第2話 武人イザーク
アレクはドレル反乱軍を追い込んで行く。
「バラン。敵前線に火焔魔道、続いてウェザーは竜巻魔道。他の魔道士は風障壁展開。」
バランが答える。
「敵前線に火焔魔道発動します。」
ウェザーが答える。
「バランの火焔を増幅させます。竜巻魔道発動。」
アレクが指示する。
「敵前線に着弾後、前進。後続は風の障壁展開のまま二人を防御。バランは敵後方に再度火焔魔道。ウェザーは先の火焔を風魔道で敵後方に吹き飛ばせ。これを繰り返し進め。」
魔道部隊の前進攻撃がドレル反乱軍を城門前まで追い帰す。ドレル反乱軍は火焔魔道で焼き尽くされ逃げ惑う中、竜巻に呑まれ消滅して行く。残る物はドワーフの技術で造られた装備品が横たわる。いずれの品も名工の出来栄えだ。アレク軍の魔道部隊の攻撃に慈悲は無い。魔道は感情が伝わらない。怒りによって業火に変わっても相手に当たる時は魔道力の大きさが変わるだけだ。着弾した相手は、ただ焼き尽くされるだけだ。
アレクは魔道の戦闘を好まないが相手が悪意と敵意を持っていれば容赦はしない。救える相手ならば魔道も考えて使用するが、今回のドレル反乱軍には容赦はしない。ロックの話を聞いての行動でもあるが、アレクの中では自国の仲間を拘束して反乱し隣国に攻める思考の者を許す気はないのだ。城門前まで後退した反乱軍が必死の抵抗をする。
アレクはバーンの部隊を確認する。
「バーン。ドレルの城壁はどうだ?」
バーンが答える。
「主よ。現在、ドレルの南側を破壊していますが、城壁に対魔道用の付与がされているようです。物理攻撃以外は弾かれています。土魔道による物理系の魔道のみ効果があるようです。厄介な技術です。ゴードン殿がいりますね。」
アレクが考える。
「物理攻撃が有効なら土魔道と火魔道の同時発動で溶岩弾を撃ち込め。他にも土と風魔道の組み合わせで硬質化させた破城槌を高速回転させて撃ち込め。撃ち込んだ破城槌を高圧の水魔道で押し込み城壁を破壊すればいい。爆破と破城槌の連続攻撃で突き破れ。」
バーンが魔道の同時発動による波状攻撃に感動する。
「主よ。今から黒紫竜シエムと私と魔道部隊で攻撃します。戦況が動きますので止めをお願いします。」
アレクが言う。
「楽しませてもらう。此方が動き出したら一気に片付ける。任せたぞ。」
バーンがシエムに言う。
「我が竜シエムよ。物理魔道による連続攻撃に移行する。土魔道を強化させて城壁を破壊する。土と火魔道で最大の溶岩弾撃ち込む。弟子達には土と風魔道による攻城用の硬化した破城槌を風魔道で強化して撃ち込む。この連続攻撃でドレルの城壁を破壊する。」
シエムが応える。
〈なるほど。同時発動による属性強化か、アレクは面白いな。いいだろう。烈火竜の溶岩弾を我も撃ち込むとしよう。〉
バーンが嬉しそうに弟子に号令を出す。
「よいか。物理攻撃を強化して城壁に当てる。攻城用の破城槌を土魔道で形成し硬化させ、風魔道で回転させ撃ち込む。儂とシエムの爆破と破城槌の破壊で城壁を吹き飛ばす。」
バーンが続ける。
「土魔道と風魔道を二人組になり連続発動。始めぇ。」
シエムが巨大な溶岩弾を発動させ城壁に打ち込む。バーンも続いて発動。二発の溶岩弾が城壁に着弾し爆破し城壁が抉れる。その場所に弟子達の大量の破城槌が撃ち込まれる。城壁に突き刺さり止まる。バーンが指示を出す。
「続いて高圧の水魔道を発動。押し込めぇ。シエムは巨大破城槌を撃ち込めぇ。」
一斉に高水圧の水が破城槌を押し込む。シエムが止めの巨大破城槌を撃ち込む。
ビキッ
城壁がひび割れる。バーンがシエムに言う。
「もう一度溶岩弾だ。シエム。私と同時に着弾させるぞ。」
シエムが溶岩弾を撃ち込む。バーンも同時に着弾させる。抉れた城壁に撃ち込まれた溶岩弾が爆破する。破城槌が城壁を貫通する。城壁に巨大な穴が開きドレルの街が丸見えになる。ドレル反乱軍がバーン達の攻撃に驚き逃走を始める。
