続・竜戦記Ⅰ

D.H

第1話 ドレル攻略戦


古の竜と破滅の竜

ダロス大陸には竜と騎士の伝説がある。

大陸の中心から各方位にそれぞれの地を守護、または支配する竜種が存在する。

竜は知力が高く人種との対話も可能である。

各竜種は己の眷属として人種等を騎士とする。

竜の騎士となった者は竜と能力を共有し強力な力を得ることができる。

その為、野心や欲望を叶える者達が竜種を捕縛しようと各地で竜狩りが横行していた。

しかし、竜種の力は絶大で人種一人では倒すことも従えることもできはしないのであった。各地の国や権力者達は大軍を率いて竜を捕まえようと戦っているのであった。

それだけの戦力を費やしても捕縛できる竜種は低級の竜がほとんどである。

竜種には階級のようなものが存在する。

伝説の竜種として二種存在する。

古の竜と破滅の竜である。

この二体は竜の始祖ともいわれるもので、それぞれから派生したものが各地に存在する竜種になる。この二体に近い竜種は能力も高く強力であるが末端の竜種は能力が低く人種達に捕縛される。

捕縛された竜種はその能力を引き出すために魔道封印され眷属となった者に力のみを与え続けるのであった。本来は竜種が相互の関係を持つ人種だけが眷属となるのだが、魔道の力で竜種を服従させ強制的に眷属化しているのである。


古の竜。

大陸の北部にある巨大な山脈に生息するといわれる古の竜。

その力は世界を創造した竜ともいわれる。

大陸に存在する人種は西方に人間族、南方にエルフ族、北方にドワーフ族、東方に鬼人族が主に分布している。

古の竜は西方に弱く脆いが増え続ける人間族を、南方に植物と共に生きる生命力の高いエルフ族を、北方に鉱物の知識と加工技術に優れたドワーフ族を、東方に力が強く戦闘力の高い鬼人族を造ったといわれている。


破滅の竜。

その昔、天界の大樹から地上に堕ちた二つの実が二種の竜であった。地上はまだ生命の息もなく無であった。二つの実はそれぞれ無の空間に堕ち世界を形成していった。二つの実の一つは光に包まれ周りを照らし続けていた。一つは暗く周りを闇で包んでいた。やがて地上は大地となり大陸となる。ダロス大陸の起源である。

光で照らす実の周りは生命が始まり大陸の全域に植物と生物を生み出していく。光の実は竜の形を成していく古の竜の誕生である。生まれたての竜は小さな幼体であるが大陸が生命に包まれると進化し成長をするのである。古の竜は世界の生命力で成長し、その力で生命を創造する。世界の礎が完成しダロス大陸に人種が誕生したのである。

人種が誕生し数百年。世界は古の竜の加護から離れていった。


ダロス大陸は北に氷の山脈があり、その麓に鉱山を採掘するドワーフ族が国を造っている。西には平原の広がる人間種の国がある。南に樹海の広がるエルフ族の国が、東に農耕が盛んな鬼人族の国がある。

そして大陸の中心に巨大な縦穴がある。何人も足を踏み入れることのない地域、これこそが闇の実から生まれた竜の、破滅の竜の巣である。


ダロス大陸が誕生し、人種が種族を繁栄させ生命を謳歌する、やがて世界は争いを生む。

増えすぎた人間種は私欲の為、大陸を荒らし始める。まず西方の人間種は同族間で国が分かれ争いを始める。中でもアレク王が統べるルーマ国が圧倒的な武力で人間種の五割を征服していた。ルーマ国は北方のドワーフ国へも派兵し武器や兵器などを搾取しているのだ。ドワーフ国の武器は通常の人間種が鍛造したものより数段も強度が上でルーマ国軍は一兵卒までがこれを装備していた。西方の人間種がルーマ国に統一されるのも時間の問題である。しかし、脆弱な人間種が北方のドワーフ国へ派兵し戦果をあげるには強力な力が必要で人間種の力では無理がある。例えるならドワーフ族一人に人間種五人くらいの力の差である。




