第21話 目覚めの姫

―とある豪華な一室―


意識は回復しつつあった。

かすかな意識の中、ターニャは気配を探る。


(これは、部屋?)


背中の感触からベッドに寝ているということがわかった。


「目が、覚めましたか」


低い、男の声だった。


(意識が戻ったことがばれている。こいつ…)


ターニャは起き上がり、声のした方向を見る。


そこには、フードを被った男。

怪しさ満点だ。


「あなたは?」


腰に手を当てる。

短剣はある。

剣は―


「寝台の横に立てかけております」


あった。

武器を残しておいている、ということは聖教会の者ではない?


ふと、手が触れている布の感触が気になった。

自分が先ほどまで寝ていた寝台のシーツ。

質感や色合いからしてかなり高価なものだ。


あたりを見渡す。

広く、豪華な客室。

それこそ貴族令嬢にあてがわれるような気品のある作り。

それでいてフードの男は漆黒のローブ。


自分と同様に、場違いだ。


「警戒するのも無理はないかと思います」


声にノイズが混じる。


「あなたは追われる身」


(こちらの状況を把握している、か)


警戒度が上がる。


「それでも私があなたに何かするつもりはありません。英雄よ」


ピリリと空気が強張る。

今更、自分のことを"英雄"と呼ぶなんて、なんて皮肉。


「自己紹介が遅れましたね。私は"操控のゼッシーサス"と呼ばれております」


男がゆらり、と立ち上がる。


「魔王軍四天王の最後の1人"操控のゼッシーサス"です」


ターニャは素早く魔法陣を展開させ、雷魔法を撃とうとする、が――

枢機卿ゼファエルのことを考えると迂闊なことを出来ない。


ターニャはためらう。

目の前には魔王軍四天王の最後の1人を名乗る男。

その名前から戦闘タイプではないのだろう。

圧力や脅威は感じなかった。


だが――

不気味さはある。


おそらくこちらの情報を把握したうえで、迂闊に攻撃できないことを知っている。

四天王3人を倒した脅威相手に、あまりにも無防備なその姿勢。


武器すら、何も持っていないように思えた。

操控のゼッシーサスは微動だにしないまま口を開いた。


「巨魁のゼイフェルド、不可視のゼルフェカッツェ、策謀のゼファエル…あなたが倒したものたちそれぞれ」


落ち着いた声は、舞台役者を演じているようだった。


「闇を抱えておりました」


「……」


「巨魁のゼイフェルドは鬼族として里を追われたコンプレックスを、不可視のゼルフェカッツェはその特性から誰にも気づいてもらえないという存在の意義を、策謀のゼファエルは」


彼が役者であるなら、ここで間を置くことに意味があるのだろう。


「人間と魔物のハーフでした」


空気が重く感じた。

魔物たちにもそれぞれの物語がある、ということか。


「四天王最後の1人が、仲間の敵討ちってわけ?」


「いえ……四天王といえど群れて行動するわけではありません。私が友と呼べるのは、そうですね……ゼファエルくらいでしょうか」


「そのゼファエルのせいでいまこうなってるんだけどね」


「彼自身が望んだこととはいえ、私も思うところがないわけではございません」


男の語りは常に一定だった。だが、"友"と呼んだゼファエルに関してはわずかに揺らぎが見えた。


「ゼッシーサスさま」


扉の外から声が聞こえた。

若い女の声だった。

ゼッシーサスの意識が外へ向く。


「準備ができました」


「よろしい」


再びターニャへ視線を戻す。


「ではターニャ様」


「なに?」


警戒は解かない。


「まずは湯あみを」


「は?」

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