バーンがアレクに伝える。
「主よ。城壁は破壊しました。後はお任せします。」
アレクが応える。
「分かった。皆、ご苦労、こちらの反乱軍もドレルに逃亡を始めた。入場して親玉を捕らえる。バーン達は全周囲警戒のまま待機。魔道力の回復に努めよ。」
アレクはバラン達に言う。
「これから俺が反乱軍の親玉を捕まえて来る。バラン達は防御隊形で全周囲警戒のまま待機だ。ロック。行くぞ。」
アレクが近くで戦況を窺っているロックを呼ぶ。
「はははは。流石にばれてましたな。気になって追って来ました。」
アレクが言う。
「さあ。救出作戦だ。共に行こう。」
ロックが喜んでアレクと入場する。
ドレルの街は住民が避難所に隔離されている。静まり返る街中にドワーフ達の気配は無い。ロックは兄のアイレムが幽閉されている場所に向かう。アレクは感知能力を高めて後を追う。反乱軍の親玉らしき気配は部下達を纏めてドレルの中心部に籠城しているようだ。ロックが幽閉されている建物に到着する。監視している兵士達はいない。全員中心部に集まっているのだろう。ロックが建物の扉を蹴り破る。アレクが笑う。
「ロックは現役だな。」
ロックが笑う。
「がははは。儂もそう思う。また旅に出たくなってきたわい。」
ロックとアレクが地下室に到着する。牢屋のような入り口だ。
「これは幽閉ではないな。監禁されている。」
ロックが体当たりする。が、びくともしない。
「駄目じゃ。扉が頑丈過ぎる。鍵がないと開けられないな。兄貴ぃ。聞こえるかぁ。」
中には聞こえていないようだ。アレクが言う。
「俺が代わろう。扉はもういらないだろ。」
ロックが頷く。アレクが扉に手を当てて魔道を発動する。扉が溶けだし床に溶けた扉が鋼材に変わる。ロックが大笑いする。
「なんじゃぁ。わはははは。アレク王は何でも出来て儂は驚きっぱなしだわい。」
中の部屋が丸見えになる。ロックが話しかける。
「兄貴ぃ。ロックじゃ。いるのか?」
部屋の奥から現れて答える。
「なんじゃい。うるさい奴だのう。儂はここだ。」
アイレムが仲間達と現れる。ロックが話す。
「助けに来たのに、なんじゃその言い方は。」
アイレムが答える。
「分かった分かった。助かったわい。ドレル代表ドムが大怪我して大変なんじゃ。」
アイレムが担いでいるドムを見せる。ロックが話す。
「何があったんじゃ?」
アイレムが答える。
「反乱軍の司令モリィがドムを襲って軍権を強奪したんじゃ。ドムは抵抗して瀕死じゃ。治療もさせないのじゃ。あの強欲な屑野郎が。」
ロックが聞く。
「ドレルの軍部は全員モリィに付いてるのか?」
アイレムが答える。
「反対派は別の場所に隔離されているじゃろう。それよりも問題はガレルに侵攻するつもりじゃ。早く止めんと大変じゃ。」
ロックが話す。
「モリィはルーマに侵攻する気じゃ。まだガレルは大丈夫じゃ。」
アイレムが話す。
「ならもっと大変じゃ。今のルーマは危険じゃ。戦えばドワーフ国が滅びる。また滅亡させてはいかん。ドムを治療して反対派を集めて儂等でモリィを止めるのじゃ。」
ロックが話す。
「兄貴よ。安心せい。ルーマの王様が助けてくれているんじゃ。」
アイレムは意味が解らない。ロックが続ける。
「ルーマ国の王様。黒竜王アレク様がここにいるんじゃ。」
アイレムがアレクを見る。
「わああああっ。なんじゃあ。巨人の王様じゃないかぁ。」
アイレムが驚いて狼狽える。ロックが話す。
「アレク王様じゃ。ドレルを救ってくださるのじゃ。安心せい。」
アレクが話す。
「ロックの兄でコビーの師匠だな。アイレムよ。我が黒竜王アレクである。」
アイレムが片膝を着いて話す。
「巨人の王に拝謁します。私はアイレム・ザナック。ロックの兄でコビーの師です。」
アレクが話す。
「まずはそのドムを治療しよう。少し待て。」
