【出会い編】夕日のきみと異分子

転入初日ははっきり言って最悪だった。


幼稚園から大学までの一貫校。

巨大な敷地と迷路のような校舎に15歳で放り込まれた朝雫はクラスメイトに異分子のように見られた。

「早川なんて名字、聞いたことないね……お父さんはなんの会社の社長なの?」

「あ、それとも医者かな?そういえば最近新しい病院が外れに出来たね。将来は継ぐ予定なの?」


朝雫の父親は至って普通のサラリーマンだったし、母親は花屋でパートをしている。それを告げるとクラスメイト達は一斉に黙った。その後すぐヒソヒソ朝雫に聞こえない声で話し始めた。


急に教室が広く感じる。

転入初日なのに早くも上手く馴染めそうにない。下を向いて、愛想笑いを作って、顔をあげようとした瞬間、ガタン、と大きな音がしてクラスメイトの視線はそちらに集中した。



一歩遅れて朝雫が音がした方を見ると、窓際の一番後ろの席で、明るく髪を染めた生徒が立ち上がっている所だった。椅子が倒れているから、さっきのはその音だったんだろう。クラスメイトたちはしんと静まり返って、それから目線を泳がせた。


「あ…し、東雲くん、うるさかった?ごめんね…」

「東雲くんも良かったらこっちで…」

クラスメイトたちの遠慮がちな声掛けもまるで聞こえてないかのように東雲、と呼ばれた生徒は倒れた椅子を起こして顔を上げた。


一瞬、朝雫と目が合って、瞬く間に逸らされた。

その時間はすぐだったのに、なぜか――見透かされたような気がした。

髪とおなじ明るい茶色の瞳。


彼は自然とクラスメイト達が避けて道のようになった教室を横切り、朝雫の前も通り過ぎて教室の外に出る。朝雫の前を通り過ぎるとき、僅かに甘い香りが鼻を突いた。

「こっわ…怒ったかな?"ユウハサマ"」

「誰だよ、うるさくしたの?目をつけられたらどうすんの」

東雲夕羽

それが彼の名前らしい。

朝雫は思わず教室を出て、まだざわついているクラスメイトたちを背中に夕羽を追いかけた。追いかけた理由はない。あの瞳が忘れられなかった。

それになんとなく、クラスメイトに嘲笑された朝雫を守ってくれたように感じたからだ。勘違いかもしれないけれど。


夕羽の背中は廊下を抜けて階段を上がって行った。陽がよく入る踊り場では、夕羽の髪がキラキラと光った。

そのまま夕羽は当然のように屋上へ続く扉を開けて眩しい陽の光の中へ消えていった。


「早川、そこで何してる?屋上は立ち入り禁止だぞ」

扉の前でどうしようか迷っている朝雫は、担任の教師の声に振り返った。訝しげな顔でこちらを見ている。

「あ…はい、すみません」

「早く教室に戻りなさい、授業が始まるぞ」

「……」


朝雫は名残惜しそうに扉をもう一度見ると、そのまま階段を降りて教室に戻った。


授業が始まっても、放課後になっても、夕羽は教室に戻ってこなかった。

ぽつんと一つだけ空いた席を、朝雫は何度もチラチラ見ていた。たった一度しか合っていないはずの、あの茶色の瞳が、頭から離れない。夕日がその空っぽの席を照らし、夕羽の茶色の瞳を思わせた。

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