第二章 ダロスの鼓動


アレクは意識の中で会話する。

〈この世界は無限に繰り返す創造と滅亡の世界。〉

「それに意味はあるのか?」

〈意味は無いだろう。ただ繰り返し続いて行く。誰も何も考えず。〉

「その世界に生きる者は意志を持つ、諦めないという意志だ。」

〈その小さな意志に世界は何も感じない。大きな波は小石を気にはしない。」

「その波を止めてやる。大いなる力を跳ね返す力を俺が育てる。」

〈それは面白い。止められる程の力を得られれば世界は動くかもしれない。〉

「小さな命にも力はある。それは創造する者にも理解できない力だ。切り開く力だ。」

〈見てみたい。世界が変わり安らげるその刻を。味わいたい縛られないその刻を。〉

「俺が、俺達が見せると約束する。世界を変えると。安らげる刻を贈ると誓う。」

〈それは楽しみだ。では我を超えてゆけ。その力を得る為にこのシエムを倒すがいい。〉

「お前はザウザーの意識と同じように感じる。シエムはザウザーの一部なのか。」

〈賢き人間種の王アレク。我の正体に気付くか。ますます、面白い。〉

「それは正解なのか。ザウザーとミレニアとシエムは一つなのか。」

〈それは違う。だが正解には近い。我を倒せば教えよう。アレクと仲間の力を試そう。〉

「ああ。教えてもらう。小さな存在が世界を止めると証明し、シエムの試練を超える。」

意識が弾ける。

アレクは黒雲と紫晶竜シエムから離れて距離をとる。

シエムが魔道を発動する。地鳴りが起こりバーン達が地に伏せる。

「バーン。全員風魔道で跳べ。滞空して音波魔道発動。シエムの幻影を消せ。」

アレクがバーン達魔道部隊に指示を出す。バーンが即座に反応する。

「主の言う通りに滞空して音波魔道発動。紫晶竜の本体を見つけるのだ。」

バーン達が地面から跳び風魔道で滞空する。弟子達も一斉に跳ぶ。地鳴りの続く地面が割れ溶岩が現れ火柱が吹き上がる。間一髪でバーン達は回避する。

アレクが言う。

「魔道が枯れるぞ。後方に避難して長距離で対応。射程外の者は防御支援。」

バーンが応える。

「紫晶竜の射程から離れて指示通りに展開。足場に注意じゃ。」

紫晶竜が次の攻撃に入る。魔道が冷気を収束させる。アレクがバーンに言う。

「バーン。熱波魔道全開で前面に展開広範囲の冷気が来るぞ。」

バーンが音波魔道を止め。熱波を発動し弟子に指示を出す。

「儂が熱波で防御し反撃する。音波を浴びせ続けるのじゃ。」

バーンの熱波がシエムに襲いかかる。紫晶竜の冷気が放たれる。

ビキキキキキキキ

バーンの熱波が冷気を蒸発させシエムの冷気が蒸気を凍らせる。高温と低温の壁が目に見える。バーンが更に魔道を高める。シエムの冷気が圧されて熱波が貫通する。

ブバァァァァァァ

紫晶竜の幻影に熱波が浴びせられる。

〈グオオオオオオオオオオ。〉

アレクが言う。

「バーン。本体が現れるぞ。警戒しろ。」

バーンが熱波を止め様子を窺う。紫晶竜の幻影が透ける。巨大な幻影が消える。

〈まさかアレクではない者に本体を暴かれるとは人間種の魔道士よ。名は何と言う。〉

バーンが紫晶竜シエムに応える。

「ほっほっほう。いやぁ。竜種の魔道、素晴らしい。儂は絶・大魔道士バーンじゃ。」

バーンがシエムの魔道にも反応する。アレクが叱る。

「バーンよ。相手は試してるだけだ。油断するな。」

バーンが真剣に構える。シエムが本体を現す。

〈では次はどうする。〉

現れたシエムの本隊は幻影の半分の大きさだ。シエムは大気を大量に吸い込み始める。

「バーン。斬撃の嵐が来る。土魔道で連続防壁発動。」

バーンが弟子達に指示を出す。

「音波魔道止め。土魔道連続防壁発動。儂が攻撃する。他は防御維持。」

バーンがシエムの咆哮と同時に土魔道の隆起を発動させシエムの足元から硬化した土の柱を大量に繰り出す。シエムの咆哮から生み出された暴風の斬撃がバーン達に襲いかかる。

弟子達の防壁が破壊される。が、次々と防壁が地面から立ち上がる。斬撃を全て止める。

シエムはバーンの攻撃を喰らい上空に打ち上げられる。

〈グウウウウ。これも防ぐか。ならば質量は止められるか。〉

シエムが上空に舞い上がり静止する。魔道を発動させ地面を持ち上げ大量の土砂で巨大な塊を造る。アレクがバーンに言う。

「竜巻発動と同時に高圧水魔道一斉射。岩石を撃ち砕け。」

バーンが弟子に指示する。

「竜巻発動防御部隊以外は高圧水魔道で岩を粉々にせよ。」

シエムが巨大な土砂で造った岩の塊をバーン達に落とす。ただの風魔道では止められない超重量の質量攻撃だ。だが高圧に圧縮された水魔道が岩を砕き続ける。バーンが発動する。

「儂が止めを刺そう。光魔道光線。」

バーンの杖の魔道石が光の魔粒子を高速で吸収する。収束を始めた光が超高温を生み出す。

「紫晶竜よ。人間種の魔道を味わってみよ。照射。」

バーンの杖から光の矢が岩に放たれる。光が岩を切り刻みシエムに襲いかかる。

ビィィィィィィィィィン

ビィィィィィィィィィン

ビィィィィィィィィィン

シエムの体を光の矢が斬りつける。

〈ギャウウウウウウウウウ。〉

シエムが傷つき体の傷から魔粒子が溢れ出す。

〈ここまで魔道を使えるとは人間種もエルフ族に近づいたのだな。〉

アレクが聞く。

「紫晶竜シエムよ。まだ試すのか。自分を傷つけてまで試す意味はあるのか。」

バーンは警戒したままアレクを見守る。シエムが応える。

〈意味はある。だが次で終わりにしよう。魔道の極致を少しだけ見せよう。〉

シエムは傷ついた体を光魔道で回復する。全身を覆う魔道石の外皮から黒い霧が溢れ出す。それは黒い渦となり高速で回転を始める。アレクが驚く。

「黒霧か。」

バーンに言う。

「攻撃が通じないぞ。全ての防壁防御展開。黒霧に飲まれるな。精神をやられるぞ。」

バーンが指示を出す。

「全員防壁防御と同時に精神攻撃に備えよ。自己防御障壁展開。」

弟子達は風の障壁を纏い黒霧の進入を防ぐ。シエムの黒霧は浸透して弟子達を弱体化する。

バーンが光魔道を撃ちこむ。

「光魔道光線。」

黒渦が光線を吸い込み光線が消える。バーンが驚く。

「全て呑み込まれた。王よ。手立てがありません。」

焦るバーンに黒渦から光の矢が撃ち込まれる。

バスッッ

バーンを貫通する。弟子は体が動かず。ただ見ているだけだった。

「師匠ぉぉぉぉぉぉ。」

バーンが倒れる。アレクが黒雲から跳びシエムの頭上に降下する。アレクが言う。

「やり過ぎだ。バーンはお前の契約者だ。」

アレクが黒剣を構え光魔道を発動する。黒剣に光が集まる。魔道石の鉱山が光り輝き魔粒子をアレクに送り続ける。黒剣は吸い込み続けた光の魔粒子を解放する。

「ヒカリノハシラ・光瀑。」

アレクが黒剣から解放された光を天空からシエムに叩きつける。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオ

