集められた断片的な架空の資料から、一つの物語を浮かび上がらせるモキュメンタリーホラー。本作もそうした作品の一つなのだが、最大の特徴は、資料のほとんどをPCゲームの配信プラットフォーム「Steam」上のストアページやレビュー、コミュニティの投稿という体裁で構成している点にある。
物語の中心となるのは、『STILL HERE』というウォーキングシミュレーター。架空の町を歩きまわり住人たちと交流を重ねていくゲームで、レビューページには辛辣な低評価が並んでいるのだが、その中に異様な高評価レビューも紛れ込んでいて……。
この一部の人間だけが高評価をつける現象を疑問に思ったゲーマーたちは、独自に調査した結果をSteam内の掲示板で報告するのだが、興味深いのはこの調査にSteamの機能をフル活用している点だ。Steamでは公開情報をきちんと設定してないと、他のプレイヤーの累計プレイ時間や最後のログイン日時、購入したゲームの履歴などが簡単に見られてしまうのだ。
これらの手がかりを元に高評価レビューをつけた人たちの共通点を見つけていく推理パートが面白く、また他人のレビューを追うだけでなく『STILL HERE』をプレイすることで、ゲーム自体に隠された秘密が徐々に明らかになる展開にも引き込まれる。
あくまでレビューや調査報告などを通じた間接的な紹介がメインであり、直接的にゲームをプレイする様子は描かれないが、それでもゲームの実在感や不気味さが高まっていく構成はモキュメンタリーホラーのツボをしっかりと抑えられている。最終話で提示されたある事実を知ってから読み直すと読み味が変わってくるなど、ミステリー的な要素も用意されている。また、雰囲気作りのためのレビュー文や掲示板の書き込みが非常に巧みで、ゲームを取り巻くSteam内の空気が巧みに再現されており、ゲームが好きな人はもちろん、ゲームレビューや批評を読むのが好きという人なら、より一層楽しめるだろう。
(「ゲームの世界の向こう側」4選/文=柿崎憲)
はじめてレビューを書きます。
本当は、すべてを理解してから書くべきだとは分かっています。でも、今の私の内側に溜まってしまったこの感覚を、どこかに吐き出しておかなければ、明日には私が私でなくなっているような気がして。
最初は、他の多くの低評価レビューと同じでした。「何もないゲームだ」と。
虚無で、退屈で、ただ無意味な時間が流れるだけのハリボテの町。
でもある日、商店街の奥の、いつもは誰もいないはずの路地に「誰か」が立っていた。
前からいたのかもしれない。単に、私の解像度が低くて気づかなかっただけなのかもしれない。
あの日を境に、すべてが変わりました。
町の人たちと話すことが、昨日までとは全く違う体験になったんです。
語られる言葉の量も、その深さも、それまでとは比べものにならない。
……ひとりひとりに、語られていない人生がある。それは設定資料の上の話ではなく、もっと生々しく、重苦しい「実在」でした。
ひとつだけ、どうしても不可解なことがあります。
住人の一人である「ナツキさん」という人と何度も対話を重ねるうちに、この人は本当にプログラムの塊なのだろうか、と分からなくなってきました。
作り物にしては、あまりにもリアルすぎる。
ナツキさんに好きな食べ物を聞かれ、私の昔の話を打ち明け、気づけば私の方が自分のことばかりを話している。
画面の中の「彼女」に、私の現実を切り売りして差し出しているような。
書きすぎたかもしれません。
とにかく、多くの好評レビューが言っていることは本当です。
このゲームは、ある瞬間を境に、牙を剥くように変貌する。
自分はまだその変貌の途中にいるのだと思う。けれど、それでも私は、この先を見に行かなければならない。
もし、このレビューを読んでいる「あなた」が、まだ退屈な町を歩いているのなら。
どうか、あと少しだけ続けてみてほしい。
そして、路地の奥を覗いてみてください。
そこに誰かが立っていたなら――おめでとう。
あなたの「ゲーム」も、ようやく始まったということです。