「告白するからフラれるんだよ」モテないはずの男が語る恋愛論。
@D29
第1話 告白するからフラれるんだよ。
「ごめん。恋愛対象として見たことない」
その一言で、磯部亮太は死んだ。
駅前の小さな公園。
ベンチの横、自販機の白い光だけがやけに眩しい。
さっきまで一緒にご飯を食べていた三浦沙織が、困ったように笑っていた。
日曜の夜。
二人きり。
ここまで来たら、いけると思った。
思ってしまった。
亮太は喉の奥がひりつくのを感じながら、無理やり笑った。
「……あー、そっか」
違う。
そんな軽い言葉じゃない。
でも、もう何を言っても惨めだ。
三浦は申し訳なさそうに、少しだけ視線を逸らした。
「磯部くんって、一緒にいて楽しいし、すごく優しいんだけど」
来た。
この入り方で助かった人類はいない。
「ほんとに、友達って感じで」
追撃。
やめてくれ。
まだ死体を蹴るのか。
亮太は心の中で静かに拍手した。
完全試合達成。
終わった。
綺麗に終わった。
最初は四人で飲みに行った。
その次は、みんなでボウリング。
何回かグループで遊んで、
LINEも普通に続いて、
向こうからもたまに連絡が来て、
たまに二人で帰ることもあった。
これは、脈があるんじゃないか。
そう思った。
いや、思いたかった。
だから今日、
思い切って二人でご飯に誘って、
帰り道、この公園で言った。
好きです。付き合ってください。
そして今、死んでいる。
「ごめんね」
三浦が小さく言う。
謝るな。
余計に刺さる。
「いや、大丈夫。全然。慣れてるし」
慣れてるって何だ。
自分で言って、自分で泣きたくなる。
三浦はさらに申し訳なさそうな顔をした。
やめてくれ。
その顔が一番きつい。
「じゃあ……またね」
「うん、また」
何が“また”だ。
たぶんしばらく目を合わせられない。
三浦は小さく手を振って、駅の方へ歩いていった。
その背中が見えなくなるまで見送って、
亮太はその場でしゃがみ込んだ。
「無理だろこれ……」
「うん、かなり綺麗に死んだな」
横から聞こえた声に、亮太は顔を上げた。
いた。
いてほしくない時に限って、必ずいる男。
福宮行重。
小さくて、太っていて、顔も別に良くない。
なのに、なぜか常に彼女がいる。
恋愛界のバグ。
「なんでいるんだよ……」
「近くで飯食ってた。そしたらお前が告白してるの見えた」
「最悪だ」
「うん、かなり面白かった」
「人の失恋で笑うな」
福宮はまったく遠慮なく隣のベンチに座った。
コンビニ袋からプリンを取り出す。
なんなんだこいつは。
「で、ちゃんとフラれたのか」
「確認するな」
「大事だろ。現実を直視しろ」
亮太は立ち上がる気力もなく、植え込みを見つめた。
「いや、でも今回はいけると思ったんだよ」
「うん」
「絶対、脈あった」
「うん」
「なんでそんな冷たいんだよ」
福宮はスプーンをくわえたまま言った。
「だって、お前、告白したじゃん」
「したよ」
「それが敗因」
亮太は顔をしかめた。
「いや、好きなら告白するだろ普通」
「それがモテない男の発想」
「喧嘩売ってる?」
「事実」
福宮はプリンを一口食べて続けた。
「相手ってな、七割くらい好きでも、告白されると断る理由を探し始めるんだよ」
「……は?」
「“付き合ってください”って言われた瞬間、急に現実になる」
仕事忙しい。
まだよく知らない。
なんか違う気がする。
今じゃない。
そういう“断る理由”を、人は探し始める。
「でも、告白しなかったら進まないだろ」
亮太は反射的に言った。
「付き合うなら、ちゃんと言わないと」
「必要ない」
福宮は即答した。
「いや必要だろ」
「俺も昔、そう思ってた」
珍しく、福宮の声が少しだけ静かになった。
亮太は思わず顔を上げる。
「学生の頃、本気で好きだった子がいた」
福宮はプリンの空を見つめながら続けた。
「ちゃんと告白した。そしたら普通にフラれた」
「お前でも?」
「失礼だな。俺だってちゃんと負ける」
少しだけ笑って、また続ける。
「でも、そのあとも友達として普通に会ってた」
二人で映画行って、
飯食って、
遊園地も行った。
手も繋いだ。
キスもした。
周りから見たら、完全に付き合ってるみたいな感じだった。
それが一年くらい続いた。
「で、ある日思ったんだよ」
福宮は肩をすくめた。
「いや、これってちゃんと言わないとダメだろって」
「うん」
「だから、もう一回告白した」
亮太は少し身を乗り出した。
「それで?」
福宮は苦笑した。
「笑われた」
「え?」
「“今さら?”って」
夜の風が少し冷たかった。
福宮はその時のことを思い出すみたいに、少しだけ空を見た。
「一年も二人で遊びに行って、手も繋いで、キスまでして」
“今さら何言ってるの?”
“とっくに付き合ってるつもりだったけど?”
って。
亮太は口を開いたまま固まった。
「……え?」
「俺も同じ顔した」
福宮は笑った。
「その時わかったんだよ」
告白って、
付き合うためにするもんじゃない。
もう始まってる関係を、
言葉で確認するだけなんだって。
「むしろ、告白したせいで壊れることの方が多い」
好きです。
付き合ってください。
その言葉を言った瞬間、
相手はジャッジする側になる。
でも、
何度も会って、
一緒にいて楽しくて、
帰りたくなくて、
気づいたら隣にいる。
それなら、もう恋愛は始まってる。
「だから」
福宮はスプーンを置いた。
「告白してから二人で遊びに行くのと」
「告白せずに二人で遊びに行って仲良くなるの」
「何が違う?」
亮太は言葉に詰まった。
「……前者は」
「審査だ」
福宮が言った。
「後者は恋愛」
亮太は何も言えなかった。
好きになる。
不安になる。
答えが欲しくなる。
告白する。
終わる。
自分の恋愛は、いつもそれだった。
短い。
あまりにも。
「……じゃあ俺、何してたんだ」
福宮は即答した。
「フライング自爆」
「言い方」
「しかも全力」
「優しさって知ってる?」
福宮は立ち上がった。
「次からは、告白するな」
亮太は深くため息を吐いた。
たぶん、こいつは正しい。
それが、一番腹が立つ。
でも。
少しだけ、救われた気もした。
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