永遠に続くかのような光の瀑布をシエムに浴びせ続ける。

〈ググググウウウウウウウウウウ。どうやら限界だ。負けを認めよう。〉

押し潰されそうな痛みと存在を熔かされる攻撃にシエムが降参する。

アレクが魔道を解除すと、そのままバーンの元に向かう。

「主よ。我が師を御救い下さい。」

弟子が跪き懇願する。アレクが応える。

「安心しろ。バーンは不死身だ。」

アレクが黒霧でバーンを包み込み治療する。胸を貫通した傷を修復して黒霧が戻る。

目覚めるバーン。横たわりながら言う。

「主よ。光魔道は避けられませんな。紫晶竜にやり返されました。」

アレクは死の淵から蘇り開口一番、魔道の話をするバーンに呆れる。

「光速は誰も避けられない。シエムがやったように闇魔道で吸い込むしかないな。」

バーンに手を貸して起こしアレクが応える。バーンが懇願する。

「主よ。私に闇魔道を御教授下さい。」

アレクが笑顔で応える。

「バーン。お前は既に習得している。それよりもシエムと契約するんだろ。」

バーンが二つの願いが叶い。何方を喜べばいいか判らず変な感じになる。

「おおお。それでは闇魔道を使役できるのですか。」

アレクが言う。

「混ざってるぞ。」

バーンが自分を落ち着かせる為に深呼吸する。

「ふぅぅぅぅぅぅぅ。」

バーンが頭を整理して話す。

「主よ。私は闇魔道を取得しているのですか?紫晶竜シエムとも契約できるのですか?」

アレクが頷く。バーンが燥ぎ出す。

アレクがシエムの前に向かい歩き出す。


アレク軍三軍の一つ、バーン率いる魔道部隊とアレクはドワーフ国のドレルに侵攻する。

アレクはドレルに向かいながら紫晶竜シエムの捕獲も同時に進める。ルーマの王都から街道を進みドレル侵攻部隊と竜種捕獲部隊に分岐地点で分かれる。アレクは竜種捕獲部隊をバーンに任せ途中で合流する段取りをバーンと事前に打ち合わせをする。

「バーン。俺はドレルの反乱軍に攻撃して動きを止める。その後はバランとウェザーに部隊を任せて足止めさせておく。火力で圧しておけば竜種捕獲の時間を稼げるだろう。」

バーンが頷き応える。

「承知しました。バラン。ウェザー。」

バーンが二人を呼ぶ。

「はい。ここに。」

二人がバーンの元に近寄り跪く。

「アレク王の指示通りに任務をこなすのじゃ。挨拶せよ。」

二人がアレクに応える。

「アレク王の御指示通りに敵軍を足止めします。」

アレクが話す。

「バラン。ウェザー。二人に俺の加護を与える。仲間達を守り任務を全うせよ。」

アレクが黒霧を二人に纏わせる。二人の手に紋章が刻まれる。二人が驚く。

「おお。何か魔道力が増大した感じがします。体から溢れるようです。」

二人が驚き、震えている。バーンが羨ましそうに見ている。アレクが話す。

「それはお前達が元々持っている力を解放しただけだ。調子に乗ると魔道が枯れて意識を失うぞ。仲間を守る為には冷静に自分を制御して魔道を行使するんだ。」

二人が落ち着き応える。

「失礼しました。冷静に魔道を使います。」

アレクがバーンに言う。

「バーンは紫晶竜シエムの捕獲に向かう部隊を攻撃と防御の部隊に分けて専任させろ。俺が考察するとシエムは魔道の試練を与える竜だろう。」

バーンが目を輝かせる。アレクが続ける。

「それは全属性の攻撃を繰り出して来ると考えている。バーンは攻防を見極めて弟子達に指示しろ。防御が足りなければ補助し攻撃の機会があれば隙を突け。攻撃をしなければ防戦一方になる。それでは魔道士達が疲弊しシエムが有利になってしまう。結果、全員消し飛ぶ。相手は魔道石を体に帯びている竜だ。無尽蔵の魔道力を使って来る。用心しろ。」

バーンが魔道を使う竜との対戦に心が躍る。

「主よ。御指導、感謝します。私と弟子の魔道の集大成を御見せします。」

アレクが頷き、補足する。

「これはアレク軍の魔道部隊に対する試練だと考える。つまりバーンの試練だ。魔道の極致に達する戦いだ。俺は支援するがバーンが戦い勝ち取るんだ。俺の弟子であり友の闘いを見届けよう。魔道士達の未来を切り開くバーンを弟子達の目に焼き付けろ。」

老魔道士バーンが大志を抱く青年のような顔で応える。

「主の御導きに感謝します。後人の魔道士の為に未来を切り開きます。」

バーンが跪き、後ろの弟子達も続く。アレクが言う。

「ではこれより、ドレルへ侵攻し反乱軍を止める。バーンは紫晶竜シエムの住処に進み待機。俺が反乱軍を止めてバーンの元に急行する。バランとウェザーは防御を重視し火力で足止め、竜種捕獲後に俺が帰還し掃討する。バーン達は北上してドレルを威嚇攻撃。ドレルの城壁を剥がして威嚇しろ。このドレル平定は最速最短で終わらせる。以上だ。」

