第41話 追憶(37)明晰夢



 ついに、残すところ1日となった。 


 現在、29日目。午後11時を少し過ぎたころ。ベットに腰かけて、ステータスを確認しているところだ。



 名前:ルイ

 種別:人族(異世人)

 年齢:11歳

 性別:男

 職業:■■■■


 レベル:530,000

 攻撃力:530,000

 魔力 :530,000

 防御力:530,000

 精神力:530,000

 運  :530,000



 ステータスは、随分と上がった。ついに、あの有名な漫画に登場する敵役の「私の戦闘力は53万です」に並んだ!


 ……まあ、これはどうでもいいか。


 師匠が告げた三つの満月が揃う夜まで残り1日。


 だが、相変わらず師匠を救えるひらがなスキルは、俺の中に生えてこない。

 というか、前回、確認してから8日が過ぎたが、その間、新しいひらがなスキルは一切生えていなかった。

 現在レベルは53万に到達したから、最後にひらがなスキルが生えてから、もう28万ものレベルアップがあったにも関わらず、だ。


(まさか、ひらがなスキルには生える上限があったのか?)


 ここしばらくの魔草抜きチャレンジは、毎朝5時にスタート、終わるのは夜の11時ころだ。

 一日18時間魔草抜きチャレンジを行っているせいか、毎夜、泥のように眠っている。

 食事と風呂を抜けば、一日の睡眠時間は5時間程度。

「銀色の若芽」や「金色の魔草」には常に注意を払っているので、どうしてもこれ以上のペースが上がらないし、正直、疲れがたまり始めているのを感じている。


 まさかその疲労感のせいで、上限があったのでは、という結論に辿り着くことができなかった?と考えた俺は、背筋がゾッとした。


 慌てて【かんぱ】を呼びだす。


「か、【かんぱ】、ひらがなスキルが生える上限の数はあるのか?」


 ブン


 小さな機械音と共に脳裏に答えが響いた。


『否、スキルが生える上限数は、ひらがなスキルに限らずありません』


「あ、ありがとう」


『どういたしまして』


 あっさりとした答えに、俺はホッとした。


 最近の【かんぱ】は、どこか人格が宿ったように感じるなぁ。


(まあ、いい。それよりも……)


 ひらがなスキルが生える上限が存在しないなら、ここ最近生えてきていない理由として考えられるのは、偏りか、あるいは生える確率が極端に低くなっているか、のいずれかということだ。


 俺は、残り一日をどう過ごすかを考える。


 師匠が目覚めるのは、夜の8時ころ。現在夜の11時だから、残り時間は21時間か……


 一瞬、このまま徹夜で魔草抜きチャレンジを行うことが頭に浮かぶ。


 だが……


(落ち着け!)


 あの時、魔草原で倒れた轍を踏んではいけない。


 最後のチャレンジを、しっかりと終えるためにもっとも必要なことは、体調を整えるための睡眠だ。


 大きく息を吐いて、何とか落ち着くことができた俺は、温かい飲み物を用意するため立ち上がった。


(今夜は、早めに寝よう……)



 ■□■□



 俺は青い星を見下ろしながら、宇宙空間を飛翔していた。


(夢だ……)


 俺は今、夢の中にいることを分かっていた。明晰夢だ。


 宇宙空間の暗闇に、青い大気圏の層が浮かび上がるように広がっている。とても美しい。


(地球か……)


 その青い星に俺は見覚えがあった。地球だ。


 ぐるりと星を一周しながら、目の下に広がる光景を見る。


 日本、中国、ロシア、北極、グリーンランド、カナダ、アメリカ、ブラジル、南極、太平洋……


 地球を経度に沿って南北に移動しているようだ。


(それにしても……)


 こうやって宇宙空間から見下ろすと、空気の層がどれだけ薄いのかが分かる。


 人の生存圏は、人々が思う以上に狭いということだ。人が地球と言う惑星上で認識できているのは、地上のほとんどと、海中の一部、そして地中のごく一部。


(そういえば、地底世界を探検する映画があったっけ……)


 鑑賞した記憶はないが、その映画の知識は確かに俺の中にあった。


(今いる星も、空から見下ろすと、同じように見えるのかな?)


 ヒトの体と比較した場合の、星の大きさは極端に大きいことは師匠から教えてもらったが、ぐるりと星を一周した場合には、地球を回るのと同じような感覚を覚えることができるのかもしれない。


(違うのは、体感できる距離か……)


 そう考えたとき、下に見えている光景がガラリと変わる。見覚えのない大陸の形に戸惑いを覚えると、スピードがどんどん上がり始めた。


(もしかすると、これが今いる惑星?)


 たぶん、そうなのだろう。地球を一周するのと同じ時間で、今いる巨大な惑星を一周しようとすれば、何十倍ものスピードが必要だ。


 今、俺が飛べているのは【ひこう】のスキルだ。そして、宇宙空間を飛翔できているのは【かいてき】のスキルも使って空気を纏っているからだろう。


いや、違うか。夢の中だから、空気は関係ないだろうな……


 そして……スピードが上がっているのは――――【かそく】のスキルだ。


(すごいスピードだ……)


 星との境目に宇宙空間の闇が広がるこの地点は、地球で言えばカーマン・ライン(大気圏と宇宙空間の境界線)だろう。この星の場合、カーマン・ラインを何と呼べばいいかは分からないが、漆黒の闇に浮かぶ青い空間を飛翔する感覚は特別な何かを俺に感じさせていた。


(俺は飛んでいるぞ! 俺は飛んでいるぞ! 俺は飛んでいるぞ!)


 星を一周するのに要する時間は、おそらく数分。師匠は、この星の一周が人体比で見ると6,000万キロ、と言っていた。


 仮に一周が5分だとすると、6,000万キロだから…………なんと! 俺は時速500万キロで飛んでいることになる!


 光速が10億7,925万キロだったはず。ということは、俺は光速の200分の1のスピードで飛んでいる、ということだ!!!


(すごい! すごい! すごい!!!!)


 まだまだ加速するぞ!!!


 次々と、真下に見える見知らぬ大陸や海、島々が猛スピードで後ろへと流れていく「動」と、動くものが何も見たらない闇に包まれた宇宙空間の「静」が入り混じる光景は、神秘的な光景だった。


 俺の中で、明晰夢と現実が錯綜し始める。


 なぜ飛べているのか、なぜスキルを使えているのか、なぜここにいるのか、時折、ちらりと脳裏に浮かぶ疑問も、目の前に広がる雄大な光景の中に埋もれ込むように消えていく。


(※※※※※※!、俺は飛んでいるぞ!!!!――――待て!)


 高揚感に包まれていた俺は、自分が誰かの名前を呼んだことに気がついた。


(※※※※※※とは、誰だ?)


 分かっている。俺の大切な人だ。俺の手から零れ落ちそうになっているその人の名を思い出そうとした俺は――――


 なぜか、飛べなくなっていた。


 猛烈なスピードで溶けるように過ぎ去る光景の中に、俺は【かそく】のスキルを使ったまま突入しようとしていた。


「わああああああああああああ」


 叫び声を上げた俺は――――



 ■□■□



「わあああ!!!!!」


 滝のような汗が首筋を伝う中、俺は叫びながらベットで起き上がっていた。


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