これは、軽く読み流せる作品ではない。
web小説だからこそ、読むことができる記録。
11話まで読んだ今、私はこの作品をきっと、ずっと忘れられないと思う。それほどの圧倒的なリアルを、蒼龍さんの読ませる文章能力と人となりのおかげで、強烈な体験として心に残ります。
この作品には、二つの軸があります。
一つは、正しい看護とは何か。病気に苦しむ人たちとどう向き合うのが正解なのか。看護師はどの立場で、どこまで踏み込むべきなのか。著者は何を思い、どのような判断をしたのか。
もう一つは、人の儚さ。それまでの人となりが病気によって崩れていく時、その人たちは何を思うのか。寄り添う家族は、変わっていく人に何を思うのか。著者は看護師という立場で、その両方に挟まれながら葛藤し続けます。
特に四話は、読んでいて苦しいほど胸に刺さりました。病気の理不尽さに、著者の口から神への不満がこぼれる。その一言に、看護というものの持つ重さと、一つの答えが静かに導かれていくのを感じました。
著者は、良い看護の場面と同じ熱量で、患者に心底嫌われた話、左遷同然の異動、心が壊れていった日々を書きます。医療という現場のリアルを惜しげもなく、描かれます。その誠実さが、この作品の芯だと思います。
この話では、正解は出でこない。その誠実な「未完」が、この作品をノンフィクションとしてより深く、よりリアルにしています。
つらい思いをしてまで、今日も医療の現場を支えてくれているすべての人々に、心からの感謝を。
本作は、看護の現場で積み重ねられてきた一つひとつの経験を通して、
「人と向き合うとはどういうことか」を問い続ける作品だと感じました。
綺麗事では済まされない現場の矛盾や理不尽、患者・家族・医療者それぞれの立場で揺れ動く感情が、非常に生々しく、そしてまるで語りかけてくるかのような文体で描かれています。
また本作の魅力は、単なる美談に終わらせない点にあると思います。
「良い看護とは何か」という問いに対して明確な答えを示さず、迷い続ける姿そのものを描いているからこそ、自分ごととして持ち帰りながら、読み手も深く考えさせられます。
それぞれのケースは独立していながら、共通して“人間の弱さ”と“それでも向き合おうとする意思”が描かれており、まさにヒューマンドラマとしての完成度が高い作品でした。
この物語を読み終えた今、胸に去来するのは、静かですが激しく燃える「命の灯」の余韻です。
著者の蒼龍葵さんは、看護師という聖職の仮面を被ることを拒否しています。
タバコを止めない患者に本音でぶつかり、自分を嫌う患者に葛藤し、後輩の不謹慎さに激昂する。そこに描かれているのは「白衣の天使」という偶像ではなく、泥臭く、不器用で、誰よりも誠実に命と取っ組み合いをする一人の人間の姿です。
「良い看護とは何か」
その答えのない問いを、600人以上の看取りを経てもなお抱き続ける著者の筆致は、鋭くもどこまでも温かい。
家族の疲弊や、医療従事者の慢心、そして消えない後悔。それらすべてを「美化」せず、ありのままに書き切ったからこそ、読者の心には「生きる意味」が痛烈に響きます。
これは、すべての「戦う看護師」へのエールであり、かつて誰かを愛し、見送ったことのあるすべての人の魂を救う、慈愛に満ちたノンフィクションです。
たくさん患者さんを担当していると、詰め所と病室で一日過ごす羽目になる。
私はねちっこく仕事をするタイプだったので、看護師さんの動きをよく見ていた。
彼女たちは、まさに天使だった。
「そんなことないです。私たち人間です。時には腹も立ちますよ」と言うけれど、嫌がる患者に熱心に入浴を勧め、ごはんを食べない患者を見つけると食形態を調整し、隙を見ては、気分転換に車いすに乗せてそばに付き添う。
本当に頭が下がる。
怒鳴られる日があっても「○○さん痛みがつよいのかなあ」、一度でいいから家に帰りたいと泣く人がいたら「何か少しでも楽しみを考えたい。自宅に数時間でもいいから連れていきたい。先生ついてきてくれる?ボンベもアンビューも全部、持つから」。
もともと忙しいのに、もっと忙しくなるのをわかっていて、果敢に立ち向かってくれた。あの人達が、いてくれたおかげで私の考えも変わった。いやな医療人にならずに済んだ。
久しぶりに静謐な空気に触れた。
あの時の詰め所のざわめきと、病室に行っても気の利いたことを何一つ言ってあげられなかった自分を思い出した。
患者が辛そうになると、胸が痛くて、苦い思いで足が向けられない。
必死の問いかけに、ぼやけた答えしか口にできない。病を退けてあげることが出来ない。奇跡なんておきない。一進一退の綱引きが着実に悪い方へと引き寄せられていく。
でも、天使たちはそれでも体の向きを変えてやり、身体を起こして薬を飲ませ、身体に新しい傷や褥瘡ができていないかチェックする。
嫌味を言われながらでも点滴をする。狭いベッドの隙間にしゃがんで、患者と目を合わせて、傾聴する。
治療の辛さ、点滴の針が刺さった腕の痛み、家族に会えない寂しさ、金銭の心配、死への恐怖。娘時代の楽しかったこと、夫の愚痴、妻のありがたみ。
治る人もいるが、病棟によっては本当に多くの死を経験する。
体を清め、死化粧を施し、見送る。頭を下げる。車がみえなくなるまで。
そして明日が来る。空いたベッドに患者が入る。
彼女たちは微笑んで迎える。
「そんなことないです。私たち本当はもっと何かしてあげられたんじゃないか」って言うけど。
やっぱり、あなたたちは天使だ。