全員が返事をして部隊を分け進軍を開始する。

アレクがコビーとロックの元に向かい話す。

「コビーもロックも輜重隊と待機してくれ。俺が反乱軍の動きを止め、紫晶竜を捕獲してから反乱軍を制圧する。時短で終わらせる。」

ロックが驚いて聞く。

「ドレルの南の魔竜を捕獲するですと?短時間で?」

コビーは固まっている。アレクが話す。

「俺は転進して南に向かう。時間が無い。無理やりでもドレルを平定してロックの仲間を救出するのさ。反則技の大盤振る舞いだ。」

ロックが大笑いする。

「わはははは。アレク王は実に愉快痛快。楽しみに待ちますわい。飛行艇は我らが整備してお渡ししますぞ。」

アレクが言う。

「直ぐに終わらせる。しばし待て。」

アレクは黒雲に飛び乗りドレル反乱軍の上空に向かう。

アレクの発生させた雷雲からの落雷で反乱軍は動きを止める。

アレクは南の紫晶竜の住処に向かいバーン達と合流する。

シエムの猛攻をバーン達魔道部隊が防ぎ、攻撃し、シエムを弱らせる。

紫晶竜シエムの最後の攻撃がバーンを撃ち抜く。倒れるバーン。

アレクはシエムの攻撃に怒り介入する。シエムがアレクの攻撃で沈黙する。


アレクが紫晶竜シエムと話す。

「見守るつもりだったが介入してしまった。すまなかった。」

シエムが力なく地に伏せ応える。

〈人間種の王アレクよ。問題無い。我が冷静さを欠いてしまった。こちらの落ち度だ。〉

アレクが黒霧でシエムを包み込む。周りの魔道石の鉱山が反応して大量の黒霧が注がれる。

「シエムよ。直ぐに回復する。少し待ってくれ。」

シエムの焼けただれた外皮が修復して行く。頭蓋骨が見えていた頭部も再生する。しばらくしてシエムが完全に回復する。シエムが話す。

〈アレクよ。感謝する。ザウザー様の力とアレクの力が我に注がれた。更なる進化だ。〉

紫晶竜が発光し紫の光を放つ。黒く深い紫色の外皮に包まれるシエムの発光が治まる。

「シエムが進化したな。よりザウザーに近づいたみたいだ。」

シエムが応える。

〈先の問いに答えよう。我はザウザー様とミレニア様の想いが産んだ子供の様な存在。〉

アレクが尋ねる。

「それは二つの想いなんだな。魔道を使い戦う。繰り返す世界を止める為の手段。」

シエムが応える。

〈それで正解だ。だが我の力だけでは到底敵わない。ザウザー様の力は導く力。アレクが進む道に我らがいる。試練は続く。我の力はアレクが使うがいい。〉

アレクが聞く。

「ザウザーと話すかい。」

シエムが応える。

〈我は他の八翼とは違う。いつでも話せる。今回の戦いも見ていらした。喜んでいた。〉

アレクが頷き話す。

「ではシエムはバーンと契約してくれ。問題児だがシエムとは気が合うだろ。」

シエムが笑う。

〈絶・大魔道士バーン。面白い人間だ。よかろう。〉

アレクがバーンを呼ぶ。

「バーン。シエムが契約するそうだ。こちらに来てシエムの額に手を当てろ。」

バーンが最大の加速で瞬時に近づく。アレクが続けて言う。

「シエムの進化祝いに名を贈る。【黒紫竜シエム】。バーンも【竜魔道士バーン】だ。」

シエムが喜ぶ。

〈黒紫竜か、ザウザー様のようだ。感謝する。〉

バーンが複雑な顔をする。

「竜魔道士も絶大魔道士も何方も気に入ってるのですが・・・主よ。」

アレクが言う。

「両方でいいじゃないか。公の場では竜を名乗ると周りが怖がるぞ。」

バーンが喜ぶ。

「感謝します。使い分けるよう致します。」

アレクが催促する。

「いい加減にしろよ。シエムが待ってるぞ。」

燥いでいるバーンが我に返る。

「おお、そうです。シエム殿。私と契約して頂けるのですね。感謝致します。」

シエムが応える。

〈我、【黒紫竜シエム】。【竜魔道士バーン】と五分の契約をしよう。我は魔道の力を吸収し増大させ眷属に与える。我が死滅するまで魔道は供給される。ただし、それに耐えられなければ眷属は崩壊する。諸刃の剣。使いこなしてみよ。〉

バーンがアレクを見る。アレクが頷く。バーンが応える。

「我。【竜魔道士バーン】。【黒紫竜シエム】と五分の契約をしよう。シエムの力を使いこなしアレク王の為に戦うと誓う。」

二人が発光する。黒く深い紫色に輝き放つ。鉱山の魔道石が高密度化される。やがて光が治まり二人が元に戻る。シエムが話す。

〈バーンよ。契約は成った。これからは思念で話す事が出来る。いつでも呼ぶがいい。〉

バーンが応える。

「ああ。シエム。これからは魔道の話相手に困らないな。楽しみだ。」

アレクがバーンの容姿が変わっている事に気付く。アレクが話す。

「バーン。お前、若返ってるぞ。二十代に見える。」

シエムが話す。

〈大量の魔粒子が注がれて細胞が若返ったな。竜種のようだ。〉

バーンが燥いで鏡を探す。アレクが地下の岩石から鏡を造り出して見せる。

「おおおおお。若い。何という現象。魔道の神秘。解明したいぃぃぃぃ。」

アレクとシエムが大笑いする。

〈面白い人間だ。バーンは楽しいな。〉

アレクが言う。

「シエム。甘やかすなよ。しつこいから叱らないと寝られなくなるぞ。」

シエムが驚く。アレクは笑う。燥ぐバーンにアレクが言う。

「バーン。時間が惜しい。次に行くぞ。シエムと魔道士達を魔道で運べ。ドレルを威嚇しろ。俺はバラン達と反乱軍を掃討してドレルを平定する。しっかりしろよ。」

バーンが慌てて応える。

「はっ。アレク王の。主の援護に入ります。シエム殿。お力添えを頼みます。」

アレクは黒雲に飛び乗りビートに言う。

「困った爺様だ。もう爺さんじゃないけどな。」

ビートが奇跡を見過ぎて呆ける。

「アレク王。私は夢でも見てるのでしょうか?」

アレクがビートに黒霧を纏わせ言う。

「ビートは全ての目撃者だ。冷静に真実を皆に伝えるんだ。それが信じられない事でも語り部が事実を歪曲しないように真実をビートが伝えて行くんだ。」

ビートが冷静になり頷く。アレクが発する。

「バーンとシエムは魔道士を運びドレルに布陣。威嚇攻撃。別部隊の到着まで相手戦力を削れ。俺は別動隊と合流後にドレルを平定する。休んでる間は無いぞ。出撃。」

黒雲を別魔道部隊に向かわせる。バーンはシエムに乗り魔道士達を風魔道で運ぶ。

ドレルの反乱軍が制圧されるのは時間の問題だ。

朝日が昇りまだ数刻の事だった。


オーディスは陸アルノの砦を攻撃する。

既に三か所の砦は制圧した。武装解除したアルノ兵を解放し先に進む。ゴードンが先陣を切り相手の布陣も砦の城門も破壊する。敵軍は丸裸でラース騎士団の突撃を喰らう。当然壊滅する。生き残った敵兵を武装解除し解放する。本当の丸裸だ。オーディスは捕虜を作らない。管理する人材もいないから当然だ。武器も防具も持たない兵は自軍の別部隊に吸収される。相手の兵士は増える。普通なら敵軍が有利になる状況だがオーディスとゴードンがいるラース騎士団には関係ない。

ゴードンが言う。

「オーディス兄。相手は増えても武器も防具も足りて無いから参戦してる兵士は増えないな。つまらん。面倒だから砦を破壊して進まないか?兵士が出てこないんじゃ戦いにならん。吹けば飛ぶような砦だし戦略拠点にはならないだろ。」