アレクが横たわるドムを黒霧で治療する。ドムが回復して話す。
「おお。体が元通りだ。アイレムよ。ドレルの状況は?」
アイレムがアレクの治療に驚いて固まっている。アレクが代わりに答える。
「ドレルの代表ドムだな。ルーマ国の黒竜王アレクである。現在のドレルは我が国に侵攻する反乱軍を撃退してドレルに籠城させている。理解できたか。」
回復したドムが驚いて倒れる。アイレムが起こしてドムが話す。
「すみません。私がドレルの代表ドムです。ルーマ国に侵攻した反乱軍を止められず申し訳ありません。軍事侵攻に対する賠償は全て応じます。お許しください。」
潔いドムにアレクは感心する。
「賠償はいらない。ただし、侵略行為を扇動し参加した者達は許さん。今から俺が消しに行くが問題ないな。」
ドムもアイレムも頷く。ドムが応える。
「アレク王にお任せします。ですがドレルの民は反乱軍には加担していません。どうか巻き込まぬようにお願いします。」
ロックが話す。
「兄貴よ。アレク王は今回の救出に儂とコビーを同行させてくれたんじゃ。儂は恩返しに飛行艇を差し上げるつもりじゃ。異論は無しじゃぞ。」
アイレムが答える。
「なんじゃ。あんなガラクタで王様が喜ぶのか?他にも良い物はあるじゃろ。」
ロックがアレクを見る。アレクが話す。
「アイレムよ。俺には国宝以上の価値がある。ドレルを救う代価になる物だ。」
アイレムもドムも不思議に思う。
「王様。あれは動かないんじゃ。使い物にならんのじゃ。後で返品はできませんぞ。」
ロックが大笑いする。
「がはははは。兄貴。アレク王は飛行艇を動かせるんじゃ。安心せい。」
アイレムは意味が解らない。アレクが言う。
「ロック達に整備を任せて、俺は反乱軍を片付けて来る。ドムよ。その眼で確認せよ。」
アレクはドムを連れてドレル中心部の建物に向かう。反乱軍が籠城している建物はドレル評議会会館だった。アレクはドムに確認する。
「ドムよ。ドレルの代表とドワーフ国との交渉担当として確認する。」
ドムが応える。
「はい。アレク王の御話しお聞きします。」
アレクが聞く。
「我はドワーフ国と友好関係を構築し同盟を結びたい。ルーマはドワーフ国と交易を中心とした外交を密にしたい。できるならば友として付き合っていきたい。どうだ?」
ドムは感動する。
「ははっ。ドレルは今後アレク王と、ルーマ国と友好関係になります。ドワーフ国としては私が交渉して同盟を結べるように働きかけます。私はルーマ国の友になります。ドレルの皆にもドワーフ国の皆にも話します。」
アレクは言う。
「ドワーフ国を説得するのは大変だろうが俺はドムを信じよう。期待している。」
アレクは反乱軍の籠城する建物に正面から堂々と入って行く。ドムが驚くが建物の中で眩しい光が発する。アレクが屋上からモリィを連れて飛び降りて来る。アレクが言う。
「ドムよ。この者をお前に引き渡せばどうなる?」
ドムが答える。
「はい。囚人として監獄に送られます。その後は代表が代わるまで無期限で監獄生活です。
ドワーフ国では人間種の極刑はありません。」
アレクが話す。
「良い国だが甘すぎるな。今回の侵略行為に我が国は報復攻撃をした。攻めて来なければ起こらなかった戦闘だ。我等に被害は無いがドレルの反乱軍は甚大な犠牲者が出ただろう。その責任は誰が取る。亡くなった者には家族がいるだろう。誰が悲しみを救える。俺は敵国だ必ず怨まれる。だが責任を負う者は俺ではない。殺した俺を許さなくてもいいが、亡くなった者が何故殺されたのか事実を知らなくては次も起こりえる事だ。また殺し合うのか。怨みの連鎖を続けるのか。生かしたこの者や家族を殺された者をまた戦場に送るのか。ドムよ。ドレルの民には真実を知らせ見せる必要がある。極刑は残酷だ。だが死んで行った者は、その魂は救われないだろう。今後の、未来のドレルの民にモリィはいらない。俺が刑を執行する。罪状をドムが述べろ。」
