
「おい。イザーク。」
イザークが反応してアグニスに攻撃するがアグニスが受け止めて言う。
「もう起きろよ。敵はいないぞ。」
我に返るイザークがアグニスに受け止められた拳に気がつく。
「おあ。す、すみません。無意識で動いてました。敵兵はどうなりましたか?」
アグニスが笑う。
「お前の足元に全員倒れてるぞ。暴れすぎだろ。」
イザークが足元に転がっている敵兵に驚く。
「うわっ。誰がこんな事を・・・。」
アグニスがイザークを小突く。
「お前以外に誰がいるんだよ。俺の出番なんか無かったぞ。」
イザークが平謝りする。アグニスは面白くてからかう。
「ハーディ達も何もしてないだろうな。獲物の横取りは良くないな。」
イザークが焦る。
「アグニス隊長ぉぉぉ。ハーディ様にどう言えばいいのでしょう。」
ハーディが言う。
「まあ。楽できたから今回は大目にみるよ。」
イザークが慌てて謝る。
「すみません。無意識なんです。すみません。」
二人がやり過ぎたので謝る。
「イザークは悪くない。からかっただけだ。皆、喜んでるさ。誰も死んでない。」
ハーディも感謝する。
「ああ。イザークのお陰で同胞が救われる。感謝する。」
イザークがほっとして言う。
「何故か腹が減りました。体中が激痛です。少し休みたいです。」
アグニスが答える。
「あれだけ全身を酷使すれば悲鳴を上げるさ。イザークは食事して休んでろ。後は俺達が片づけておく。眠るなよ。敵に殺されるぞ。」
イザークがよろけながら外に出て行く。ハーディがアグニスに尋ねる。
「あのイザークの状態は何なのですか?見た事がありません。」
アグニスが答える。
「俺にもよく解らないが自分の意識を超えた状態に至ると無意識の状態になって武人ならばただ闘う事のみに体が反応するのだろう。常時反射神経で反応するような感じだろうな。
脳は見た物を判断して体を動かすから反応が遅れる。それが無い状態だから対峙した相手は反応速度で送れるから何も出来ずに終わる。武器を持っていれば全員即死だな。」
ハーディが武人の底知れぬ力に恐怖する。
「イザークはいずれ最強の剣士になるのでしょうね。」
アグニスが言う。
「次の世代の英雄なんだ。アレク王の御墨付きだ。まだまだ青いけどな。」
二人が笑い。ワンド達が倒れている敵兵の選別を始める。
傭兵達は分かり易く番号がふられている。ハーディ達には忌まわしい数字だ。フィフスがハーディの隣で言う。
「俺達のようになる前に止められればいいんだがアレク王に任せるしかないな。」
ハーディがフィフスに言う。
「昔の名前に戻さないのですか?」
フィフスが答える。
「俺は一番の古株だからもう友もいない。今の名で十分だ。エルニアが滅んで俺の使命が終われば仲間の所に追いかけようと思ってる。」
ハーディは気持ちを酌む。アグニスが現れて言う。
「フィフス達の使命はエルニアが滅んでも終わらない。」
フィフスが頭を下げて礼をする。ハーディが尋ねる。
「まだ敵がいるのですか?」
アグニスが言う。
「エルニアは滅ぼすが奴らが撒き散らした悪意は各地に燻ぶっている。アレク王はそれらを全て消し去るつもりだ。フィフス達にはまだ逝かせない。その悪意は俺達にしか倒せない。一刻の安寧は得られても、その悪意の種を摘み取らないと連鎖は止まらないんだよ。アレク王に導かれた仲間達は皆そのつもりだ。ハーディもフィフスも自分の生い立ちの句切りがついたらアレク王の戦いに参加してほしい。俺の仲間としての頼みでもある。」
二人はアグニスに跪き言う。
「私もアレク王の戦いに参加していいのですか?」
アグニスが二人を立たせる。
「俺は仲間だと思ってるし、アレク王は既にハーディ達もフィフス達も頭数にいれて戦略を立ているだろう。そんな事は俺を許してくれている時点で判る事だ。俺が一番の悪党なんだからな。傭兵達に比べれば、俺は真っ先に地獄行きなんだ。」
二人が驚きながらも感謝する。
「我々もアレク王の戦いに最後までお供します。」
アグニスが二人に微笑む。
「さあ。後始末だ。俺の担当だ。傭兵達は拘束しておけ暴れると自分を傷つけそうだ。」
アグニスは傭兵以外の施設の関係者の前に立つ。
どの関係者も守銭奴の臭いがする。アグニスが尋問する。
「お前達、貯め込んでるな。傭兵の報酬をどれだけ撥ねてる。」