オーディスが笑う。

「そうだな。ここからは砦破壊で敵兵を追い出して進むか、王城まで半分くらいの距離に来ただろう。ラース騎士団の休憩も兼ねて竜戦士に任せよう。」

ラース騎士団が皆で言う。

「我々は何もしていません。竜戦士殿ばかり仕事をしています。」

ゴードンが言う。

「ラース騎士団は相手が布陣してないと出番は無いだろ。俺の役得だ。」

騎士団が悲しそうに言う。

「団長。戦術の変更が必要です。」

オーディスが笑いながら応える。

「攻城戦は騎馬隊の仕事ではない。相手が布陣するのを期待しろ。竜戦士の役得だ、」

ゴードンが大笑いしてシルヴィを駆る。

「流石は英雄。戦場を解っている。ラース騎士団は相手が出て来るまで休憩だ。」

ゴードンは白銀の閃光と共に相手砦に突撃し城門を破壊し土竜の砂爆波で砦を吹き飛ばす。必死で逃げ込んだ砦が破壊され慌てて逃げ出す敵兵が次の砦に裸、裸足で駆け込む。ゴードンが追い駆け、次の砦も同じように続けて破壊する。まるで追い込み猟の獲物を追い立てているようだ。ラース騎士団はオーディスを先頭にのんびり進軍する。

「団長。王城まで出番は無さそうです。」

悲しむ騎士団達。オーディスが慰める。

「もともと陸アルノは平定が目的だ。制圧しても殲滅しないのだから逃げ出す敵兵はこうなるだろ。我々は決戦まで温存出来るんだ感謝しないとな。」

騎士団が嘆く。ゴードンは喜んで砦を破壊し続ける。王城が目視できる地点まで来た。


ガヴェインはアレクとの死闘の後、王城に向かい部下達と騎馬を走らせる。

ガヴェインに部下が尋ねる。

「隊長。お体の具合はいかがですか?」

ガヴェインが答える。

「快調だな。何故か体が軽い。今までも体が重いと思ったことなど無いが、体が軽いんだ。空を飛べるような気さえする。全力で闘ってみたい衝動に駆られる。」

部下が聞く。

「やはりアレク王は神なのでしょうか?」

ガヴェインが応える。

「それは俺には判らないが、俺に解る事はある。」

部下が聞く。

「それは何ですか?」

ガヴェインが笑いながら言う。

「アレク王は正しい事をしているという事は解る。俺の無意味な忠義を正してくれた。」

部下が言う。

「隊長は自由になれたのですね。」

ガヴェインが応える。

「ああ。最高の気分だ。サディアス王を助けるぞ。作戦を伝える。後で後続に伝えろ。」

部下が返事をする。

「はい。どう動きますか?」

ガヴェインは王城に向かいながら救出作戦を伝える。作戦はガヴェインが単独で潜入し、サディアスを救い出す。その後、部下と合流し北上する。オーディスと合流する為に。

「隊長、御一人で大丈夫ですか?」

ガヴェインが笑う。

「俺が一人で潜入する理由は最速でサディアス王の元に向かいたいからだ。道中、衛兵を相手にする気は無い。王を救い脱出する。お前達は城外で待機してくれ。王城にサディアス王がいなければアルノを攻められても問題ない。戦後処理にて王が復位される。」

部下が返事をする。

「分かりました。城外にて待機し隊長の作戦成功を待ちます。」

ガヴェインは到着した王城の正面から徒歩で入場する。城門を守る守衛はガヴェインを怪しまずに入城させる。ガヴェインは解っていた。陸アルノの王城にはサディアス王の兵士がいない。兵士はいるが王を命懸けで守る兵はいない。ガヴェインはすれ違う衛兵に見向きもせず幽閉されている王の私室に到着する。部屋の前に二人、見張りの衛兵が立つ。

「ガヴェインだ。サディアス王を確認するように言われた。通せ。」

衛兵が応える。

「はっ。只今解錠します。」

王の私室が開いて中に入る。中にも衛兵が護衛という名目の監視の兵が四人いる。ガヴェインを見つけたサディアスが駆け寄る。ガヴェインが片膝を着く。

「ガヴェイン。よく来てくれた。私に用か?」

ガヴェインが答える。

「遅くなりました。少々お待ち下さい。」

サディアスがガヴェインの目を見て理解する。

「分かった。そこで待つ。」

サディアスが自分の寝室に入る。

衛兵がガヴェインに確認する。

「ガヴェイン殿。御用件は何でしょうか?」

ガヴェインが衛兵四人の位置を確認し隣に立つ衛兵を手刀で気絶させる。他の三人は気付いていない。ガヴェインが話す。

「おい。お前どうした?」

他の衛兵が近づいて来る。

「どうされました?」

ガヴェインが答える。

「いきなり倒れたぞ。病気持ちか?」

三人の衛兵が気絶している衛兵を起こそうとする。ガヴェインが油断している三人を一気に気絶させる。ガヴェインが言う。

「すまないな。サディアス王を救うのがこの国の為だ。」

衛兵の先の未来に謝罪する。王を逃がした責任を取る為に厳罰になる四人と外の二人。

ガヴェインはサディアスを呼ぶ。

「サディアス王。終わりました。直ぐに王城を出ます。」

サディアスが身支度を済ませて部屋から出て来る。

「分かった、ガヴェインに任せる。」

ガヴェインがサディアスを褒める。

「よく理解しましたね。サディアス王に信用のある側近を付けられなかった自分の責任です。これからは王に仕えます。前王には忠義を尽くしました。」

サディアスが頭を下げる。ガヴェインが起こす。

「では行きます。私が背負います。振り落とされないよう力一杯しがみついて下さい。」

サディアスが巨体のガヴェインに背負われる。ガヴェインが窓の外を確認する。一気に飛び降りるにはサディアスの負担が大きい。王城の側面を飛び移りながら降りる事に決める。