ドムが首を振る。アレクに話す。
「アレク王に御迷惑はかけません。我等の責任です。ドレルの民の前で私が執行します。ドワーフ国には初めての事ですがこの先の未来のドワーフ国には必要な事だと判りました。住民が解放され次第、刑を執行します。」
アレクは言う。
「建物の兵士は気絶しているだけだ。兵士は収監してドム達で処断しろ。任せる。」
ドムはアレクに感謝して解放されたドレルの兵達に反乱軍を拘束させる。アレクはドムに任せてコビーを連れてロック達の元に向かう。感知能力でロックを探し工房の地下室に到着する。コビーが感動する。
「アレク様。素晴らしい工房です。巨大な構造物を製作出来る規模です。凄い。」
アレクが落ち着かせる。
「コビーよ。これからいくらでも学べるのだ。落ち着いて行動しろ。」
コビーが反省する。
「王様。申し訳ありません。取り乱しました。」
アレクが笑う。ロックが現れる。アイレムも一緒だ。
「師匠ぅぅ。御無事でしたか?」
コビーがアイレムに抱きつく。アイレムが言う。
「コビーよ。久しぶりじゃな。元気だったか。親父はどうした元気か?」
コビーが泣いて話す。
「父は軍に従軍し亡くなりました。今は一人で鍛冶屋をしています。」
アイレムが話す。
「そうじゃったのか。惜しい鍛冶師を亡くしたな。ルーマ国は貴重な人材を失ったのじゃ。コビーよ。お前が父の意志を継ぐのじゃ。」
コビーが涙を拭いて返事をする。
「はい。師匠に付いて学びます。」
アレクが嬉しそうにしている。ロックが話す。
「アレク王。飛行艇はこっちじゃ。」
ロックが格納庫にアレクを連れて行く。アレクが格納庫で飛行艇を発見する。
「おお。ロック。これは見事な飛行艇だ。流石はドワーフの技術力だ。動かせるのか?」
ロックが答える。
「動力さえあれば、いつでも動くはずじゃ。全て完成した状態のままで保管してある。」
アレクが聞く。
「ロック。操縦方法を教えてくれ。出来れば、ドレルには送り返すから操縦の代わりが出来る者を見つけるまで教えて欲しい。」
ロックが応える。
「アレク王には感謝しかない。儂が出来る事は何でもする。任せてくれ。」
アレクが感謝する。
「コビー。先生を借りる。お前は師匠と修行しろ。」
コビーが頷き感謝する。
「アレク王の力になれるように精進します。ありがとうございました。」
アレクが手を振り動力に魔道を流し込む。ロックが言う。
「おお。燃料計が満タンになって行きますぞ。まだまだ貯められます。始動させます。」
ガガガガガガガグン
動力が飛行艇に取り付けられたの無数の羽を回転させる。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュヒュヒュヒュヒュヒュゥゥゥゥゥゥゥ
高速の回転で羽が回り飛行艇が浮き出す。ロックがアイレムに言う。
「兄貴。天井を開けてくれ。止め具も解除してくれ。儂は暫くアレク王に操縦を教えてくる帰りは翼竜で送ってもらう。」
アイレムが手を振り天井を開閉する。アレクが言う。
「ロック。空の船旅に出掛けよう。」
ロックが言う。
「楽しみですな。行きましょう。」
アイレムとコビーが手を振り見送る。アレク達は空に飛び立つ。
飛行艇を操縦しながらロックが言う。
「アレク王。魔道士達を乗せるのでしょう着陸させますか?」
アレクが答える。
「ああ。まずはバーンの所に向かってくれ。」
ロックが頷きバーンの所に向かう。
バーン達が飛行艇を見つけ驚く。
「おお。飛行艇ですな。大きな船が空を飛んでいる。面白い。」
シエムが話す。
〈古代文明の遺物だな。アレクの目的だ。バーンよ。お前も飛行艇で移動するのだ。〉
バーンが答える。
「そうだな。シエムと移動しては世界が驚いてしまう。また力を貸して欲しい。」
シエムが応える。