誰も話さない。アグニスは王城に向かう為に時間をかけたくはない。双剣で一人を始末する。その素早い剣を目で追う事はできない。首が勝手に跳んだように見える。
ゴトッ
関係者達の前に首が落ちる。全員慌てて話し出す。
「私は金の管理はしていません。分かりません。」
「私はそこの所長に言われた事しかしていません。」
「私も同じです。」
「私も。」
「私も。」
アグニスが黙らせる。
「分かったから黙れ。おい所長さんよ。お前の名は。」
喋らない。アグニスが剣を突き刺す。
「ぐわっ。ぐぅぅ。」
アグニスが驚く。
「ほう。悲鳴はないのか肝の据わった屑もいるな。だが、もういい。」
アグニスが責任を押し付けている者達に聞く。
「こいつの名はなんだ。」
慌てて話す。
「アーソンです。王族の一人です。」
アグニスが喜ぶ。
「おっと。大物だな。なるほど、それで偉そうなのか。それで此奴の資産は何処にある。施設以外の場所も話せ。」
我先に話す手下達。
「この近くに屋敷があり、そこに大金を隠しています。ここの収益は王城のエルニア王と折半にしています。傭兵は食事だけ与えられて運転資金だけ渡されます。」
アグニスがハーディとフィフスに確認する。二人は頷く。
「分かった。もういい。アーソンだったな。お前、糞だな。死ぬ気で働いた傭兵に何も与えないんだな。生かして殺さず、ただ食事を与えて恩を着せる糞の洗脳。お前、自分で働いた事無いだろ。汗水垂らして泥だらけになって働いた事ないだろ。だから人を塵のように扱えるんだ。お前にとっての金蔓なのに大切にしないのは、いくらでも次があると思ってるからだろ。お前達が生きていられるのは弱者を食い物にしてるからだ。」
ザンッ
アグニスが剣を振りアーソンの腕が飛ぶ。
「ぐあああああああ。」
アグニスが冷たく言う。
「お前、任務を失敗した傭兵を殺すそうだな。見世物のようにして。」
アーソンが喋る。
「当たり前だ。俺の駒をどう扱っても自由だ。失敗した者は見せしめにして傭兵達を脅すんだ。他の傭兵は失敗しなくなる。」
アグニスが言う。
「お前、馬鹿だろ。利口ぶってるけど仲間同士で戦わせてるのに任務失敗しないわけないだろ。わざと失敗させて殺してるのがバレバレだ。遊んでやがる。」
ハーディが襲いかかろうとする。アグニスが止める。
「ハーディ。まだだ。」
アグニスが聞く。
「お前の身内の王様は女子供を凌辱するらしいな。変態だな。」
何も言わないアーソン。アグニスが剣を振る。残りの腕が飛ぶ。
「ぐああああああ。」
アグニスが聞く。
「どれだけの女子供を貢いだ。糞野郎。」
アーソンが言う。
「あいつは気が狂ってる。言う事を聞かないと父親のように国外に追放される。俺は従っただけだ。俺は何も悪い事はしてない。指示通り動いただけだ。」
アグニスがハーディに任せる。ハーディが吐き捨てる。
「お前達の悪意で死んで逝った仲間に贈る。地獄で殺されろ。俺も後から行く。」
ザンッ
ハーディの剣がアーソンを脳天から真っ二つにする。アグニスが関係者達を一刀で斬り飛ばす。フィフスがハーディの肩に手を置き話す。
「仲間も喜んでる。後は王城だ。」
アグニスが言う。
「此奴等の資産は全て回収する施設の中も回収して俺が消し去る。悪夢は終わる。」
ハーディの部下達もワンド達も集まり傭兵機関の最後を見届ける。アグニスの業火によって跡形も無く焼け、溶け、マグマに沈む。
アグニスが皆に言う。
「我等、解放軍はこれよりエルニア王城へ侵攻しアレク王と最終決戦に移る。道中も不穏な者は始末する。エルニアというものを消し去る。仲間達の魂を解放する。行くぞ。」
アグニスが接収した馬に乗り王城に向かう。皆、王城を目指し直走る。
アグニスはアレクにイオリの情報を伝える。
「王城の地下にやはり隠してたな。見える施設が無防備過ぎたから怪しんではいた。」
アレクの言葉にアグニスが尋ねる。
「兵器工場群を破壊した時に違和感があったのですか?」
アレクが答える。
「上物だけだった。敵国の進入の無い国でも軍事機密は隠すものだ。地下が定番だが無かったからな。それでも上物も大規模な工場だ。ルーマの郡都丸々工場になる大きさだ。」
アグニスが聞く。
「王城に侵入しますか?」
アレクが答える。
