いちばん印象に残ったのは、最後のシーンですね。
「春香がここを離れる日は――」と願うシーンです。
それまでのやり取りだけでも十分やさしいのに、あそこで颯太の気持ちが一気に見えてきて、じわりと沁みてきました。
前半は縁側でレモンシロップを飲みながら話す、静かな別れの場面としてページを追っていけるのですが、後半で颯太がこの土地に縛られている事情が明かされてから、会話の見え方ががらりと変わりました。
春香の「ずっとここに残るの」という問いや、二十歳になったらレモンサワーを飲もうという約束も、ただの幼なじみの会話ではなくて、離れてもつながっていたい気持ちの確認だったのだ、と印象や見え方がきれいに変わってきます。
レモンシロップが、家の記憶を今の形で受け継いでいるものとして描かれているのも良かったです。
別れの話なのに、読み終えると不思議と喪失よりもやさしい余韻が残る作品でした。