〈当然だ。我はバーンと契約したのだ。いつでも呼び出すがいい。〉
シエムが住処に飛び立っていく。
アレクが飛行艇を着陸させてバーンを呼ぶ。
「バーン。魔道士部隊を乗せて飛行艇で移動する。魔道石もできるだけ回収する。魔道士の中で雷魔道に長けた者を数名、飛行艇の担当魔道士にしてくれ。飛行艇は魔道士部隊の移動手段にする。ロックには飛行艇を増やしてもらう。資金はエルニアから分捕る。」
バーンが返事をする。
「主よ。感謝します。飛行艇があれば上空からの攻撃が飛竜騎士団と協力できます。」
ロックが返事をする。
「アレク王がエルニアから資金を分捕れば、あと十隻は造れそうですな。」
アレク達は魔道士達を飛行艇に乗船させてシエムの住処で魔道石を回収する。輜重隊に移動用の馬車を王都に移動させてドレルの平定を終える。
アレク達は飛行艇で移動しながらロックから操縦方法と動力の供給を指導される。魔道士達は魔道を使い空を飛び回る飛行艇に感動し喜ぶ。アレクの言った魔道士の世界が現実に目に見えているのだ。アレクは飛行艇を王都に移動させる。
王都の軍営にジェイドが待機する。
ヒュースが話しかける。
「アレク王が一時帰還する。大量の魔道石が手に入ったようだな。」
ジェイドが答える。
「はい。私が管理するように言われました。市場に流す物では無いようです。」
ヒュースが話す。
「たぶん、魔道士達に渡すのだろうな。魔道院にもだろう。」
ジェイドが言う。
「アレク王は魔道士の育成を早めたいのだと思います。研究開発も向上するでしょう。」
二人の会話中にドレル方面から飛行艇が現れる。ジェイドが感動する。
「おお。あれが飛行艇。なんと見事な空を飛ぶ大型船。ダロス中を旅できるでしょう。」
ヒュースも感動する。
「これを手に入れる為にもドワーフ国と国交を築き同盟を結びたかったのだろうな。」
二人の眼前に着陸する飛行艇からアレクが飛び降りてくる。
「ジェイド。飛行艇の格納庫から魔道石を全て降ろしてくれ。完了したら呼んでくれ。エルニアを消す。ヒュース相談がある。バーン達は少しだが休息してくれ。」
バーンが飛行艇のデッキから顔を出す。ジェイドとヒュースが誰だか解っていない。
「主よ。弟子達に休息させます。」
ジェイドが聞く。
「あの方はどなたですか?」
アレクが笑いながら答える。
「あれはバーンだ。竜との戦いで若返った。不思議だな。」
二人が驚いて確認する。
「アレク王。本当ですか?あれがバーン殿ですか?嘘ですよね。」
アレクが言う。
「見てれば判るさ。若くてもバーンのままだ。」
アレクはヒュースの幕舎に向かう。ジェイドはまだ信じられない。飛行艇の後部が開き格納庫が覗く。ジェイドが我に返り部下に指示を出す。大量の魔道石を軍営にいる輜重隊全員で搬出する。ジェイドは空いた格納庫に食料を搬入する。流れるような仕事ぶりだった。
アレクはヒュースと話し合う。
「ヒュース。ドレルは最短で終わらせた。これからエルニアに向かうが人材が足りない。飛行艇を操縦させる操舵手か技術者がいるので飛竜騎士団から騎士を移動させたい。部隊が増えるが部隊長が足りない。人材の募集か、推薦者を募ってくれ。飛行艇は五艇以上に増える。それぞれに部隊長が必要だ。」
ヒュースが応える。
「はい。人材を集めてはいますが、まだ王都に帰還していない者もいるのでお待ちください。飛竜騎士団から移動させますと最大戦力が減るのが惜しいです。別から探すかランド殿に騎士団員を増やしていただき飛行艇も任せる方が良いと思います。」
アレクが話す。
「そうだな。飛竜騎士が減るのは勿体無いか。それでランドには翼竜捕獲を頼んだのか?翼竜と飛竜は大至急増やす必要がある。」
ヒュースが応える。
「既に捕獲に向かってもらいました。報告待ちです。」
アレクが頷く。ヒュースが続ける。
「アレク王。今王都に帰還した仲間の貴族がいますが、お会いになりますか?」