「たぶん、未完成の兵器を動かすだろう。巻き込まれる可能性がある。侵入はするな。総攻撃で破壊する。戦闘が終結してから確認しに向かう。俺が到着するまで王城周辺を掃討して逃亡者を始末してくれ。女子供は隔離して収監し後日島流しにする。」
アグニスが尋ねる。
「アレク王の到着はいつになりますか?」
アレクが答える。
「俺は海洋アルノに寄ってから向かう。明日の朝に総攻撃開始だ。それまでは周辺を片付けてくれ。状況が変われば直ぐに報告してくれ。」
アグニスが決戦の準備に入る。王城周辺の掃討を始める。
アレクは王都の軍営を出撃し飛行艇とエルニアに向けて移動していた。
ビートがアレクに聞く。
「アレク王。このままなら明るい内に到着します。そのまま決戦ですか?」
アレクが答える。
「それは避けた方が良いな。決戦は明日の早朝だ。夜間の戦闘は適地が有利になる。」
アレクはビートに指示してナワル大河を下り海に出るように言う。
アレクがバーンに連絡する。
「バーン、今夜はエピン郊外に待機して休息。明日の早朝にエルニア王城に総攻撃だ。」
バーンが応える。
「分かりました。主はどちらに行かれるのですか?」
アレクが答える。
「俺は海洋アルノに向かってから明日の朝エルニア王城で合流する。」
バーンが返事をする。
「承知しました。では明日の決戦で御待ちします。」
アレクは黒雲の上から海洋アルノの方向を眺める。
「ビート。見えたぞ。海洋アルノの大型船だ。ナワル大河の河口にいる。」
ビートが発見する。
「はい。見えます。上流に向かうようですが、どうしますか?」
アレクが答える。
「船と並んで速度を併せてくれ。その後黒雲を船主に着地させてくれ。」
ビートが黒雲に大型船と並ばせ速度を併せる。甲板でサイファが手を振っている。アレクが合図して黒雲を甲板に着地させる。アレクが甲板に降りる。
「アレクぅ。逢いたかった。」
サイファが抱きついて来る。船員達が呆れて見ている。ジュウベイが叱る。
「御当主。人前ですぞ。アレク殿に嫌われますぞ。」
サイファが慌てて離れる。
「久しぶりだな。アレク王。元気だった?」
めちゃくちゃだ。アレクが笑う。
「サイファは可愛いな。元気だよ。」
嬉しそうにするサイファがジュウベイに突かれる。
「分かったよ。言いますから突かないで。」
サイファがジュウベイの手を払いアレクに話す。
「サディアスに会いたいけど連れて行ってほしい。」
アレクが聞く。
「何しに行くんだ。彼は立派な王だぞ。」
サイファが答える。
「今後の陸アルノを任せられるか確認するの、アレクも立ち会ってほしい。」
アレクが頷きビートに言う。
「ビートは此処で休息して待機していてくれ。陸アルノに黒雲で行ってくる。」
ビートが返事をして二人を見送る。
黒雲に乗りアレクとサイファが陸アルノの王城跡に向かう。
アレクがサイファに聞く。
「女王の継承はできたのか?」
サイファが答える。
「まだよ。妹の派閥と二分したまま膠着してる。妹は継承する気は無いのに担ぎ出されてる。本人に会えれば話ができるのに面会すらできないの。」
アレクが不審に思う。
「それは嫌な感じがするな。サイファの手に負えない相手が裏にいそうだ。」
サイファが頷く。
「ええ。私も感じてる。でも妹は救い出したい。とても優しい娘なの傷つけたくない。」
アレクが話す。
「分かったよ。サイファが思う通りにすればいい。いつでも助けに行く。」
サイファがアレクの手を握る。
陸アルノの王城跡に到着しサディアスとガヴェインが出迎える。
「姉上。お久しぶりです。お元気ですか。」
サディアスが挨拶をする。サイファがサディアスを抱きしめる。
「すまなかったね。私は手を出せなかった。アレク王に任せたんだ。」
サディアスが脱力する。
「すみません。国を守れませんでした。自分の力が足りなかったです。」
サイファがサディアスを元気付ける。
「これからが大事なんだよ。サディアスは今からが試されるんだよ。」
サディアスが言う。
「私は退位して国を去ろうと思います。もう権力の世界にはいたくありません。」
サイファが話す。
「私は貴方がそうしたいなら止めないよ。でもそれを決める事ができるのはアレク王だけなんだ。自分で話して許可をもらいなさい。」
サイファがアレクに後を任せる。サディアスがアレクに話す。
「お初にお目にかかります。サディアスです。」