「サディアス王。少し動き回りながら下に降ります。行きます。」

ガヴェインは一気に隣の部屋の下の階に飛び移る。その勢いを乗せたまま次の下の階に飛び移る。サディアスの四階から三度の着地で地上に到着する。

「では城門を超えます。」

サディアスは地上に着地している事にも驚くが城門を超えると言う意味が解らず聞く。

「ガヴェイン。超えるとはどういう意味なのか?」

ガヴェインが笑う。

「今の跳躍で感覚が掴めました。一気に跳び上がります。行きます。」

サディアスが驚く。ガヴェインが屈伸から跳躍する。城壁の天辺に着地する。

「ガヴェインは超人だったのか?武人は皆出来る事なのか?」

ガヴェインが答える。

「皆には出来ません。気付きませんか?」

ガヴェインが聞く。サディアスがガヴェインの顔を見て答える。

「ガヴェイン。目が、目が治っている。何故。」

ガヴェインが微笑んで頷く。

「では失礼。喋らないで下さい。」

ガヴェインはサディアスを城壁の外に放り投げる。驚くサディアスに合図してガヴェインが先に飛び降りて着地する。落ちて来るサディアスを勢いを殺しながら受け止める。

「御無事ですか?」

サディアスが笑う。

「驚いたが面白かった。二度目は御免だ。」

ガヴェインが笑って答える。

「そうですね。私も王を放り投げるのは今回だけで御勘弁を。では退散しましょう。」

サディアスが頷き部下の元に向かう。

合流したガヴェインとサディアスは北上してオーディス達との合流を目指す。

陸アルノの平定が今から始まる。

ガヴェインはアレクとの約束を守る事ができ安堵する。


 アグニスがエルニア魔道機関に潜入する。クアド以外の部下は同行しているのでアグニスの潜入の補助に就く。アグニスが潜伏能力を高めて進む。ワンド達は後方の警戒をしてアグニスに続く。アグニスの影の部隊は潜伏能力が増してアグニス並みに気配を消す。特にワンドはアレクの加護により感知能力も増している。アグニスの後方を任せられる部下となる。

 アグニスが魔道機関を最初に標的にした理由はアレクの願いの為だ。非道な手段で攫った魔道士を苦しめ人体実験の道具にしている全てを消し去るように頼まれている。救える者達は救い、救えない者は苦しみから解放するように頼まれている。アグニスにはアレクの苦しみが伝わっている。本来ならば自分で解決したい事だったのだろうと。

 アグニスは最初の実験室を見つける。ワンド達に待機させ部屋に侵入する。中では隔離された部屋に魔道士の少女が強制的に魔道を発動させられている。体力の限界、魔道力が枯れている状態の少女に無理やり栄養を与え負荷をかけ魔道を使わせている。

 アグニスはアレクの苦しみが解った。隔離された部屋の実験をアグニスが侵入した部屋から笑いながら命令している糞共を切り刻む。一人残らず。隔離された部屋に侵入し少女に薬を投与している二人の内一人を気絶させ一人は消す。少女を解放し話を聞く。

「君は何処から此処に連れて来られたのか解るかい?」

少女は意識が遠く小さな声で喋る。

「わたしは・ルーマこく・から・つれて・こられました。」

アグニスが抱きしめて言う。

「帰ろうな。俺が連れて帰る。」

少女は微笑みながら意識を失う。アグニスは部屋から出て少女をワンドに預ける。直ぐに安全な場所へ避難させて一人が避難所を守るように指示する。部屋に戻り気絶させた糞を起こす。アグニスの怒りは限界を超えている。糞に聞く。

「お前達が実験に使っている魔道士は何処に捕らえている。直ぐに答えろ。」

糞が怯える。アグニスが剣を刺す。

「ぐっうう。痛いぃ。」

アグニスが冷たく言う。

「お前達がしていた事だろ。早く答えないと続けるぞ。」

慌てて答える。

「はい。地下室が牢屋になっていて、そこに囚えています。この建物以外も同じ造りです。ここは人間種だけですが他はエルフ族も囚えています。」

アグニスが聞く。

「この魔道用の施設は他に何処にある?」

怯えながら答える。

「ここ以外は王城の地下だけです。どうかお助け下さい。」

アグニスは話をする事が苦痛だったので吐き捨てる。

「お前の背後に死んで行った者達が見えるぞ。」

糞が怯えながら振り向く。アグニスが首を刎ねる。

「本当に殺してるのかよ。王の命令でなくても俺が此処を消し去る。」

アグニスが部下に言う。

「地下に囚われている者達がいる。優先して救い出してくれ。俺は実験している者達とこの施設にいる糞共を消す。この施設以外にも他の棟に囚われている者がいる。ここが終わり次第移動する。」

アグニス以外は地下に向かう。アグニスは施設を上の階から感知して全ての関係者を消して行く。一階の掃除を終えて部下達と合流する。傷つき弱っている子供の魔道士を十人連れていた。ワンドが施設に戻り話す。

「無人の建物に避難させました。ツヴァイが警護しています。まだまだ増えそうですね。そこに飛竜騎士団の支援を頼めませんか?一番近いエピンに避難させた方がいいと思います。どうでしょうか?」

アグニスがワンドに言う。

「良い案だ。依頼しよう。少し待ってくれ。」

アグニスがアレクに思念を飛ばす。

「アレク王。聴こえますか?」

アレクが応える。

「ああ、聴こえる。アグニス順調か?」

アグニスが応える。

「はい。今、魔道機関で救出任務中ですが、救出する人数が多すぎます。避難させる場所も危険なので飛竜騎士団に支援を頼めませんか?」

アレクが応える。

「分かった。ランド達に向かわせる。場所の情報を送ってくれ俺が指示を出す。」

アグニスが応える。

「こちらも場所を連絡します。あと二棟ありますので完了後に連絡します。」

アレクが言う。

「アグニス。ありがとう。」

アグニスはアレクの気持ちが判った。アグニスが部下達に言う。

「一時避難場所に皆を移動させて次の棟に行く。俺は上の階から消して行く。お前達は地下の牢から救い出して合流する。ここの施設は三棟だ。後二棟を終わらせて此処を消し去る。救える者は一人も残さず救え、他種族も差別するな。アレク王が後で判断する。」

 全員が一斉に動き出す。一時避難所に送る者、次の棟に潜入し救出する者、アグニスは部下達の動きが流れるようで安心する。アグニスは自分の任務に集中する。他の研究棟では同じように属性の違う魔道士達で実験していた。中には救えない者達もいた。アグニスは苦しまないように解放する。最後の棟にはエルフ族が数名、囚われていた。