アレクが返事をする。
「いいだろう。紹介してくれ。」
ヒュースが奥から仲間を呼ぶ。
「ゼノン。ディーノ。イザーク。王が御呼びだ。来てくれ。」
三人が奥から現れ挨拶する。
「ゼノンです。お初にお目にかかります。」
「ディーノです。よろしくお願いします。」
「イザークです。ヒュース殿の遠縁になります。」
アレクが三人に言う。
「我は黒竜王アレクである。三人とも座ってくれ。」
皆が席に着く。ヒュースが話す。
「アレク王。彼らは中央騎士団の再編と警邏隊の創設で各部署を任せる人材になります。ゼノンは王都の警邏隊を統括します。ディーノはサーレの騎士団を管理します。イザークは武人志望ですのでアレク軍の将に同行させて鍛えた後にジェイド付の護衛武将を任せる予定です。いかがでしょうか?」
アレクが応える。
「ヒュースの仲間なのだな。良いだろう。悪いが少し確認する楽にしていてくれ。」
三人が緊張する。アレクが黒霧で三人を包み込む。黒霧が三人に紋章を刻む。
「これは何なのでしょうか?」
アレクが応える。
「これは契約の紋章だ。特に変わった事はないが我らの仲間の証しで絆だと思ってくれ。普段は消えているから気にするな。」
三人は手の紋章が消えて行くのを眺めている。アレクが言う。
「ヒュースの人選だ。任せる。これからルーマは変わって行くヒュースに協力してやってくれ。ゼノンもディーノも上級貴族から虐げられたのだろ。これからは自分の力を最大限に発揮してくれ。」
二人が感謝する。
「我らは役職も解任され雑務に追われ中央騎士団の中で生きる屍でした。ヒュースの書状で王都から避難する事ができ、今、帰還する事ができました。感謝しています。」
アレクが話す。
「ヒュースの身内、イザークはまだ若いな。何歳だ?」
イザークが答える。
「はい。二十二歳になります。」
アレクが話す。
「武人か。厳しい世界だぞ。生死が一寸先に在る世界だ覚悟はあるのか?」
ヒュースが見守る。イザークが答える。
「私は頭は良くありませんが体力には自信があります。幼少期から剣の修行はしています。ぜひ、アレク軍の武将の方に師事させて下さい。」
アレクが応える。
「その想いはよし。だが今のルーマの状況ではイザークの成長を待ってはいられない。実戦で鍛えてもらうしかない。」
イザークが頷き応える。
「はい。ヒュース様に聞いております。ルーマは全方位の侵略を受けていると。私を前線に送ってください。」
アレクが話す。
「イザークは実戦経験はあるのか?人を殺した経験はあるのか?」
イザーク以外の三人が目を瞑る。イザークが答える。
「私はまだ実戦経験がありません。人を殺したこともありません。」
アレクが話す。
「分かった。では一気に底上げする。俺と対戦しろ。真剣勝負だ。殺す気でこい。」
皆が驚く。ヒュースが止める。
「アレク王。イザークはまだ若者です。急ぐ必要はありません。」
イザークがヒュースを制止する。
「ヒュース様。私は王と真剣勝負をしたいです。」
ヒュースが呆れて叱る。
「馬鹿者。アレク王に剣を向けるだけでも不遜である。そもそもアレク王の力を知らんのか竜種を討伐できる方なのだぞ。」
イザークは怯まない。
「いえ。存じています。私は王都の屋敷から見ていました。力の差が問題では無くアレク王から教えを頂きたいのです。」
アレクがヒュースを宥める。
「ヒュース。武人とはイザークのような者だ。解ってやれ。イザークよ。外に出ろ。」
アレクが先に幕舎を出てイザークを待つ。イザークが自分の武器を持ち現れる。
「ほう。長剣か、長いな。イザークの長身に似合うな。」
イザークは身長一.九メード、体重九十キルはある。背中に背負った長剣を抜き構える。アレクが尋ねる。
「イザークは自己流か?」
イザークが答える。