アレクが応える。
「我は黒竜王アレクである。サディアスよ。お前の気持ちを話せ。」
サディアスが話す。
「私は王位を退き国を去ろうと思います。今回の事態を招いた責任と戦いを止められなかった責任を取ります。御許し下さい。」
アレクが話す。
「少し話をしよう。サディアスはこの陸アルノは好きか?」
サディアスが答える。
「分かりません。私はここ陸アルノに王位を継承しに来てから王城以外には出ていません。国の内情すら自分で見ていません。王、失格です。」
アレクが聞く。
「今も国を見ていないのか?ガヴェインに救出され戦闘が終結するまでサディアスは何を見た。教えてくれ。」
サディアスが話す。
「はい。王城から脱出してオーディス殿と合流するまでにアルノの兵が戦い傷つき苦しむ姿を見ました。その後も自国の兵士が王城を守る為に戦い倒れていく姿を見ました。」
アレクが聞く。
「サディアスは今回の戦争が何故起きたのか解るか?」
サディアスが答える。
「それは私が好戦派を止められなかったからです。」
アレクが話す。
「それはサディアスの自責でしかない。本質を聞いている。」
サディアスが答える。
「はい。前王と前王妃がエルニアの手先の臣下と共謀した事が発端です。エルニアの計略に嵌ったのだと考えます。」
アレクが頷く。
「ではサディアスに力があればどうなっていたと思う。」
サディアスが答える。
「軍権を掌握していれば戦闘行為はさせなかったです。父と母に介入させず。エルニアの手先である臣下は排除していました。タラレバですが。」
アレクが話す。
「それだけでは足りないな。」
サディアスが困惑する。サイファもガヴェインもアレクの言葉に悩む。アレクが言う。
「サディアスに力があっても一人で出来る事は限られる。お前はまず仲間を、信頼できる友を、臣下達を集める事に全力で取り組む必要があった。父と母を政権から排除する意志が必要だった。ガヴェインはサディアスを必要としていただろ。仲間や友はいるんだ。」
サディアスが頷く。アレクが続けて話す。
「それを成して初めて国を守る為に戦う事が始まる。お前が先陣に立って剣を振る必要はないんだ。ガヴェイン以上になれる事はない。聡明で見識があれば人材を集め適材適所にて仕事を任せればいい。お前は厳しく管理監督すればいい。それで国の基礎が出来る。」
サディアスが真剣に聞く。アレクが続ける。
「国の基礎を築いても外敵の排除が必要だ。この戦いの真の敵はエルニアだ。内憂外患。内の敵を排し外の敵に備える。サディアスは理解しているが身動きがとれなかった。エルニアに付け込まれたんだ。」
サディアスが頷く。アレクが話す。
「今の話を理解して答えるんだ。サディアスならこの国をどうする?」
サディアスが真剣に応える。
「私なら、この国を再建する為に人材を広く集め適材適所に配し、任せ、管理監督し内政を正し外敵にはガヴェインを中心とした組織を創設し対抗します。」
アレクが話す。
「自国だけで解決できない場合はどうする。」
サディアスが答える。
「はい。海洋アルノと連携して対抗します。」
アレクがサイファを見る。サイファが頷く。アレクがサディアスに告げる。
「我、黒竜王アレクが命じる。サディアスを自由貿易国アルノの自治領主とする。陸アルノは亡国となるが自由貿易国アルノとして興国し海洋アルノに統合する。自治権を認め独自の国として発展させてもらう。海洋アルノは陸アルノの管理監督をするが最終的には独立し自国で全ての責任を負う。できるか?」
サディアスがサイファを見る。サイファが微笑む。ガヴェインも頷く。
「はい。私サディアスが自由貿易国アルノの領主として国を再建します。」
アレクが言う。
「サディアスは若き賢王だ。信頼の置ける仲間を増やし、自分の良心に従い皆を導け。」
サディアスが跪き感謝する。アレクがサディアスを起こして言う。
「俺も貿易に感心があるからサディアスが再建した国と交易がしたい。楽しみだ。」
サイファが話す。
「サディアス。アレクは私の旦那様なんだよ。貴方の義兄だよ。」
サディアスとガヴェインが驚いて固まる。
「姉上。本当ですか?冗談ですよね?アレク王。姉は男勝りですよ。いいんですか?」
サイファがサディアスを締め上げる。
「姉上・・・く、苦しい。」
