花火は本来、明るくて、にぎやかで、人の記憶に楽しいものとして残るはずなのに、この作品ではその光が、届かなかった約束や、言えなかった後悔を照らし出していくように感じました。
橋の上から見る花火と、橋の下から見る花火。
ただの場所の違いのようでいて、読み進めるほどに、その選択が登場人物たちの関係や、その後の時間にまで影を落としているように思えてきます。
彼女は強く主張する人ではなかったのに、いなくなったあとで、その存在の大きさがはっきりと浮かび上がる。その描き方がとても静かで、だからこそ苦しかったです。
十年という時間が経っても、忘れられなかったこと。
忘れたふりをしていただけのこと。
酒で流し込もうとしても、結局は橋の下へ戻ってきてしまうこと。
派手な恐怖ではありません。
けれど、誰かを失った記憶と、向き合えなかった罪悪感が、夜明け前の橋の下でじわじわと形を持っていくような怖さがありました。
終盤に訪れる静かな場面も、ただ怖いというより、ずっとそこに残されていた時間そのもののように感じます。
短い物語なのに、読後に橋の下の暗さと、遠くで上がるはずの花火の光が、しばらく胸の中に残りました。