「はい。父に教えて頂きましたが早くに父が亡くなり、その後は自分で修行していました。自己流です。」
ヒュース達が心配して見ている。アレクが黒剣を鞘のまま構える。
「王様。鞘のままですか?」
アレクが応える。
「この剣は抜けば一帯が消滅する。鞘のままでも簡単に殺せる。イザークは耐えられるか?お前の覚悟を見せてみろ。」
イザークが頷き、気合いを入れる。
「おおおおおお。行きます。」
イザークが息を溜め渾身の力で剣を振り下ろす。アレクの頭上から足元に剣が通過する。ヒュース達にはアレクが斬られたように見える。
「アレク王ぅぅぅぅ。」
三人が駆け寄ろうとするがアレクが覇気で止める。
「動くな。まだ死合い中だ。」
イザークは渾身の剣が空振りしている事が理解できていない。アレクが言う。
「イザークよ。ただ振り下ろしているだけでは相手を見ていないのと同じだ。対戦している相手の全てを見て感じるんだ。存在を感じろ。」
イザークが頷き再び構える。次はアレクの全体を見ながら長剣も振り下ろす。アレクの頭上に剣が当たる瞬間、アレクが消える。イザークは確認したアレクが後方に瞬時に移動しているのだ。自分の剣の速度よりも高速で後方に移動し再び元の位置に戻っている。
ザンッ
イザークの長剣が地面に打ち込まれる。アレクが言う。
「今度は見ていたな。上達したぞ。次は俺の攻撃を受けてみろ。」
イザークが慌てて剣を構えて防御姿勢になる。アレクが続けて言う。
「俺の剣の流れが見えればイザークは武人として一段上がる。括目して死を感じろ。」
イザークの剣を握る手が硬直する。アレクが剣を振り抜く。だがヒュース達にはアレクが構えているだけにしか見えない。動いているようには見えない。動いていないのだ。
イザークはアレクから無数の剣を受ける。何とか躱しているが剣の速度が増して受けきれなくなる。全身を斬り刻まれて絶命する。イザークが前のめりに倒れる。
ヒュース達には何が起きたのか解らない。見た目にはイザークが一人で剣を振り回して倒れたように見える。駆け寄るヒュースにアレクが言う。
「良い武人だ。最後まで下がらなかった。イザークは成長する。未来の英雄だ。」
アレクは黒霧でイザークを包み回復させる。外傷は無いがアレクの攻撃を大量に浴びた精神は死んでいる。アレクの黒霧で精神の修復をする。イザークが目覚める。
「ヒュース様。ここは何処ですか?」
ヒュースが応える。
「ここは軍営の幕舎前だ。解らんのか?」
イザークが応える。
「はい。アレク王に斬り刻まれて体が吹き飛ばされました。ここはあの世でしょうか?」
錯乱しているイザークにアレクが話す。
「イザークよ。死を乗り越えたな。若き武人の誕生だ。」
イザークが我に返る。
「アレク王。私は無数の剣に斬り刻まれて死んだはずでは?」
アレクが応える。
「それは俺の精神攻撃だ。だが本当の剣技だ。イザークの見ている世界に俺が剣技を映して闘ったのだ。実際には斬っていないがイザークの精神には斬られた認識しかない。戦闘による死を体験したんだ。相手を感じる事ができただろ。」
イザークは起き上がり膝を着く、頭を深く下げ感謝する。
「アレク王の手解きに感謝します。一層鍛錬し高みを目指します。」
アレクが言う。
「イザークは若き武人だ。エルニア殲滅戦の間は所属をアグニス付の武人とする。影の部隊と連携してアグニスから学べ。エルニア戦後はジェイド付の護衛武将だ。要人警護も武人の仕事だ。イザークよ。お前が目指す高みは遥かに遠いぞ。励めよ。」
イザークが力強く返事をする。
「はい。高みを目指します。」
ヒュースも喜び感謝する。アレクは皆と幕舎に戻り打ち合わせに戻る。
若き武人が誕生した事がアレクには嬉しかった。
続・竜戦記Ⅰ D.H @daidai007
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