ガヴェインが困る。アレクが止めさせる。
「サイファは素敵な女性だ。彼女がいいんだ。」
サイファがサディアスの後に隠れる。サディアスが微笑む。
「アレク王。姉上をお願いします。私はこの国を再建します。」
アレクが応える。
「サイファは守る。サディアスはガヴェインとこの国を守れ。ルーマとも同盟を結んでくれ。相互の国を守り、繁栄させる友好国として対等な同盟だ。」
サディアスとガヴェインが驚く。
「私達は、言わば敗戦国です。対等な同盟にする必要はありません。」
アレクが話す。
「俺の世界に上下の差別は無い。お互いが尊重し思いやる個であり国である。皆が仲間であってほしい。ただし、俺と反する者がいれば敵対して決する。その主義主張に人の心があれば受けて立つ。私欲の為に人を虐げ蔑み陥れる者には死を与える。サディアスが目指すものの敵には俺達が剣となり盾となろう。」
サディアスが感謝して話す。
「私サディアスは自由貿易国アルノの自治領主として、アレク王のルーマ国と友好条約を結び、永世同盟国となる事を誓います。」
アレクがサディアスと握手を交わしサイファも手を合わせる。
アレクがサディアスとガヴェインに話す。
「海洋アルノが不穏だ。ここを正常化させて睨みを利かせてくれ。俺はエルニアを片付けてくる。ガヴェインと俺は思念が通じる緊急時は呼び出してくれ。」
ガヴェインが聞く。
「何かあるのですか?海洋アルノは難攻不落ですよ。」
サディアスも不安になる。サイファも頷く。アレクが話す。
「外敵には難攻不落でも内部に敵がいれば逆に攻め落とす事は難しい。という事だ。」
皆が不穏な影を思い描く。皆には思い当たる者がいた。
アレクがサイファを連れ黒雲で大型船に帰還する。
「サイファ。明日の朝の決戦に間に合えばいいから海洋アルノまで同行しよう。」
サイファが喜ぶが辛そうだ。ジュウベイが話す。
「アレク殿が海洋アルノに入りますと敵対派閥が喜びます。国民を扇動する口実を与えてしまうでしょう。それほど狡猾な者が裏にいると思います。海洋アルノの首都スィードを空けていた事が原因かもしれません。」
アレクが頷く。
「では変装でもして行くか。何かないかな。」
サイファが怒る。
「そんな事してもバレるわよ。下船しないで船にいてくれればいいわ。海洋アルノの首都だけでも見て行ってくれればいい。」
アレクが頷く。ビートがアレクに尋ねる。
「アレク王。明日の決戦に間に合いますか?」
アレクが言う。
「黒雲の進化で本気の速度は未経験だろ。試せばいい。トリニドと同等かもしれないぞ。エルニアには俺が間に合わせるから安心しろ。それよりも海洋アルノが気になる。」
サイファがジュウベイと話をしている。アレクには聞かせたくないようだ。
アレクは初めて見る大海の波とうねりを肌で感じ大型船でも揺れる海の存在に感動する。
傍のビートが船酔いして気分が悪くなっている。アレクが風魔道でビートを浮かせて休ませる。落ち着いて来たのか休みながら海を見ている。黒雲は平然として船に揺られている。
水平線の先に島が見える。海洋アルノの首都スィードだ。アレクは船から見える美しいスィードに魅せられる。海に浮かぶ城だ。
大型船を船着き場に着けサイファ達は下船する。アレクは夜明け前にはエルニアに向かうと伝え停泊する大型船で休息をとる。ビートには暗くなってから動く事を伝え船員から借りた毛布に包まり横になる。アレクは寝ながらビートに思念を送る。
”ビート。聴こえたら頷け。”
ビートが横になりながら頷く。
”俺は闇夜に乗じてスィードを調査してくる。船員達が監視しているからビートは寝たまま休んでいろ。俺は土魔道で偽物を置いて行く。潜伏して調べてくる。”
ビートが頷く。
日が沈み辺りが暗くなる。ビートはぴくりともしないアレクがいつ出掛けるのか心配になる。がビートが飛竜の加護の視力を高めてアレクを見ると土人形だと解る。
”いつの間に入れ替わっていたのか解らなかった。もう潜入しているのか。”
ビートは見張りに気付かれないように横になり寝ることにした。黒雲は気持ちよく寝ている。内海のような船着き場は波が静かに船を揺らす。揺り篭のような優しいゆらぎだ。
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