アグニスは実験中のエルフ族の少女を救い出し尋ねる。

「君は何処の国から来たのか解るかい?言葉は解るかい?」

アグニスは初めて見るエルフ族の少女に聞く。

「わたしはエデンからつれてこられました。ことばはわかります。」

アグニスが話す。

「今は此処にいては危険だから他の皆と避難しよう。いいね。」

少女が返事をする。

「はい。なかまがちかしつにいます。たすけてください。」

アグニスが抱きしめて言う。

「大丈夫だ。皆たすける。」

この少女も意識を失う。アグニスが皆と合流して伝える。

「エルフ族も救出対象だ。全員エピンに送る。後はアレク王が決める。」

ワンドが応える。

「この施設にいる全ての救出対象を避難させます。ここはどうしますか?」

アグニスが拳を握りながら答える。

「皆が移動したら俺が消し去る。皆は下がっていてくれ。巻き込みそうだ。」

ワンド達が蒼ざめる。アグニスが皆が移動したのを確認しフェイザーに話す。

「フェイザー。アグニスだ。」

フェイザーが応える。

〈アグニスか聴こえるぞ。〉

「今、気持ちを落ち着かせるのが苦しくてフェイザーの力が暴走したら止められない。助けてくれないか。どうしても消し去りたい場所があるんだ。」

フェイザーが応える。

〈我の眷属アグニスに力を貸す。暴走しないように我が加護しよう。安心しろ。〉

アグニスが感謝する。

「偉大な竜種に感謝する。獄炎弾。」

アグニスが魔道機関の上空にフェイザーの溶岩弾の数倍の大きさの獄炎弾を撃ち出す。

「全てを熔かし尽くせ。地下のまで溶かせ。此処には何も残さない。」

獄炎弾が着弾する。弾けた溶岩が全てを熔かす。施設も糞の屍も、救えなかった者達も全てを熔かし尽くし一帯が溶岩溜まりになる。部下達がアグニスに言う。

「アグニス様。救えなかった者も解放できました。後は避難を進めましょう。」

アグニスが振り向き応える。

「ああ。魂は帰れたと思う。次に進もう。移動する。」

アグニスは避難させた者達をアレクに連絡してエピンに移動させる。ランド達飛竜騎士団の高速離着陸により短時間で全ての避難を終える。アグニスが部下に言う。

「ハーディ達と合流して傭兵機関を破壊する。ワンド達の仲間を救い出す。」

皆が応える。

「はい。仲間を救い。傭兵機関を破壊します。」

アグニスは一時北上してハーディ達と合流する。

アグニスは遠くに見えるエルニアの王城の地下施設を破壊する事を決めている。


 王都ではジェイドが支援物資を飛竜騎士団に輸送してもらう為に準備している。ヒュースが確認の為にジェイドに尋ねる。

「食料を多めにして薬品と回復薬も送るのだな。」

ジェイドが答える。

「はい。アレク軍は負傷者が少ないと思い。食料を大量に詰めました。この貨物箱で五十人分は入れてあります。それを各四箱で計八箱、一度に送り次の指示を待ちます。エルニアと陸アルノ分なのでアレク王の部隊には用意していません。ですが備蓄分を直ぐに回せるように分けてありますので連絡があれば用意できます。」

ヒュースが感心する。

「ジェイドは流石だ。物資の調達は何処から仕入れているのだ?」

ジェイドが答える。

「父のバリース社から買い入れています。後程、請求書をお渡しします。それと王都の貴族が貯め込んでいた食料も解放して頂きたいです。市場に流すでも、軍の備蓄に回すでもいいので至急お願いします。」

ヒュースが慌てて答える。

「すまなかった。大至急、回収する。アレク王も言われた私財も全て回収する。バリース家の保管庫に一時的に預けられれば助かるが、どうだろう。格納する場所すらない現状だ。空き家では入りきらないだろう。騎士団の倉庫でも足りない。」

ジェイドが答える。

「はい。父に頼んでありますのでヒュース様が連絡してください。多分、所有している倉庫は空にして待っていると思います。ジェイソンが既に動いてると思います。」

ヒュースが礼を言う。

「助かる。財務は専門家に頼るしかない。至急連絡する。食料はこちらに回す。」

ヒュースが慌てて連絡に向かわせる。ジェイドは黙々と次の便の準備をしている。

 カイル達は魔道院で授業を受けている。エレンの横にはケインが座りその隣にニヴンが座る。二人共真剣に授業を聴いている。カイルは以前の魔道に関係の無い貴族の生徒がいなくなり魔道に真剣な生徒達が増えた事を喜ぶ。寄宿舎には下町から通っていた生徒が入り、皆毎朝笑顔で通学してくる。レイラの想いが現実になっている。エレンもレイラの屋敷に正式に入居し魔道院に通っている。レイラは研究室に籠る日が多いが定期的にエレンが迎えに来るので真面目に帰宅する。

エレンが昼食中に三人に話す。

「ねぇ。魔道院の食堂、変わったの分かる?」

カイルは分かる。ニヴンもケインも前を知らないので分からない。

「今はちゃんとした料理人が調理しているんだよね。」

カイルが答える。エレンが話す。

「違うわよ。今までと同じ料理人なの。」

カイルが驚く。

「あのベチャベチャのグチャグチャの料理を出してた人達なの?」

エレンが笑う。ニヴンとケインは分からない。

「そうなのよ。あの人達、嫌々作ってたのよ。さっき聞いたら自分達も食べたくないって言ってたわ。貴族の味覚音痴が指示してたんだって。」

カイルが呆れていた。ニヴンとケインは笑う。

「貴族社会の弊害だったんだ。皆、よく食べてたよな。俺は一回で限界だった。」

「俺達も危なかったのか。」

「僕は食べないよ。絶対。」

四人が楽しく話している所に話しかける女性が現れる。

「こんにちは。御一緒してもいいですか?」

エレンが気付き答える。

「はい。こちらにどうぞ。座って下さいな。」

御辞儀して座る女性が話す。

「私はエステルと申します。魔道院の二年生に編入しました。よろしくお願いします。」

エレンが話す。

「私はエレン。飛び級で三年生です。よろしくね。」

カイルが話す。

「エステルさんですよね。魔道院に通われるんですか?」

エステルが答える。

「カイルさんですね。王様からよく聞いてます。よろしくお願いします。」

エレンが聞く。

「王様の知り合いなの?カイルも知ってる方なの?」

興味津々のエレンが始まった。カイルが答える。

「俺は何度か見かけたくらいで、しっかり話したことはないです。」

エステルが話す。

「はい。私は王様の侍女でしたので天幕に籠っていました。」

ニヴンとケインも気になっている。エレンが聞く。

「エステルさんは魔道の適正はどうなの?」

エステルが素直に話す。

「はい。私は水属性だけです。」

エレンが聞く。

「それは特化型なの?」

エステルが答える。

「特化型とは違うと思いますが水魔道だけ使えます。王様に教えてもらいました。」

エレンが嬉しそうに聞く。

「王様のお弟子さんね。ねぇ。午後の授業はどうするの研究室に行くなら一緒にしよ。」

エステルが答える。

「はい。御一緒したいです。お願いします。」

エレンが楽しそうに話し始める。カイルがエステルを見てアレク王を思い出す。

「俺達、幸せだよな。王様達に恩返ししないといけないな。」

ニヴンもケインも頷く。エステルが話す。

「王様は言ってました。自分達がしたい事をするのが大切なんだって、私も頑張って恩返しするんです。上級魔道士になります。」

エレンが驚く。カイル達は負けられないと思った。

「ねぇ。エステルさん。卒業したら魔道士組合に加入するの?」

エステルが答える。

「いえ。いずれは加入しますが、卒業後は王様の軍に従軍します。」

皆が驚く。エレンが尋ねる。

「アレク軍に入るの?軍属になるの?」

エステルが笑顔で応える。

「はい。そうします。でも戦闘には参加できないと思います。王様の御世話をします。」

エレンが驚く。

「そんな従軍もあるのね。大変そうだけど王様と一緒にいられるね。いいなぁ。」

エステルが話す。

「私の命の恩人なの、たくさん恩返ししないといけないの。」

カイルが話す。

「俺達も卒業後はラース騎士団に戻るから同じ戦場にいるかもしれないね。」

ニヴンとケインが頷く。

「僕達も戻って父さんの力になるんだ。」

「俺も諜報部に入ろうと思う。」

エレンが寂しそうにする。カイルが言う。

「エレン。まだ先の事だよ。皆の目標なんだ。エレンは魔道研究の道があるだろ。」

エレンが笑顔になる。

「そうよね。私は魔道の研究がしたいの頑張るんだから。」

エステルが言う。

「エレンさんが羨ましいです。私には出来る事が少ないので出来る事を目指します。」

皆が自分の目標を胸に抱く。エステルの意志の強さに皆が染まる。

エレンとエステルが仲良く研究室に向かう。アレクが望んでいた光景がそこにあった。

カイル達が二人に続いて行く。


 ランドの飛竜騎士団はダロス西域の空を支配する。飛竜騎士団はトリニドの進化によって群れの翼竜が飛竜に進化する。トリニドの加護が群れに与えた進化だ。飛竜に進化したことにより攻撃と飛行能力が向上する。最強の空軍になる。飛行速度は翼竜の倍以上になり、離着陸は無音。飛竜達の通常高度に達するのも一瞬。そして後ろ足の力が増して物を運ぶ力が増大した。ジェイドの輸送支援は飛竜騎士団の協力でダロス西域の戦場を縦横無尽に輸送できる。ランドがアレクから依頼を受ける。

「ランド。アグニスの部隊に急行して避難民をエピンに送ってくれ。ジェイドに協力して、行きの便に支援物資を運ばせてくれ。」

ランドが応える。

「はっ。アグニス殿の所に急行します。アレク王。避難民は大勢ですね。」

アレクが応える。

「ああ。まだ増えるようだった。現地で確認してくれ。」

ランドが応える。

「ではジェイドに依頼して避難民輸送用の馬車を造っても良いでしょうか?」

アレクが褒める。

「流石は飛竜騎士団団長ランド。それで頼む。他の飛竜が運べる大きさで造らせよう。」

ランドが返事をする。

「はい。ジェイドに依頼しておきます。私は先に出て確認しておきます。」

 ランドは先発して現地の確認をする。帰還してジェイドと話し合い。輸送専用の輸送車を造り飛竜騎士団をアグニスの元に急行させる。この輸送車のお陰で大勢の避難民と、これから増える傭兵機関に売られて行った子供や育成中の傭兵達を救出し避難させる事が円滑に進む。ランド達とジェイド達の連携がアグニス達、前線の支援と援護になる。飛竜騎士団が西域の空を支配している為、各地の様子が王都のヒュースに直ぐに伝わる。アレクは大事は自分に連絡させるが他の事はヒュースやランドに任せ連携を密にさせる。

 ルーマの元中央騎士団は再編される。管轄が王都とサーレのみになり身軽になる。軍務に集中する為、王都内に警邏隊が創設される。サーレも同じである。ヒュースの仲間で信頼のおける貴族が長に就き管理する。サーレにもヒュースの仲間を送り警邏隊を置く。ジェイソンの案が採用され。都市内の治安は守られる。外敵には騎士団が動き、内部の問題には警邏隊が動く。何方も今のルーマには欠かせない組織になる。

ヒュースがランドとジェイドと打ち合わせをする。

「ランド殿の情報のお陰でアレク王の依頼が直ぐに対応できます。」

ランドが応える。

「はい。アレク王に西域を任されましたので飛竜騎士団全員で動いています。」

ジェイドが話す。

「ランド様のお陰で輸送が円滑です。前線の要望が直ぐに伝わるのは本当に素晴らしいです。支援と援護が出来る飛竜騎士団はアレク王の言われた最高戦力です。」

ヒュースが話す。

「隣国や不穏な輩にも上空から監視してもらえる事が今のルーマには重要だ。」

ランドが応える。

「今はアレク王が不在です。ヒュース殿やジェイド殿が臨機応変に対応する為にも我々が空から監視して報告する事が王への最大の貢献になります。」

皆が頷き、今後の話をする。ヒュースが話す。

「アレク王がドレルを平定し転進してエルニアに向かう予定ですが、バーン殿達を切り離して単独で向かうかもしれません。ランド殿は護衛の飛竜騎士を送ってください。」

ランドが応える。

「分かりました。ドレル方面の監視部隊を護衛に回します。」

ヒュースが話す。

「それと翼竜の増員の件ですが火竜の住処の付近に野生の群れがいるそうです。冒険者組合からの報告ですので真偽は確認できていません。ランド殿に一任します。」

ランドが応える。

「それは有り難い情報です。私が確認して捕獲してきます。まだまだ足りないので必要です。ジェイドの輸送部隊に専属させたいですね。」

ジェイドが喜ぶ。

「ランド様。ぜひお願いします。飛竜は優秀ですが輸送に汎用してしまうと勿体無いです。新規の翼竜と連携し訓練し輸送部隊を確立したいです。」

ランドがジェイドの肩に手を置く。

「ジェイドはアレク王のお気に入りだな。優秀だ。ジェイドの専用翼竜を探して来る。」

ジェイドが喜び感謝する。

「ランド団長殿。ありがとうございます。」

ランドが笑顔で応え、二人と別れトリニドと翼竜捕獲に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る